日本財団 図書館


2. 海洋温度差発電の原理
 海洋の表層部の温海水と深層部の冷海水との間には約10〜25℃の温度差がある。この海洋に蓄えられた熱エネルギーを、電気エネルギーに変換する発電システムが海洋温度差発電である。
この発電方式には、オープンサイクルとクローズドサイクル、そしてこれらのサイクルを組みわせたハイブリッドサイクルの3つに大別される。オープンサイクルに関しては、ハワイのPICHTRを中心に研究開発が行われ定格出力210 kWの実証実験に成功している(3)。しかし、クローズドサイクルを用いる方が経済的でより大きな出力の発電が可能であることが明らかとなり、近年ではクローズドサイクルを用いた海洋温度差発電に関する研究開発の方が主流となっている。インドの実証試験においても、このクローズドサイクルが用いられている。
 図1に、クローズドサイクル方式を用いた基本的な海洋温度差発電システムを示す(1)。主な構成機器は、蒸発器、凝縮器、タービン、発電機、ポンプからなる。これらの機器はパイプで連結され、作動流体としてアンモニアが封入されている。
 作動流体は、液体の状態でポンプによって蒸発器に送られる。そこで、表層の温海水によって加熱され、蒸発し、蒸気となる。蒸気は、タービンを通過することによって、タービンと発電機を回転させて発電する。タービンを出た蒸気は、凝縮器で約600m〜1000mの深層より汲み上げられた冷海水によって冷却され、再び液体となる。この繰り返しを行うことで、化石燃料やウランを使用することなく海水のみで発電することができる。一方、製造から、運用、破棄までの二酸化炭素排出量の評価ライフサイクルアセスメント(LCA)において、海洋温度差発電の評価は、従来から主にオープンサイクルを用いたシステムについて行われていたためその排出量が多く評価されていた。しかし、近年田原ら(7)によって主流であるクローズドサイクルに対して評価が行われ、クローズドサイクルを用いた海洋温度差発電の排出量が極めて少ないことが明らかとなった(表1)。このような研究成果によって、海洋温度差発電による地球温暖化防止への期待が一層高まってきている。
 このサイクルは、原理的には従来の火力発電や原子力発電と同じであり、1851 年にランキンが確立したいわゆるランキンサイクルを基本としたサイクルである。クローズドサイクルでは、これまでこのランキンサイクルについてのみ研究開発が行われてきた。一方、近年、海洋温度差発電の格段の高性能化を目的とし、従来の純物質を作動流体として用いたサイクルとは異なり、アンモニアと水の混合物質を用いた新しいサイクル(カリーナサイクル、ウエハラサイクルなど)が発明され、海洋温度差発電も新しい段階に入ったと言える。これらのサイクルを用いることにより、従来のアンモニアを用いたランキンサイクルより、熱効率が向上し、伝熱面積の低減化と必要な汲み上げる海水の量が減少することが期待されている。インドにおいても本実証試験が成功した後、実用機においてウエハラサイクルを採用する予定である。ウエハラサイクルについては紙面の都合上、詳細は割愛する(参考文献(1)参照)。
z0001_058.jpg
図1 海洋温度差発電の原理(クローズドサイクル)
 
表1 LCA(1kWh当りのCO2排出量単位)
発電方式 kg-CO2/kWh
石炭火力 0.916
石油火力 0.756
LNG 0.563
水力 0.017
OTEC(2.5MW) 0.119
OTEC(100MW) 0.014
太陽電池 0.153








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION