VI−3. 海洋温度差発電の現状と将来展望について
佐賀大学海洋エネルギー研究センター 池上 康之
1. はじめに
エネルギー問題や環境問題が、地球規模で緊急の課題として取り沙汰されるなか、新しいエネルギー・再生可能エネルギーが注目されている。期待される新エネルギー・再生可能エネルギーのなかで、海洋温度差発電は、特に発電規模、エネルギー密度、安定性、高度な複合利用の点で優れた特徴を有するため国内及び国外で注目されている。
海洋温度差発電は、1881年(明治14年)にフランスのダルソンバール (J.D' Arsonval)が最初に考案したものであるが、本格的な研究開発は、第一次オイルショックを契機として我が国をはじめ、米国、フランスなど多くの国々で始められた。その後、パイロット試験研究が100kW規模で行われてきており、多くの成果が得られている。その結果、周辺技術は広い分野で利用されているが、今日実用化にまでは至っていない。その理由として、(1)海洋温度差発電は初期投資が大きい、(2)海洋温度差発電には多くの方式があるが、これまで有効な方式があまり採用されていない、(3)総合的かつ戦略的な研究開発が不足していた、などがあげられる。これらの問題を解決すべく、海洋温度差発電の研究者をはじめ、実用化を期待する多くに国々の関係者は、1000kW以上での実証プラントの建造を求めていた。従来の100kW規模ではなく実用機レベルの1000kW規模での実証試験が遂行されれば、実用化が推進されるとともに、実用化における諸問題が明らかになるからである。このような状況の中、インド国立海洋技術研究所(National Institute of Ocean Technology : NIOT)と佐賀大学による世界最大規模の1000kW実証プラントの建造のプロジェクトは、1997年の協力協定調印によって始まった。本稿では、このプロジェクトの意義とともに、現状および展望を中心に概説する。
一方、世界の多くの国々では、この海洋温度差発電や波力発電など海洋エネルギーの実用化・普及に向けて我が国の研究成果を利用した研究開発が積極的に行われている。このように海洋温度差発電や波力発電など海洋エネルギーに関する研究分野は、我が国が世界をリードしている分野の一つであり、高く評価されている。我が国においても内閣府の総合科学技術会議(議長:小泉純一郎内閣総理大臣)においてエネルギープロジェクトの重点領域の一つとして「海洋エネルギー利用技術の研究開発」が挙げられている。本稿では、本プロジェクトの内容及び今後の計画についても合わせて概説する。