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3. 波浪発電装置の作動原理
 波浪発電装置は、[1]波エネルギーを利用しやすい力学的エネルギーに変換するための一次変換装置、[2]変換された力学的エネルギーを電気エネルギーに変換する二次変換装置、[3]発電電力を送電または貯蔵するための電力設備、[4]全体を構成する構造物、付帯設備などから構成される。
 一次変換装置については、多種多様の方式が提案されているが、室蘭工業大学近藤教授(現在、(株)沿岸圏システム研究所)らの分類方法3) によれば表2に示すとおりである。この分類方法は、これまで提案された多くの方式を実用化の面から再評価し、設置方式(浮遊と固定)、波動の状態(進行波と定常波)、エネルギー吸収原理(振動水柱と物体運動)の観点から分類したものである。
 波浪発電装置における二次変換装置は、一次変換された力学的エネルギーを電気エネルギーに変換する装置である。変換されたエネルギーが流体的エネルギーの場合には空気タービンや水車と発電機、機械的エネルギーの場合には油圧ピストン、油圧モータと発電機との組み合わせで変換を行う方式が一般的である。
 エネルギーを効率よく利用する場合、できるだけエネルギーの変換行程を高効率で行うか、変換行程を少なくする事が重要であり、波浪発電は一次変換装置を含め昔から多くの提案がなされてきたが、現在までに実機による実海域実験に至っているものは、
[1]空気エネルギーを作り出す振動水柱型
[2]機械的エネルギーを得る物体運動型の振り子式
[3]高所に海水を汲み上げる狭水路越波式
である。次にそれぞれの波浪発電装置の原理と方式及び実海域実験の例を概説する4)
表2 波浪発電一次変換装置の分類
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3.1 振動水柱型
 振動水柱型は、波浪発電の中では最も利用されている方式であり、一次変換装置と二次変換装置が切り離されるため保守点検性に優れ、波浪発電には最も有利であるといわれている。図1に示すように、没水部の一部が開放された箱(空気室)を海中に置くと、ここから入射する波の運動により空気室内の水面が上下に振動する。この水面の振動により、空気室上のノズル(開口)より流出入する往復の高速空気流が発生し、これにより空気タービン及び直結する発電機を駆動して発電を行うものである。このように振動水柱型の場合、波の運動を直接反映した往復の空気流を生じるわけであるが、弁機構を利用して往復空気流を常に一方向からの空気流にして空気タービンを駆動する方式と、ウェルズタービンという、往復空気流中でも常に一方向に回転するタービンを使って、往復空気流をそのまま利用してタービンを駆動する方式がある。ウェルズタービンは波浪発電用に開発されたタービンで、円盤の側面に対称翼を並べた構造になっている。このタービンは整流と原動機機能を同時に行う特性をもった空気タービンであり、前述のとおり往復空気流中でも常に一方向に回転する装置であり、また全体システムが簡素化されることから、振動水柱型の波浪発電装置には広く利用されている。
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図1 振動水柱型空気タービン方式の原理
 本方式の我が国における実海域実験の代表例として、装置を固定した方式では図2に示す運輸省(現国土交通省)第一港湾建設局が山形県酒田港で実験を実施した「波力発電ケーソン防波堤」、浮体式では、図3に示す海洋科学技術センターが現在三重県五ケ所湾で実海域実験を実施中である沖合浮体式波力装置「マイティーホエール」がある。海外においてもイギリス、ノルウェーなどを中心に多くの実験例があるとともに、2000年末は、スコットランドのアイラ(Islay)島で図4に示す世界初の商業用沿岸固定式波浪発電装置(LIMPET : Land Installed Marine Power Transformer, 定格500kW)が電力会社と15年の電力供給契約を締結し運転を開始している5)
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図2 波力発電ケーソン防波堤
 
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図3 沖合浮体式波力装置「マイティーホエール」
 
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図4 LIMPET 500
3.2 物体運動型
 物体運動型は、図5に示す室蘭工業大学が室蘭港で実施した振り子式波浪エネルギー吸収装置の実験が有名である。波の力で物体(振り子)を運動させ波浪エネルギーを機械的エネルギーに変換し、その後油圧ピストン・油圧モータなどを介して電力を得るものである。振り子式装置では、振り子板が波の運動を直接受けることになる。室蘭工業大学の実海域実験の場合、波浪発電用のロータリーベーンポンプを新たに開発し、振り子の運動を回転運動に変換して発電機を運転し発電を行った。
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図5 波浪エネルギー吸収装置
3.3 狭水路越波式
 狭水路越波式は、波が朔上する水路を造り、水路の水深を徐々に浅くすることにより波高を高め、高所に海水を汲み上げて貯水し、貯水した海水は水力発電と同じように水の落差を利用してタービンを作動させ発電する方式である。この方式は波の変形を利用しており、前述の振動水柱型,可動物体型とは波浪エネルギーの利用方法で大きく性質が異なり、装置が波の往復運動の影響を直接受ける事はなく、波の時間変動についてもある程度吸収することができる。
 この方式としては、図6に示すノルウェーで実海域実験が行われたTAPCHAN(Tapered Channel:狭水路越波型)がある。TAPCHANのシステムは長さ90mの先が狭くなる水路で波高を増幅し、背後の約8,500m2の貯水池に海水を貯め、低落差タービンと発電機の組合せにより定格出力350kWで発電を行った。
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図6 狭水路越波型(TAPCHAN)波浪発生装置








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