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3. 解撤をめぐる世界の動き
 国際海事機関の海洋環境保護委員会(MEPC; Marine Environment Protection Committee)はタンカー事故による深刻な海洋汚染に対処するために設けられた機関である。1991年に日本は海洋環境保護委員会に文書"The development of the ship scrapping on a world-wide basis"を提出し、世界規模で解撤の問題を議論する必要を指摘した。この文書は決議になったが、直ちに議論が盛り上がることはなかった。
 その後しばらくしてNPO等の活動がはじまり、1997年になるとオランダを中心に国際会議が計画がされ、1998年11月にFirst International Ship Scrap Conferenceがオランダで開催された。
 1997年12月、米国ボルチモアのThe Sun紙が解撤現場のルポルタージュを連載してピューリッツァー賞を受賞したことで(6)、解撤問題が広く一般に知られるようになった。
 米国は第二次世界大戦以来、有事に備えて多数の艦船を蓄えてきたが、最近はその艦船の老朽化が激しく、米国各地で解撤されていた。The Sun紙は、設備が乏しい解撤ヤードで不法入国者を使い解体するので、死亡事故などの労働災害や油汚染などの環境破壊を多発している解撤現場の実体を報じた。さらに、インドの解撤ヤードにも売船したが、そこはさらにひどい状況であることを伝えた。この問題は直ちに議会で取り上げられ、公聴会が開かれ、調査や研究が始められ、同時に米国の軍艦は海外に解撤売船しないことも決められた。
 解撤問題への船主側の関心は強く、国際海運会議所(ICS; International Chamber of Shipping)は1999年1月の理事会で解撤問題の作業部会(WG)をつくり、次の作業を行うこととした。
[1]解撤時の環境への配慮と解撤の円滑な促進を柱にした船主の自主的な行動指針の作成
[2]船舶に含まれる有害物質のリストの作成
国際海運会議所はその結果をもって海洋環境保護委員会に提案することとした。
 1999年にはMARE FORUM 99に併せてオランダ運輸公共事業省主催の1st Global Ship Scrapping Summitが開催された。この会議は途中でShip Recycling Summitと改称されたが、オランダやEUの政府関係者、船主、造船、船級協会、NPOなど160名が参加した。主な問題は次のようなものであった。
[1]解撤問題を現状のまま放置できず、何らかの対応が必要である。
[2]解体しているアジアだけでなく、国際的な解決策が必要である。
[3]バーゼル条約は解撤船を対象としたものではないが、国際海事機関の海洋環境保護委員会で検討するのが適当である。
[4]造船業の参画が重要である(Ready for Scrapping証書を発行する案)
[5]新造船対策が必要であり、設計段階から解撤を考慮する。
[6]自主規制と条約化を並行して進める必要がある。
[7]解撤の技術援助を行うための基金を設ける。
 会議では現状を放置できないとの認識ではほぼ一致していたが、その他の点では合意が得られなかった。第2回の会合は2001年6月にアムステルダムで開催された(7)
 なお、国連環境計画(UNEP; United Nations Environment Programme)のもとで結ばれたバーゼル条約は有害廃棄物の輸出を禁ずるものである。船舶には大抵何らかの有害物質が使われいるので、解撤売船がバーゼル条約に違反するか否かが問題となり、国連環境計画では解撤問題を技術的側面と法的側面について検討することになった。技術的側面については環境にやさしく安全な解撤のためのガイドラインを作成することになり、2002年12月の第6回締約国会議をメドに作業中である(8)。法的側面では解撤船の輸出入に対して同条約を適用する際の問題点の検討作業が行われている。なお、国際海事機関のオニール事務局長は、労働安全の問題は国内問題であるとの見解を示しているが(9)、国際労働機関(ILO; International Labor Orgnization)が関与する。
 1999年の海洋環境保護委員会の会合(MEPC43)でノルウェーから解撤問題を議題に取り上げるよう提案があり、2000年3月の会合(MEPC44)では今後とも検討していくことが決まった。さらに、国際海事機関とも協力して解撤を環境にやさしく、かつ適切に管理するガイドラインを策定することが決まった。また、解撤船のバラスト水に対する取り組みの必要性も指摘された。コレスポンデンスグループが設置され、次の付託事項が決定した。
[1]現在のリサイクル手法に関する情報収集
[2]現在のリサイクル手法の安全性及び環境リスクの明確化
[3]政府及び産業によって行われているリスクの低減法の情報収集
[4]ILO、バーゼル条約及びロンドン条約の事務局及び関連産業から、船舶のリサイクルに関して受け取った情報を精査する。
[5]IMOが上述のリスクを有効に低減できる範囲に関して意見をとりまとめる。
[6]MEPC46においてコレスポンデンスグループの報告を行うこと。
 さらに、海洋環境保護委員会ではコレスポンデンスグループに次の事項を付託し、検討結果は2001年11月の会合MEPC47で報告された(10)
[1]シップ・リサイクリングの関係者および役割の確認
[2]シップ・リサイクリングにおけるIMOの役割の確認
[3]シップ・リサイクリングに適用可能な既存の国際または国内、および業界等の基準またはガイドラインの確認
[4]MEPCでの更なる協議に向けて可能な活動範囲を示し、それぞれのオプションの長所と短所を確認すること
 国際機関などの動きが活発化するに及び、日本では日本船主協会、日本造船工業会、船舶解撤企業協議会の代表よりなるシップ・リサイクル連絡協議会が発足し、2000年10月31日に初会合を開いた(11)。主な活動は次の通りである。
[1]船舶リサイクルの基本方針策定、
[2]解撤に関する各種情報の収集・提供、
[3]解撤や環境問題に関する国際条約・国内法令への対応、
[4]解撤や環境保全の技術の調査・研究・開発、
[5]国際的技術協力の検討、
[6]内外解撤業界に対する諸施策や国際機関への提言
 なお、協議会では国際海運会議所のシップ・リサイクリング作業部会が策定している行動指針の検討など、国際機関の動きに応じた活動や、資源の有効利用、有害物質の排出抑制、解撤の需給バランス、外国の解撤事情の把握などの活動を行っている。
 シップ・リサイクル連絡協議会は中国に調査団を派遣して解撤ヤードの現状を調査し、2001年12月の会合で報告した。中国の解撤ヤードでは環境や安全に配慮されており、鋼材の需要があるなど解撤が盛んになる条件がそろっているので、今後は解撤問題における中国の役割が大きくなるとの見通しを発表している(3)
 国際海運会議所のシップ・リサイクリング作業部会は2001年2月の会合で危険物リストの中には把握しにくいものもあるため、日本の海運界と造船界に協力を要請してきた。それに対して、日本船主協会は、同作業部会の原案では150〜200項目もあるので、多すぎて実行の可能性に疑問があるとの見解を表明した(12)








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