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2. 主要解撤国の変遷
 解撤業者は購入した解撤船を解体し、船体から回収した鋼材を売却して解体費用などの経費を出し、利益を得る産業である。かつて日本でも解撤が盛んに行われ、第二次世界大戦の前後でそれぞれ世界一の解撤量を誇り、解撤で発生する再生鋼材は産業の発展に大きな寄与をした。しかし、解体作業が非常に労働集約的に行われるので、人件費が高くなるにつれて日本では成り立たなくなり、やがて台湾や韓国に主役の座を譲り渡した。それも長くは続かず、次第に南アジアのインド、パキスタン、バングラデシュに中心が移り、現在はそれらの国に中国が加わって主要解撤国になっている(1)
 解撤の中心が外国にシフトすると、(財)船舶解撤事業促進協会は英文の解撤技術の教科書を発行するなどで解撤技術の普及につとめた(2)。解体には海岸に船舶を乗り上げさせて順次解体するビーチング方式、岸壁に係留して解体する方式、ドックに入れて解体する方式、船を一隻陸揚げする方式などがあり、それぞれ特徴がある。ビーチング方式は船内の残留油による海洋汚染が防止しにくい欠点が指摘されている。日本の業者が海外進出して解撤しているが、岸壁方式が多いようである(17)。日本はODAでインドのピパバブにドック方式の解撤ヤードを建設し、海洋汚染防止対策、高能率、安全などの点で好評を得ている。日本のシップリサイクル連絡協議会が最近調査した中国の解撤ヤードは岸壁方式であった(3,4)
 現在、日本でも10社内外の解撤業者が営業を続けている。日本では人件費がかかるほか、設備や装置の経費、環境対策費、漁業補償費などの出費が多く、発生材のうち屑鉄しか需要がないので、なかなか経営が困難である(5)。まともに解撤船を買い取って商売するのは難しいとの声がある。しかし、解撤は老朽化だけでなく、政策的に行われることもあり、官庁船や国内の内航船の解撤も行う必要があるので、解撤業は不可欠な産業である。そこで、日本では(財)船舶解撤事業促進協会を通じて、解撤船買い取りのための融資の金利や船の大きさに応じた助成金を交付しているが、現在は利率が低いこともあり、なかなか業者に強力なモーティべーションを与えるに至っていない。
 鋼材の生産量が少ない国には解撤で回収される鋼材が有用であり、解撤業がつくり出す雇用も魅力的である。そのような事情から解撤に奨励策をとっている国もある。パキスタンは解撤船にかかる関税を最近引き下げたと伝えられる。中国では輸入解撤船にかかる付加価値税(VAT, 17%)を還付することになった(4)








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