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IV−1. バラスト水の問題
(財)シップ・アンド・オーシャン財団 工藤 栄介
協力:(社)日本海難防止協会 菊地 武晃
1. 背景
 海洋油汚染等については日時の経過とともに環境的に回復するが、海洋生態系が破壊された場合には回復が極めて困難なこともあり、外来種の侵入・帰化による既存の海洋生態系の破壊・撹乱が、地球規模の環境問題としてクローズアップされている。海洋汚染問題としてとらえている国も少なくない。
 一例として、古くから発生していた有害プランクトンが、近年多発化・広域化する傾向がみられ、発展途上国を中心に世界各地で話題になっている。原因の一つとして、船舶によるバラスト水中有害プランクトン移動機会の増加があるが、以下のものも原因として挙げられている。
*魚介類養殖漁業振興による生産量拡大 ⇒ 魚介類の大量斃死・毒化機会の増加
*沿岸開発に伴う環境変化 ⇒ 有毒プランクトン増殖機会の増加
*養殖魚介類の移植 ⇒ 魚介類に付着の有毒プランクトン移動機会の増加
*問題発生への関心の高まり ⇒ 情報量の増加
*地球規模の環境変化(エルニーニョ、地球温暖化等)
 国際的対応としては、国連海洋法条約第196条で、いずれの国も、海洋環境の特定の部分に重大かつ有害な変化をもたらすおそれのある外来種又は新種の当該部分への導入を防止し、軽減し及び規制するために必要なすべての措置をとるべきことが規定されている。生物の多様性に関する条約第8条においても、可能な限り、かつ、適当な場合には、生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅することを行うよう規定されている。また、1992年国連環境開発会議(UNCED)(地球サミット)におけるリオ宣言基本方針も、環境保護のための予防的方策の各国による適用並びに深刻な環境悪化を引き起こす、あるいは人間の健康に有害であるとされているいかなる活動及び物質も、他の国への移動及び移転を控えるべく、あるいは防止すべく効果的に協力すべきことを呼びかけている。
 多種多様な水生生物がヒッチハイカーとして内在するバラスト水の漲排水による外来種の越境移動によるものと考えられている生態系撹乱や経済・健康面への被害事例が数多く報告されており、上述1992年UNCEDは、国連の国際海事機関(IMO)に対し、バラスト水排出規制採択の審議を要請している。
 港及びその付近におけるバラスト水排出(外来生物放出)の全面的禁止こそが好ましくない種の拡散を抑制するための効果的方法であるが、バラスト水漲排水は、空船航海中のプロペラ効率及び舵効確保、荒天時のスラミング回避、入港/荷役時喫水調整、エアードラフトの調整等、船舶の安全・効率的運航及び荷役作業遂行のための必須要件である。








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