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IV. 船舶に起因する海洋環境問題
(財)シップ・アンド・オーシャン財団 工藤 栄介
 
 タンカーの大型化の歴史に見るように、船舶の海難が偏に海上の人命の安全の問題から、それによって引き起こされる爆発、海洋汚染といった第三者災害の問題に比重が移ってきたのは高々21世紀後半においてである。また、海洋が地球と同じ意味で語られるようになった今その環境問題の元凶がむしろ陸域にあることも認識されるようになってきた。
 さて海上物流はその量の増大もさることながら、途上国海運の伸長など世界的に大きく変化しつつあり、これに伴って船舶が及ぼす海洋環境への影響も多様化している。又、リサイクル、環境保全などを視野に入れた物作りが一般化しつつある中で、船舶も決してそれから逃げることは出来ない。
 このような潮流にあって、船舶起因の環境問題に求められる次のパラダイムづくりは何かをここで整理することにした。約めて云えば事故時の海洋汚染問題から通常運航時の海洋汚染、船舶に内包されるより広汎な高次元の汚染源対策問題である。
 本節では船舶バラスト水問題、船舶排ガス問題及び船舶解撤問題を詳述している。これ以外としては環境ホルモンの原因とされる有機錫系船底塗料、客船等多人数積載船の汚水があるがこれらは既にIMO(国際海事機関)において規制の枠組みがセットされているため割愛することとした。以下前3項目について纏めを行う。
(1)船舶バラスト水問題
 バラスト水中に含まれる有害プランクトンの国際的な移動が、移入される国の生態系を破壊するとして資源輸出国(豪州など)から指摘されて20年以上にもなる。特に生物多様性条約発効後、本問題がクローズアップされるようになった。
 バラスト水を注入・排水せずして船舶の運航は考えられないことから、如何に注入水の処理を行うか、外洋の海水と交換するか、現実にはこの二つの選択肢しかない。その範囲で国際的な規制の論議が今後展開されるとしても、生物移動の実態が判明しておらず、情報公開及び各国専門家の情報交換も不十分という状況を考えれば、実効性のある規制スキームが直ちに出来るとは思われない。
 以上のことから、本件にかかる政策提言課題として次のテーマを集中的に検討する必要がある。
[1]世界共通のデータベースの構築
 バラスト移出入国において、注排水海域の生物調査と水中プランクトンなどのデータ交換を制度的に行い、これを世界的レベルに敷衍することによって科学レベルでの対話が可能となる。現在は各国の科学者・専門家同士が話し合うメカニズムは構築できていない。
[2]暫定処理基準の策定と処理システムの開発
 現在の最高の知見を以て暫定的かつ合理的な処理基準が定まれば、これを目標に処理技術・システムの研究開発が推進されると思われる。
[3]船舶設計、輸送システムの研究
 バラスト水が減容化或いは不要化される船舶設計には、その非現実性があまりにも明白であるため、挑戦されるところとなっていない。船体開口部や構造を工夫し常時循環的にバラスト水が交換、又は浮力を消失させる船舶の設計が出来ないものだろうか
(2)船舶排ガス問題
 地球温暖化問題は京都会議(COP3)議定書の発効を巡って、当面各国が温室効果ガス(GHG)の排出削減計画を立てる段階までになってきている。しかしながら、外航船からのGHG削減は、国別の削減割り当てが相応しくないことから同議定書の対象ではなく、IMOで削減方策を検討することとされている。2002年3月、IMO本部で開催されたMEPC47(第47回海洋環境保護委員会)では、船舶から排出されるGHGの削減についてワーキンググループを設置して検討された。我が国の内航船からのGHG削減は、地球温暖化対策推進大綱の中でエネルギー消費効率の向上を図る等の対策が示されている。
 一方、酸性雨の元となる窒素酸化物(NOx)及び硫黄酸化物(SOx)に関しては、1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書(MARPOL73/78)附属書VIが採択され、2000年1月1日以降基準に合致したエンジンが使われ始めている。(条約未発効のため強制化はされていない)
 船舶排ガス問題は、地球規模の温暖化防止と地域性の高い酸性雨対策の両面がバランスよく検討されなければならない。以下、それぞれの政策提言課題を列挙する。
[1]温室効果ガスの削減に関するもの
・省エネ技術の導入
・内航海運に関してはスーパーエコシップ(環境低負荷次世代内航船)の導入
・運輸部門全体でGHGを削減するためにモーダルシフトの推進
・海運事業者等がこれらの対策を行い易くするための税の軽減措置や環境税等の導入
・将来は、重油に比べ炭素含有量の少ない燃料への転換
[2]NOx及びSOxの削減に関するもの
・MARPOL73/78附属書VIの早期批准、早期発効
・燃焼改善技術等の積極的な導入
・低硫黄燃料への転換
・接岸時(荷役中及び停泊中)に陸上電源を使用
・海運事業者等がこれらの対策を行い易くするための税の軽減措置や環境税等の導入
(3)船舶解撤問題
 船舶解撤事業は、その採算性が主としてスクラップの価格と解撤労働コストの二つの要因によって決定するので、実際は途上国でしか成立しない産業になっているが、近年解撤に伴って発生する海洋汚染、労働環境、有害物質の越境の問題などから、新しい国際秩序づくりが模索され始めた。
 平易な表現になるが、これまでの作りっぱなし、使いっぱなしから、該船の解撤まで船舶の一生に亘って海事関係者が責任を何処までとるべきかが問われている。
 造船・海運先進国を標榜してきた日本がイニシアティブを十分果たせる分野でもある。以下政策提言課題を列挙する。
[1]リサイクル、リユースを考慮した造船設計
[2]船舶に設備される危険物のリストの標準化
[3]解体技術の改善、近代化
[4]回収材料の流通経路の開発
[5]世界規模での解撤資金預託制度
[6]解撤技術の向上と技術認定制度








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