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4. 法遵守のアピール
4.1 第二次大戦の経験
 我が国軍隊その他は、第二次大戦及びそれに先立つ中国との間の武力紛争において多くの武力紛争法違反を行い、その内には戦争犯罪が少なからず含まれていた。かかる行為のため、我が国は第二次大戦後も長期にわたり継続して非難され、我が国の信頼性は著しく損なわれている。
 今後我が国を当事国とする武力紛争が生じるか、あるいは、我が国が非当事国であっても武力紛争法や中立法と関連する事態に関わる場合に、厳格に法を遵守する姿勢を見せることが信頼の回復のため肝要である。
4.2 海洋法・海戦法規教育の拡充
 西欧先進国においては、海洋法や海戦法規を含む国際法に関する一定の専門的知識を持つ士官を組織的に養成してきた。こうした士官は、武力紛争その他の事態が生じる場合には、指揮官のスタッフとして活躍する(19)
 我が国自衛隊においても従来より国際法教育が実施されてきたところであるが、その状態は必ずしも満足すべきものではない。一般の士官においても、海洋法、海戦法規を含む武力紛争法、及び中立法についての一定の水準の知見は必要であり、法務担当士官にあってはさらに高度な知識を要するが、そのような知見を備えた者は多くはない。
 伝統的に海上自衛隊は、国際法教育を重視してきたとされるが、なお十分とはいえない。陸上自衛隊及び航空自衛隊は、特定の事項を除き、国際法に関心を有していなかったように見える。もっとも、陸上自衛隊においては、近年、専門的知識を有する士官の組織的養成に着手しており、彼らの今後が期待される。法遵守を確保するためには、中核となる法務担当士官の教育の一層の拡充が急務である。
 こうした教育は、自衛隊のみならず、警察及び海上保安庁といった警察機関構成員にも必要である。警察機関は、武力紛争において原則として敵対行為から保護されると考えられるが、逆に、警察機関が武力紛争相手国軍隊に対し一定の行為をなせばその保護は奪われる。警察機関が行いうる行為の限界に特に着目した教育が必要である(20)
4.3 武力紛争等における法制の整備
 我が国はながらく武力紛争等の事態に対処する国内法制の整備を怠ってきた。特に、戦争犯罪人処罰のための国内法が未整備である。我が国が国際法上戦争犯罪人を処罰しなければならない事態が生じたときに、国内法の不備からこれをなしえなければ、我が国の信頼性はさらに低下するであろう。
 現在、有事法制の整備作業が行われている。陸海空における自衛隊の効果的行動を促進するための法整備は好ましいことであるが、武力紛争の事態とそれ以外の事態の法的相違に十分な配慮をし、また、我が国及び紛争相手国の文民、民用物その他の保護対象の実効的保護の確保に力点をおきつつ、新法体系を関連条約の実施のため遺漏のないものとしなければならない。
4.4 海洋法・海戦法規作戦教範の公表
 法遵守の姿勢をあらわす手段の一つとして、自衛隊の国際法に関する作戦教範の公表が考えられる。現在、陸海空の自衛隊にこの種の教範があることすら明らかにされていない。従って、防衛出動等に際して、自衛隊がいかなる規則を現行国際法として認識し、それに基づき行動するかは不明である。
 個別の作戦行動における交戦規則(rules of engagement, ROE)の公表までも必要であるとは必ずしも思えない。しかしながら、一般的な国際法教範の公表は、そのようなものがあるとすれば、法遵守のアピール及び自衛隊の行動に対する有効な統制の観点から実現させるべきである。
 諸外国においては、この種の教範を公表していることが少なくない(21)。これを参照することで、自国軍隊の行動に対し自国がいかなる国際法的制約を課しているかを国民は承知することができ、従って、そこに問題が存在するなら議論が提起できるようになっている。多くの国は、この種の教範の公表によって、自国軍隊の行動に不利益が生じるとは考えていない。








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