3. 海外諸国の21世紀海洋ビジョン
ところで、海外諸国では21世紀の海洋ビジョンをどのように論議しているのであろうか。まず、アメリカであるが、クリントン政権の末期の1998年(この年は国連の定めた国際海洋年であった)6月にNational Ocean Conferenceを開催して国家的海洋政策の必要性を提示し、これを受けて、「Turning to the Sea:America's Ocean Future」という大統領に対する報告書(65ページ)が1999年9月にまとめられた。同報告書は、海洋からの経済的恩恵の持続、国際的安全保障の強化、海洋資源の保護、海洋の探求という4つの大項目のもとで計25項目についての取り組みを提示している。こうしたビジョンの提示こそが、われわれの調査の参考としなければならない基本姿勢であろう。
その後、海洋政策審議会(Commission on Ocean Policy)の設置とアメリカの海洋政策の包括的見直しと勧告、提言を、期限を決めて求める法律「The Ocean Act of 2000」を制定した。これにもとづいて上記の審議会(Watkins議長)が現在、精力的な活動を展開中である。その動向は逐一、ホームページで知ることができるが、表2に示すような4つの分科会で計23項目について網羅的な論議を進めている。審議会設置については、今日のアメリカの海洋に関する行政機構、法制度、研究開発そして産業振興のすべての基点となった1969年のStratton委員会(議長の名前が付けられている)およびその報告書をなぞらえて、その21世紀版審議会とみなされている。というのは、Stratton報告にもとづいて1970年に連邦政府に海洋大気局(NOAA)が設置され、沿岸域管理法(1972年)などの一連の関連法制整備が着手された歴史があるので、21世紀のあり方を今次審議会で明らかにしようとの位置付けがなされているからである。
カナダでは、アメリカより少し前の1997年に海洋基本法を制定するとともに、海洋政策全般の議論のタタキ台として、Toward Canada's Ocean Strategyがまとめられている。本文わずか19ページの小冊子だが、簡潔に大綱方針を示している。
オーストラリアでも同じ1997年にMarine Industry Development Strategyと題する海洋産業科学審議会報告書(約50ページ)が発表されている。
近隣諸国では、中国が1994年にまとめた中国AGENDA 21の海洋版として「CHINA OCEAN AGENDA 21」 を1996年に発表している。これは後述する国連環境開発会議におけるAGENDA 21の方針にもとづいて同国の国家海洋局(SOA:State Oceanic Administration)を中心にまとめたものであり、包括的な海洋利用と保全の国家方針を示している。
さらに韓国では、「OK(Ocean Korea)21」が1999年12月に公表されている。これに先立って、同国の海洋水産部(日本の省にあたる)が1996年に「21世紀海洋水産ビジョン(1997−2011)」を発表しているが、OK21では、自ら海運強国、水産大国、海洋科学技術国家、海洋環境国家を基本コンセプトとしている。全文約230ページにわたる大部のビジョンだが本格的な海洋国家たらんとしての意欲と目標を掲げている点が注目される。
なお、国際的には、1994年に国連海洋法条約が発効し、わが国も1996年にこれを批准して当事国となったわけだが、同時に国内法の整備に着手し、200海里排他的経済水域(EEZ)の設定および大陸棚関係の国内法を制定したほか、水産資源についての漁獲可能量を定めて管理するための、いわゆるTAC(Total Allowable Catch)法も制定した。しかし、前者のEEZ及び大陸棚法は全文5条で、国内法の適用を示すにとどまる内容で、海洋の開発、利用、保全に関する基本法とは言い難い。したがって、今日の時点で、いかにわが国の周辺海域を調査し、開発利用し、保全していくのかについての国家的方向付けはなされないまま21世紀に入っていることになる。
さらに1992年リオデジャネイロで開催されたUNCED(国連環境開発会議)では“Sustainable Development”の概念が打ち出され、環境と共生した持続的開発でなければならない旨の思想が提起されたが、この思想はいまや普遍的思想として世界的に普及、浸透しているところである。ちょうどこのリオ会議から10年経過した今年、2002年に南アフリカのヨハネスブルグでRIO+10国際会議が予定されている。10年間の各国の取り組みを検証し21世紀の方向付けをしようというのがその趣旨であるが、海洋・沿岸域のあり方が持続的開発の上では重要であるとの観点から、2001年12月UNESCO本部でヨハネスブルグでの本会議向けの会合が催された。というのは、本会議では海洋・沿岸域問題が正面からは取り上げられてないからである。いずれにせよ、世界の海洋関係機関では21世紀の海洋・沿岸域の利用と保全のあり方について真剣な論議がなされており、ビジョン論議の上では、こうした世界的潮流は重視しなければならない。
このほか、生物多様性条約あるいはCO2の排出規制を定めた京都議定書などの国際的動向もまた無視できないものであることは言うまでもない。
表2 米国海洋政策審議会分科会構成
分科会 |
審 議 事 項 |
研究・教育・海洋オペレーション |
海洋環境に関する知識の拡大 |
健康に対する影響を含む、気候変化における海洋の役割 |
海洋オペレーションおよび観察 |
海洋教育(K-12以上の教育) |
学問を含む海洋研究 |
海洋および沿岸調査 |
管 理 |
海洋資源および沿岸資源の管理
*漁業
*海洋保護種
*海洋保護区
*サンゴ礁 |
海洋環境保護および海洋汚染防止
*水質
*海洋ゴミ |
ガバナンス |
連邦事業 |
州政府と連邦政府の統合努力 |
連邦法規の累積効果 |
連邦、州、地方政府と民間セクターとの関係 |
連邦法と連邦機関構成との調整 |
既存の連邦政府機関間の政策調整の効率化 |
海洋法およびその他の国際問題 |
人命および財産の保護 |
政府機関間の密接な協力 |
海洋および沿岸活動における米国のリーダーシップ |
投資・開発 |
海上通商の拡大 |
海洋資源および沿岸資源に対する需要と供給
*ツーリズム
*非生物資源
*エネルギー
*バイオテクノロジー
*養殖 |
新製品および技術への投資の機会 |
エネルギーおよび食料安全保障を促進する技術への投資 |
設備(人、船、コンピュータ、衛星) |