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4. ビジョン調査テーマ選定の基本方針
 以上のような状況を踏まえて、今回このビジョン調査を進める上で委員会での基本方針としたのは、次の諸点である。
 第一に、まだ他ではあまり本格的に取り上げていないテーマで21世紀の海洋問題を考える上で不可欠のテーマに取り組むこと、である。たとえば「海上交通と安全保障」がその好例である。海洋開発分科会答申案でも真正面からは取り上げられていないようであるので、ここで取り上げた意義は大きい。全ての海洋関係者に読んでいただくことを期待するとともに、今後の実のある議論に一石を投じたものと考える。また、「海洋エネルギー利用」についても、ブームの風力発電の海洋展開に関する展望と課題をきちんと整理するよう試みた。海洋エネルギー利用が、自然エネルギー利用への転換という大きな潮流の中でどのような位置付けとなるかを改めて論じる必要性を認識したのがテーマとして取り上げることとした理由である。
 第二は、他で取り上げられているテーマであってもはずすことのできない重要なテーマについてはこれを取り上げることにするが、多角的な視点からのアプローチを試みるよう心掛けたことである。「沿岸域総合管理」や「水産資源管理」がその典型例である。沿岸域管理については日本沿岸域学会が「2000年アピール」を提言したほか、海岸法、漁港法、港湾法などの相次ぐ改正と絡んで、関係省庁での委員会における論議や意見書が公表されている。水産資源管理については法制度的な側面と資源管理の本質を論じる視点を大切にした。
 第三は、どのようなテーマを取り上げるにせよ、問題提起型のまとめを試みるということである。したがって、いささか大胆な、あるいはこれまでにない新しい視点の提示ができるものについては、恐れることなくそれを前面に押し出すようなまとめをするということである。沿岸域管理における提案内容や「次世代海洋構造物」、「海洋横断輸送システム」などがその代表例であろうし、他のテーマ論考においてもいくつかの問題提起や提言がちりばめられている。
 第四は、21世紀において重要なテーマになってくるであろうテーマを当委員会独自の見方で出し合って、絞り込んでいく方法を取ったことである。まず包括的な視点として、図2に示すように、「空間利用・環境・資源」の三つを柱とし、「基盤」関係を基礎部に位置付けて検討を重ね、それを念頭におきながら委員から出されたテーマとの相互連関を討議し、練り上げていくことにした。さらに、その図2を作成して行く過程で、図3に示すような「海洋ビジョン関連図」を作成して参考とした。これは、期せずして前述の20年前の答申に示されている前出の相互関連図(図1)ときわめて似たかたちとなったが、テーマ選定のための項目をすべてリストアップして整理しようと試みたところ、こうした図となったのである。需要の源泉と将来展望を探る上では、同様の思考プロセスを経ることになる証左といえよう。両者を並べてじっくり見ていただければ、一層、その意義も認識していただけるものと考える。
いずれにせよ、今年度、抽出したテーマは次のようである。
・ 海上交通と安全保障
・ 21世紀型海洋横断型輸送システムへの脱皮
・ 船舶に起因する海洋環境問題
・ 次世代海洋構造物
・ 海洋エネルギー利用のビジョン
・ 水産資源の総合管理
・ 沿岸域の総合管理
・ 海洋・環境教育の現状把握と今後のあり方
 それぞれ委員自らが関係のテーマを執筆したが、外部専門家の協力が必要なものについては別途執筆依頼をしてとりまとめた。これら以外のテーマももちろん重要性においてかわりがないものが多いが、今回は上記のものに絞り込んで作業した。今後はこれらの深堀りを必要とするものと、今回取り上げなかったテーマについての作業の両面が要請されるであろう。
 それにしても、本海洋ビジョン調査報告書が関係方面の多くの方々の目に触れ、読まれ、そして海洋・沿岸域の開発、利用、保全に関する諸活動の活性化の手がかりを提供することができるよう願ってやまない。そのためにも、読者諸侯の大いなる意見とコメントが寄せられんことをお願いし、人類と海洋の共生に関する内容の充実した論議と本格的プロジェクトの実行への道筋がつけられるように、いささかの寄与ができれば幸いである。
提案テーマ
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図2 21世紀における我が国の海洋ビジョンに関する調査研究
 
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図3 海洋ビジョン関連図(1)
 








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