事例11〜18 その他の流出事故
(1) 事例11 キシレン事故(その1)
12月中旬、ドイツ ハンブルク港において、イタリア籍のケミカルタンカー(5,045総トン)が、荒天下の夜間0時45分頃パラキシレンを積込中、船首が離岸方向に押し出され、25cmの荷役用ホースが破れてパラキシレン約1,000Lが流出した。一部のものは吸着・回収されたが、大部分は泊地に流出した。
本船は約8時間遅れて英国向け出港した。
パラキシレンは引火点25℃、爆発限界(容積%)1〜7%の芳香族臭のある無色の液体であり、水より軽く水に難溶である。蒸気は空気よりも重く低所に滞留しやすく、また、爆発性混合物を形成しやすい。有害液体物質のC類物質である。
(2) 事例12 キシレン事故(その2)
6月中旬の早朝、カナダのセントローレンス運河のアイゼンハワー閘門に、バハマ籍のケミカルタンカー(11,598総トン)が衝突し、NO.1右舷タンクの水面上3mに亀裂を生じ、キシレン50ガロン(約200L)を流出した。同タンクの残貨は他のタンクに移送された。
防除作業開始にあたり、半径2分の1海里の範囲が避難対象となった。
キシレンは、オルトキシレン、メタキシレン及びパラキシレンに大別される。引火点はオルトキシレンが17℃、メタキシレン及びパラキシレンは25℃、爆発限界(容積%)はいずれもおおむね1〜7%である。芳香族臭のある無色の液体であり、水より軽く水に難溶である。蒸気は空気よりも重く低所に滞留しやすく、また、爆発性混合物を形成しやすい。有害液体物質のC類物質である。
(3) 事例13 スチレンモノマー事故
2月下旬朝、ブラジル サントス港において、リベリア籍のケミカルタンカー(14,962総トン)が港内移動中、水中の浮流物と接触し、左舷NO.3タンクに破口を生じ積荷32トンが流出した。
サントス市内及びその周辺では、薬品の臭いが漂うとともに港内は汚染された。
スチレンは前述のとおり、無色で特有の強い臭いを有する液体で、水に不溶、流出すると水面に浮かんで蒸発する。有害液体物質のB類物質である。
(4) 事例14 テトラクロロエチレン事故
4月初旬メキシコ湾において、ノルウェー籍のケミカルタンカー(17,561総トン)が航行中、乗組員が空タンクのタンククリーニングの際に人為的ミスにより、ドライクリーニングの溶剤として使用されるテトラクロロエチレンを18,000ガロン(約68KL)船外排出した。同溶剤は、メキシコ湾のエビ採取海域に流出した。
同溶剤は、速やかに90フィート水深の海底に沈降するものと予想され、連邦及び州の環境担当者が流出物のモニタリングを2日間にわたり実施した。
テトラクロロエチレンはクロロホルム臭を有する無色の液体で、水よりも重い(比重約1.6)。また、水に不溶の塩素系有機溶剤で、有害液体物質のB類物質である。
(5) 事例15 分解ガソリン事故
1月中旬の夜中の1時頃、米国ミシシッピー川の上流142.7海里の地点において、ニューオリンズからバトンルージュ向け航行中のリベリア籍のケミカルタンカー(15,377総トン)が操舵不能に陥り穀物バージと衝突した。さらに、乗り揚げを起こし、左舷船首の喫水線上に変形を生じるとともに、NO.1左舷貨物タンクに1mの破口を伴う損傷を被った。
この事故により、ケミカルタンカーから約5,800ガロン(約22KL)の分解ガソリンを流出した。
乗組員は損傷タンクの貨物を他のタンクに移送するとともに、破口部を閉塞した。
事故発生地近傍の町の住民200名以上が一時避難した。
その後ケミカルタンカーは離礁したが、コーストガードは防除作業中、一時的にミシシッピー川の134マイル地点から145マイル地点までを進入禁止とした。
分解ガソリンは、ナフサ分解によってエチレンと併産される生成物であり、ベンゼン等の芳香族系炭化水素の含有量が大きい。ベンゼン、トルエン、キシレン等の抽出原料となる。ベンゼンは非常に揮発性が高く、かつ、引火しやすい。
(6) 事例16 硫酸事故
9月初旬、オーストラリアで硫酸12,000トンを積載したマルタ籍のケミカルタンカー(12,909総トン)が、南アフリカのダーバンを経由し、ブラジルのリオグランデに入港着桟中、積荷を船外に流出させた。その結果、海水による貨物汚濁を起こすとともに、船体は着底した。さらに、ポンプ故障による硫酸のダクトキールへの漏出から、船体内部損傷を起こしポンプ室、機関室が浸水した。
3,000トンの硫酸は陸上にポンプ移送されたが、その後の陸上への移送は失敗し、港内海上へのポンプ排出が続行された。当初、船舶の港内への進入が禁止された。
本船乗組員は退船し、ブラジル海軍及びサルベージの専門家が到着した。
その後、港内交通が平常状態に戻り、アルゼンチン海軍の6部隊が入港し、本船の近傍に係留したが、可能なサルベージ作業については判明しなかった。この間に本船の燃料油は陸揚げされた。
流出した硫酸は、絶え間ない豪雨と、Lagoa dos Patos湖からの膨大な量の外洋への流水により速やかに放散された。
船内には約3,000トンの海水により汚濁された硫酸が残された状態で、事故9日後、当局の判断により船外への排出は中断された。
事故2週間後、海事化学専門家及びブラジル人専門家を含むサルベージ班が到着するとともに、15トンに及ぶサルベージ機材が空送された。特殊ポンプにより、汚濁した貨物及び燃料油のトラックへの移送が行われた。
硫酸はばら積み輸送される代表的な無機酸であり、水よりも重いが水に完溶である。水分の存在下においては、大部分の金属を強く腐食する。また、皮膚、目及び粘膜に火傷を起こす。有害液体物質のC類物質である。
(7) 事例17 キャノーラ油事故
11月下旬、カナダのバンクーバーに着桟係留中のリベリア籍ケミカルタンカー(21,165総トン)において、キャノーラ油3,000トンの積み込みに際し、陸上から本船へのポンプ移送中その200トンを流出した。
油膜は10海里にわたって広がり、潮汐とともに移動し、おおよそ2,000羽の野鳥に影響を与え30羽の死骸が確認された。
菜種油(キャノーラ油)は、有害液体物質のD類物質である。
(8) 事例18 アンモニア事故
5月下旬、トリニダード・トバゴのポイントライサスに着桟係留中のリベリア籍のLPG船(14,388総トン)において、アンモニアの積み込みに際し、ローディングアームの非常用離脱部からの噴出により、1名が死亡した。
アンモニアは前述のとおり、液体及び蒸気は皮膚、胃並びに粘膜を刺激し火傷を起こす。高濃度のガスの吸入により肺水腫を起こし、呼吸が停止する。
事例19〜23 その他の火災・爆発事故
(1) 事例19 メタクリル酸メチルモノマー事故
マニラ湾の沖合において、パナマ籍のケミカルタンカー(2,856総トン)が積荷のメタクリル酸メチルモノマーを「はしけ」に積み卸し作業中、突然爆発炎上した。さらに、荷下ろしのための「はしけ」2隻とタグボート1隻に燃え移った。
乗組員18名のうち8名避難、6名軽傷及び4名行方不明、また、荷役作業員1名死亡、1名行方不明及び9名重軽傷の人的被害が発生した。
作業員のたばこの火か何かの火により引火したのではないかと考えられている。
メタクリル酸メチルは引火点8℃、爆発限界(容積%)2〜8%、ニンニク臭があり5ppmで感知できる無色の液体である。水より軽く水に微溶であり、蒸気は空気よりも重く低所に滞留する。
(2) 事例20 アセトン事故
デンマークのフレデリスクハウンにおいて着桟係留中のリベリア籍のケミカルタンカー(386総トン)が、タンククリーニング作業に際し、陸上作業員がアセトンを使用してタンク内壁のグラスファイバーコーティングを除去していたところ、アセトン蒸気に引火したと考えられる爆発を起こした。その結果、1名死亡、1名重傷(後死亡)及び3名負傷(腕に火傷)の人的被害が発生した。
アセトンは引火点−18℃、爆発限界(容積%)3〜13%の甘味臭のある揮発性が高い無色の液体である。水より軽く水溶性であり、蒸気は空気よりも重い。海洋汚染防止上の無害物質である。
(3) 事例21 エタノール爆発事故
エクアドルのグアヤキルに着桟係留中のデンマーク籍のケミカルタンカー(6,544総トン)が、積荷主のタンク検査において不合格となった。その後、タンク内の清浄度を合格基準まで上げるため、はじめに清水によるタンク洗浄を、次いでエタノールによるタンク洗浄を行っていたところ、爆発が発生した。作業員1名が全身の75%の火傷を受け、もう1名が聴力障害を被り、入院加療となった。
エタノールは引火点13℃、爆発限界(容積%)3〜19%のアルコール臭のある無色の液体である。水溶性であり、引火爆発事故例が多い。
(4) 事例22 LPG船火災事故
12月中旬、ブラジルのリオデジャネイロの修繕ドックにおいて、ブラジル籍のLPG船(3,885総トン)が修理作業中、タンク内で使用したバーナーの火がタンク内コーティング材に引火し、火災を発生させた。発生したガスにより、4名が死亡し、3名が負傷する人的被害が発生した。
(5) 事例23 LPG船爆発事故
10月初旬、フィリピンのスービックのドックにおいて、船底外板を修理中のリベリア籍のLPG船(16,093総トン)の貨物タンクが爆発し、出渠に備えて甲板上を清掃していた作業員5名が死亡(うち3名が即死、2名が負傷により後に死亡した。)、7名が負傷した。爆発により上甲板に大きな穴があくとともに、両舷側の一部が破口した。
目撃者によれば、貨物タンクのLPGの漏洩により爆発を引き起こしたのではないかという。