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4 関係規制の概要
4.1 国際規制
 HNSの海上輸送に際しての国際規制は、大きく分けてMARPOL条約に基づく規制とSOLAS条約に基づく規制の2種類に分類される。
4.1.1 MARPOL73/78条約に基づく規制
(1) MARPOL73/78条約
 1960年代は国際的に石油の依存度が高まり、タンカーの建造や大型化が急速に進んだ。こうした中、1967年にはトリーキヤニオン号の座礁事故、1976年にはアルゴマーチヤント号の座礁事故が発生し、重大な海洋汚染をもたらした。こうしたことから、船舶からの油等の排出や輸送船舶の構造、設備等について規制し海洋汚染の防止を図る必要から「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約」(MARPOL73条約)が採択された。
 ところが、ばら積み有害液体物質に係る規制について一部に問題があったことから発効するに至らなかったため、1978年にはMARPOL73条約を修正・追加し、「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)が採択された。
 
 現在、この条約は、次の6つの附属書(ANNEX)によって構成されている。
  [1] 附属書I 油に関する規則
  [2] 附属書II ばら積みの有害液体物質に関する規則
  [3] 附属書III 容器等に収納されて運送される有害物質に関する規則
  [4] 附属書IV 汚水に関する規則(未発効)
  [5] 附属書V 廃物に関する規則
  [6] 附属書VI 船舶からのガスによる大気汚染防止に関する規則(未発効)
 
 附属書I及びIIについては、条約批准国は必ず批准しなければならず、附属書III〜VIついては選択附属書となっており、留保することも可能である。
 また、本条約の発効条件は批准国数が15カ国以上で、批准国の商船船腹量の合計が世界の50%以上となっている。附属書IV・VIについては、発効条件に満たないため現在未発効となっている。
 
(2) MARPOL73/78条約附属書II
 ケミカルタンカーの安全性の問題が最初に取り上げられたのは、1960年代中期の「IMO(国際海事機関)フォーラム」においてであり、その結果、「船舶設計・装備小委員会」が新たに設置された。同委員会の初仕事は、大量のケミカル輸送船舶の建造とその装備を研究することであった。
 新設の同委員会は、1968年1月に初会合を開催し、ケミカルタンカーの設計基準、建造及び装備に関する規則作りに合意した。しかしながら、同委員会が最初に作成したのは、既存のケミカルタンカーに対する中間提言だけであり、その提言は1970年にMSCサーキュラーとして発行された。         
 1971年10月、IMO会議において、「有害化学物質ばら積み輸送のための船舶構造・設備に関する規則(BCH規則)」が採択された。
 BCH規則が化学製品の安全輸送を目的として、ケミカルタンカーの建造と設計基準を規定しているのに対し、1973年MARPOL条約の附属書IIは、不測の事態による化学製品の海上流出または操業上の排出を防止すること、もしくは最小限に止めることを主眼点としていた。
 附属書IIは、タンクの洗浄などによる操業上の化学製品の排出に言及した初めての規則であった。しかしながら、附属書IIは各国政府に対し化学製品残留分の受入れ施設の確保を要請していたため、同条約を採択した各国にとって、当時、この要求は難題であったという。
 附属書Iは「すべての石油は有害物質であり、海への流出は防止されなければならない。」との前提条件に基づき作成されているが、附属書IIは「化学物質は物理的性質と生物学的性質において多種多様である。」との認識に立って作成されている。その結果、附属書IIに記載の化学物質は、海洋資源や人間の健康と生活環境へ与える有害性の程度に基づき、AからDまでの4つのカテゴリーに分類されている。
 
(3) MARPOL73/78条約に基づく規制
 MARPOL73/78条約に基づく輸送貨物による海洋汚染を防止するための規制内容は、国内的には「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」(海防法)や「危険物船舶運送及び貯蔵規則」(危規則)の一部として取り入れられている。
4.1.2 SOLAS条約に基づく規制
(1) IMDG Codeの沿革
 危険物の海上運送の安全確保のため、従来、各国はそれぞれ個別に運送基準を定めていた。しかし、危険物が国際運送される場合には、各国まちまちの運送基準が、運送途中の危険物包装の開梱などむしろ危険性を助長するおそれすらある。この弊害を排除し、危険物の安全、かつ、円滑な国際海上運送を図るため、各国は危険物の安全運送に関する統一基準の策定の必要性を痛感した。1929年の「海上人命安全(SOLAS)条約会議」において、初めてその必要性が提起され、国際条約によって統一を図る努力がなされてきた。
 その後、1948年、同条約会議では、危険物の分類・運送に関する一般規定などが議題として取り上げられ、国際規則起草のための研究調査を行う旨の勧告を採択した。次いで1960年の条約会議は,条約第VII章に「危険物の運送」の1章を設け、危険物の船舶運送にかかわる一般原則を規定した。さらに、同条約会議は、勧告第56号をもってIMOに対し、危険物運送の具体的要件、すなわち容器、包装、標札、積載方法、隔離等を含む国際規則を早急に完成するよう要請した。
 この勧告に基づきIMOは、「海上安全委員会」の下部組織である「危険物運送小委員会」において、これらの要件について詳細な策定作業を行い、1965年、IMDG Codeの初版が刊行された。
 IMDG Codeは、「国連危険物輸送専門家委員会」の危険物運送に関する勧告(国連勧告)に定める基本要件と、SOLAS条約における船舶運送の基本要件を基にして、船舶による危険物運送の具体的詳細な要件を定めたものである。
 IMDG Codeは、技術の進歩、運送形態の変革等により、ほぼ毎年1回の割合で改訂が施されている。
 
(2) IMDG Codeの概要
 IMDG Codeは、出版後、各国において国内の危険物輸送規則として取り入れられ、現在、その数は約50カ国にのぼる。
 わが国においても、危規則としてIMDG Codeをほぼ全面的に取り入れている。
 IMDG Codeは、現在4分冊となっており、国連勧告に基づく危険物の船舶輸送の具体的基準が規定されている。
 第1分冊  総則規程、総索引及び容器勧告
 総則規程(General Instruction)は、危険物を海上輸送する場合の輸送基準を定めているものであり、次の27節からなっている。
 
  1 序文
  2 条約(SOLAS条約及びMARPOL73/78条約附属書II)
  3 1960年SOLAS条約会議の勧告
  4 IMDG Codeの適用
  5 分類
  6 引火点試験法
  7 危険物の識別及び表示
  8 標札、標識及び海洋汚染物質マーク
  9 船積書類
 10 容器及び包装
 11 換算表  
 12 コンテナ輸送
 13 ポータブルタンク及びタンク自動車
 14 積載方法
 15 隔離
 16 防火措置
 17 ロールオン・ロールオフ船による危険物の輸送
 18 少量危険物
 19 はしけ運搬船に積載されるはしけによる危険物の輸送
 20 危険物の化学的安定性
 21 温度管理要件
 22 主管庁による承認
 23 海洋汚染物質(MARINE POLLUTANTS)
 24 化学的危険性を有する固体ばら積み物質の輸送
 25 バルクパッケージングによる固体危険物の輸送
 26 中型容器(IBCs)
 27 廃棄物の輸送
 
 第2〜4分冊は、クラス1〜9に属する危険物の品名ごとの容器、包装、積載方法、隔離規程、ポータブルタンクによる運送等の詳細規程が定められている。
 
 なお、次の別冊がある。
 [1] 危険物を運送する船舶の非常措置指針(Emergency Procedures−EmS)
 [2] 危険物による事故の際の応急医療の手引(Medical First Aid Guide- MFAG)
 [3] 固体ばら積み貨物に関する安全実施基準(Code of Safe Practice for Solid Bulk Cargoes−BC Code)
 [4] 報告手続き(Reporting Procedures)
 [5]・コンテナまたは事輌への貨物収納指針(IMO/ILO Guidelines for Packing Cargo in Freight Containers or Vehicles)
 ・船舶における薫蒸材の使用指針(Recommendations on the Use of Pesticides in Ships)
 ・照射済核燃料等の国際海上安全輸送規則(Code for the Safe Carriage of Nuclear Fuel,Plutonium and High-Level Radioactive Waste in Flasks on board Ships一INF Code)
 
(3) SOLAS条約に基づく規制
 SOLAS条約に基づく輸送船の乗組員及び船舶の安全確保を目的とした規制内容は、国内的には危規則に取り入れられている。
4.2 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律
4.2.1 法律の沿革
 わが国では、「1954年の油による海水の汚濁の防止のための国際条約」(1954年条約)を受け、1967年(昭和42年)に「船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律」が制定された。1970年(昭和45年)には、同条約の改正を取り入れるとともに、国際条約に先駆けて廃棄物の排出についても規制を行うことを内容とする「海洋汚染防止法」が成立した。
 1976年(昭和51年)には、相次いで発生した重大海洋汚染事故を教訓として、防災対策の充実を図り、法律名も「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」と改めた。また、1980年(昭和55年)には、「海洋投棄規制条約」への加入及び油の排出規制の強化の目的として本法の一部改正が行われた。
 1983年(昭和58年)には、1978年議定書に加入するため、規制対象物質の拡大、排出基準、設備・構造基準の強化、検査制度の導入等を内容とする本法の一部改正が行われ、1986年(昭和61年)には、1978年議定書の有害液体物質に関する規制の実施に対処するため、一部改正が行われた。
 さらに、1990年の「油汚染に対する準備、対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)、1991年の「MARPOL73/78条約」の改正等を受けて、一部改正が行われた。
4.2.2 有害液体物質
 海防法では、船舶等からの油、有害液体物質等及び廃棄物の排出を規制しており、有害液体物質については次のとおりA類、B類、C類及びD類物質に大別されている。
(1) 有害液体物質
 油以外の液体物質のうち、海洋環境の保全の見地から有害である物質として政令で定める物質であって船舶によりばら積みの液体貨物として輸送されるもの及びこれを含む水バラスト、貨物艙の洗浄水その他船舶内において生じた不要な液体物質をいう。(法第3条第3号)
 
(2) 政令で定める物質
[1] A類物質(61種類)
 タンクの清掃やバラストの積み下ろし作業によって海に排出された場合、海洋資源や人間の健康に重大な危険を及ぼし、また、生活環境やその他合法的な海の利用者に対しても重大な損害を与るため、厳格な汚染防止措置が適用される有害液体物質。
 
[2] B類物質(121種類)
 タンクの清掃やバラストの積み下ろし作業によって海に排出された場合、海洋資源や人間の健康に危険を及ぼし、また、生活環境やその他合法的な海の利用者に対しても損害を与えるため、特別な汚染防止措置が適用される有害液体物質。
 
[3] C類物質(153種類)
 タンクの清掃やバラストの積み下ろし作業によって海に排出された場合、海洋資源や人間の健康に軽微な危険を及ぼし、また、生活環境やその他合法的な海の利用者に対しても軽微な損害を与え、そのため、特別な作業条件が必要とされる有害液体物質。
 
[4] D類物質(228種類)
 タンクの清掃やバラストの積み下ろし作業によって海に排出された場合、海洋資源や人間の健康に認識できる程度の危険を及ぼし、また、生活環境やその他合法的な海の利用者に対してもわずかな損害を与え、そのため、作業条件に注意を払う必要のある有害液体物質。
 
 A〜D類物質の定義については、MARPOL73/78条約附属書IIによる。








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