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◎5 台湾博覧会と心象地理◎
 このような城内、萬華、大稲、郊外に対する異なった地理的心象は、一九三五年に開催された始政四十周年記念台湾博覧会の喚起する様々な心象地理とその会場の地理的位置において明確に再−表象されている(図[16])。まず図上部の第一会場と、図右下の第二会場はヨーロッパ風の景観とされた城内に配置され、外地を含めた日本の西洋的・近代的な発展の姿が表象されていた。そして図左中の草山分館には観光館が設置され、伊勢神宮や内地の国立公園、東京・大阪・京都の三都に、台湾の景勝地など、「一堂に雄を競ふ内台の景勝地」(註34)が展示され、日本という国土空間を象徴的に再生産していた。さらに本島人の居住地に開設された図左下の大稲の分場には、「エキゾティックな存在によって我等の博覧会の特異性の一半を分担(註35)」し「我が南方生命線の情勢を一目瞭然たらしむる(註36)」とされた南方館などが展示され、会場附近の街路も「支那趣味費かに装飾(註37)」されていた。そして、内地人の歓楽地たる北投温泉や萬華には博覧会場は配置されることはなく、その地の宣伝はあまり公になされることはなかったのである。すなわち植民地博覧会である台湾博覧会は、それが植民地台湾で開催されたというばかりでなく、帝国主義の時代に南国都市台北に布置されていた地理的心象を、その会場配置によって、より明確に国家の欲望が投影された心象地理と選択的に関連づけ、象徴的に再生産していたのである。
[16]始政四十周年記念台湾博覧会記念鳥瞰図
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