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財団法人日本ナショナルトラストからのメッセージ…
杉浦 喬也
 
 「観光」という言葉は、中国の古典「易経」に「国の光を観す」とあるのが語源とされている。この厳かな言葉も過去、物見遊山と同じような感じで受け取られた時代が長いが、近時、旅行ニーズが多様化し、団体旅行から小グループ又は個人旅行への変化、参加型観光の発達、国際化というように、観光の内容が大きく変化し、経済効果も二〇兆円、雇用効果も大きいとして、これを一つの観光産業としてとらえ、国、地方を通じ多くの施策が講じられるようになった。
 他方二十一世紀に入って環境問題が大きくクローズアップされ、貴重な自然環境や文化財を保存するため、地球規模での「人と環境」にやさしい取り組みが顕著となってきた。
 私達人類は、その命に限りがあるという宿命の中で、人間が造り出した文化や私達を囲む美しい自然が何時までもその姿を保っていて欲しいと切なる願望を抱くのである。自然や文化遺産を守る行動は、人々のこうした本源的な願いから出てくると思われる。
 日本は過去、震災や戦災によって多くの貴重な文化財を失った。特に東京、大阪等の大都市は、殆んど壊滅状態となった。しかし、全国的にはまだまだ多くの文化財が残され、また人々の眼にふれずに埋もれているものも多いと思われる。私共日本ナショナルトラストは、こうした願いに応えて、ささやかではあるが、日々保存のための活動を続けているのである。
 昭和六十一年、消滅の危機にさらされている文化遺産を市民の寄付によって取得し、これを保存活用するための「文化財取得キャンペーン」が開始され、これにより、白川郷の合掌造り民家や「トラストトレイン」が取得された。
 平成九年十一月二十二日、近代化遺産を持つ全国の自治体が協調し、それらの保存と活用を研究協議することを目的として、「全国近代化遺産活用連絡協議会」が設立され、これまで多くの近代化遺産が登録されている。
 平成十二年十月十四日、滋賀県長浜市に、私共のヘリテイジセンターとして「長浜鉄道文化館」を開館することができた。そのもとは、明治十五年の鉄道開通とともに建設された旧長浜駅舎である。静かな琵琶湖のほとりに在り、長浜の町並みもしっとりとした美しい日本的な情緒を持っている。
 またこの度、日本宝くじ協会の助成を受けてヘリテイジセンター「琴引浜鳴り砂文化館」が建設されることになった。
 このように遅々とした歩みではあるが、日本ナショナルトラストは、日本の歴史的文化財の保存活用のための活動を続けている。これまでの文化財取得に当って御支援御協力賜った方々、そしてボランティア活動によって御支援をいただいた多くの方々に心より感謝を申し上げ、これからも保存活動の輪が一層大きく広がって行くことを心から願う次第である。
…<(財)日本ナショナルトラスト会長>








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