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◎採蜜◎
 採蜜は秋ソバの開花後の十月中旬から十一月上旬に一回行われるのが一般的である。和歌山県や奈良県での採蜜は六〜八月であるのに対して、採蜜は晩秋にかけて行われる。これは熊野地方では二〜六月の初春から初夏にかけてウメ、アセビ、ヒサカキ、サクラ、レンゲ、シイ、トチノキ、クリ、カキなどが蜜源になっているが、対馬では三月〜七月のツバキ、ヤマザクラ、シイ、カエデ、センダン、ハゼノキ、クリ、ネズミモチから、八月〜十月のヌルデ、クズ、モッコク、アキニレ、カラスザンショウ、そしてソバを蜜源にしているためと思われる。採蜜量は山野部と人家周辺では異なるが、一群から二・四キログラム(一升)〜四・八キログラム(二升)が平均的で、一群から九・六キログラム(四升)を二年間採った記録もある。
 蜂洞にセイヨウミツバチで使われている継箱と同様に貯蜜用の「継ぎ洞」を乗せた改良型もみられるが、一般的には蜂洞上部の巣板を切り取る方法である。採蜜時に蜜の匂いに誘引されて蜜を盗みにくる盗蜂を防止するために、採蜜は夕刻に行われる。蜂洞の蓋を軽くたたき、ハチを洞の下方に移動させる。蓋を取った際に、セイヨウミツバチの管理で使われている燻煙器を使ってハチを移動させる人もいる。ハチは下部の巣門周辺にあふれ、上部の単板部分には全くハチがいない状態となる。専用の「蜜切り刀」で上部の巣板を三分の一ほどを切り取る。この方法では蜜のたれ落ちを防ぐことはできず、翌日になっても盗蜂が飛来して大騒ぎになることがある。巣板は蜂洞の側面や単板と巣板が付いたりして支えられている。そのため、注意して切り取らないと巣板が取れ落ちたりする。
 蜜のたれ落ちは採蜜時の悩みであるが、それを解消するために蜂洞を横転する方法が用いられている。蓋を軽くたたき、ハチを下方に移動後、蜂洞を横転させる。一人が下方を持ち上げて支え、もう一人が容器に蜂洞上部の単板を切り取るようにして入れる。この方法で蜜のたれ落ちは防止することができ、また採蜜作業も手早く行うことができる。切り取った上部の空間部分には、再び巣が盛り上げられ、一年後の採蜜時期には蓋の下まで単板が造られる。
 重箱式巣箱による採蜜法は、横転させる方法をさらに改良したものである。採蜜期を迎えた重箱式の三段巣箱を上部が傾斜する専用の台に乗せ、切り取った単板を入れるための容器をその下に置く。蓋を取り外すと蜜の入った巣板が現れる。燻煙器でハチを巣箱の後方に移動させる。「蜜切り刀」で巣板を切り取り、下の容器に落とし入れる。この重箱式の巣箱の中央には、巣板の落下防止のために竹の横棒が二本取り付けてある。貯蜜の状態にもよるが、通常は二段目の中央まで切り取る。採取された蜜巣板は、ザルの上に置かれた晒の上に入れ、その上で細かく砕き垂れ蜜を一昼夜かけて採取する。
 対馬のハチミツは、貯蜜時期が長いため巣内で濃縮、熟成が十分に行われる。蜜源植物の種類も多いため、いろいろな花の蜜が混ざり合った、独特な風味を持つ濃厚な味となっている。生産されたハチミツは、市場には全く出ず、ほとんどが知人やくちこみを通じた島内販売や自家消費に使われるため、なかなか入手できない貴重品である。
 対馬では、蜂量、貯蜜を考慮して巣板を切り取り、採蜜方法に改良を加えながら蜂群を維持している。十二年間、絶えることなくハチが生息している蜂洞もある。またニホンミツバチに大きな被害を与える害敵がいないことがニホンミツバチの生息密度や個体数の維持を保ち、そのために養蜂環境が維持されてきていると考えられる。
〈玉川大学教授〉
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[9]蜂洞の上に乗せた採蜜用の継ぎ洞
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[10]蜂洞の上部巣板を「蜜切り刀」で切り取る
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[11]横転させた蜂洞での採蜜
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[12]専用の台の上に乗せて採蜜する重箱式巣箱
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[13]先端の形状が異なる二種類の「蜜切り刀」








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