◎分蜂◎
山野部に配置した空洞に分蜂群が入った洞は、そのまま山野部に置くか、家の周りへ移すことが行われる。山野部に置くのは採蜜量が多いためであるが、家の周りに移すのは、管理が便利であると同時に、分蜂群の捕獲が容易にできるためである。
ニホンミツバチの分蜂(巣分かれ)は、四月下旬から六月上旬にかけて起こるが、セイヨウミツバチのように細い木の枝を包むような蜂球は見られず、太い枝分かれした樹皮の下に付着したように蜂球ができる。そして毎年同じ樹種の同じ場所に集まる傾向がある。この習性を利用して、分蜂群誘導器を用いる地域がある。分蜂群誘導器は熊野地方では「ツリカワ」と呼ばれ、サクラやスギの樹皮を四〇×三四センチほど剥離し、樹皮の外側を内側にして乾燥させ笠状にしたものである。対馬では特に呼び名はないが、サクラの樹皮を屋根状の板に貼り付けたり、円筒状に巻き付けたりしているものが使われている。また対馬では「ハチトリテボ」、単に「テボ」とも言われる、木に集まった分蜂群を採集する専用の道具が使われている。竹籠のテボの口には、長めの黒い布が付けられている。分蜂群を素手か、シャモジなどを使って入れ込み、布の裾を結んで木陰になる枝にぶら下げておき、夕方に蜂洞に入れ込むのである。
[5]蜂洞近くに吊り下げた分蜂誘導器
[6]円筒状にサクラの樹皮を巻き付けた分蜂誘導器
[7]対馬独特の分蜂採集道具「ハチトリテボ」
[8]「ハチトリテボ」に分蜂群を入れた後、口につけた布の裾を結んで回収する。