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9 積極的な意味をもつ逃去
 ニホンミツバチのコロニーはよく逃げる。これが飼育上一番の問題点とされる。今まで飼っていた群が突然いなくなってしまえば、飼養者としては落胆する。しかし、彼らにしてみれば理由があって逃げるわけであり、悪化した環境に見きりをつけ、心機一転“再生”を図る積極的な行為といえる。理由はいろいろあるが、周囲の蜜・花粉資源の枯渇の場合が一番多い。ほかにハチノスツヅリガ(図[15])の発生などの巣内環境の悪化や、人間などの外敵による干渉も挙げられる。実際、逃去後に残された巣内をみると、たいていの場合蜜はまったくない。幼虫もいないことがあり、このような場合は何週間かの間、逃げるつもりで“準備”していたのである。
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[15]巣に必ず発生するというウスグロツツリガの成虫
 女王蜂が何らかの原因で死亡した場合、コロニーはどうなってしまうのか?再生を図る方法は二つある。第一は急きょ変成王台を作り、新しい女王蜂を仕立てて、それが交尾に成功し、群を引き継いでくれることにかける場合。第二はそれに失敗するか、それをせずに、働き蜂産卵に走る場合である。ニホンミツバチではセイヨウミツバチの場合よりはるかに早く、しばしば数日以内に働き蜂産卵が始まってしまう。では、変成王台を作って新女王に継がせる方法を取りうるのに、なぜそんなに早く、働き蜂産卵を始めてしまうのか?これには起源地である熱帯の気候が関係しているように思われる。熱帯では一年中暖かく、繁殖期も春だけとは限らない。交尾していない(できない)働き蜂にしてみれば、変成王台を作って自分の姉妹である新しい女王を育て、自身の遺伝子を残すのと同義の方法を選択する代わりに、もっとてっとり早く、自分自身で雄になる卵を産み(これは可)“直接ルート”で自分の遺伝子を雄(息子)に託し、それが処女王と交尾してくれるチャンスにかけるのではないか。この直接ルートをとったコロニーでは、多くの働き蜂の卵巣が発達を始め、実際に多数の産卵を行う働き蜂が出現する。そうなると我れがちに卵を産むため、かなりのせめぎ合いも起こる。一つの巣房に五個を越える卵が産みつけられることも珍しくなく、実際にそこから成虫の雄が育つ確率は低い。








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