8 分蜂と交尾飛行
女王蜂は普通は一群に一匹であるが、春の繁殖期には、一時的にこの“単女王制”がゆるむ。雄蜂の生産に続いて王台(図[16])が作られ、何匹もの新女王蜂候補者が生産される。王台先端部のワックスがかじり取られ、繭が露出して数日すると、分蜂が起こる。その年の最初の分蜂では必ず旧女王が、住み慣れた家を娘に譲って出ていく。それでもなおコロニーに余力があれば二回目、三回目の分蜂が続く。その場合は未交尾の処女王が出ていく。
[16]女王蜂の生産にあたる王台、ここに卵が産みつけられ、羽化するまて育てられる |
交尾(結婚)飛行については、最近になり、その時空間的に制御されている全貌が見えてきた。多くの昆虫同様、ニホンミツバチも交尾時間帯を決めている。それは午後二時から四時過ぎまでで(Yoshida,1994)、女王蜂も雄蜂もこの時間帯に飛行に出る。ともに体内時計によりデートの時刻を決めているのである。交尾がどこで行われるかについては、直接の目撃例はないものの、目立つ木の梢の上空らしい。地表からの高さは地形によって異なるが、二〇メートルを越えることが多いようで、水素かヘリウムの大型風船で処女王をつるすと、多数の雄が女王蜂めがけて集まることから推察できる。結婚飛行に出た雄は条件を満たす場所に飛来して飛び回りながら女王蜂を待つらしいが、そのような場所が何カ所もあり、それらを巡回している可能性も考えられる。交尾行動は壮絶である。空中で女王に追いつき、交接、射精した雄は瞬時に硬直し、羽ばたきも止まってしまう。生殖器の一部だけがちぎれて飛び続ける女王側に残り、雄は地上に落ちてそのまま死ぬ。