日本財団 図書館


第4章 保存地区の選定
1.中心市街地活性化基本計画とこみせ保存
 近年の黒石市は、モータリゼーションの進展に伴い、郊外型店舗が急増し、中心市街地の空店舗が目立つようになり、空洞化が進んでいる。
 平成11年7月、黒石市の歴史と文化を継承してきた中心市街地の活性化施策を講ずるため、商工会議所や地元商店街振興組合、多くの市民を始め、関係機関の協力により「黒石市中心市街地活性化基本計画」が策定された。
 その基本計画によると、中心市街地の区域は、国の方針と市及び地区の特性を検討した結果、図4-1のように決定されたほか、中心市街地の課題が整理され、「こみせ等歴史的建造物・文化を生かしたまちづくり」がクローズアップされたのである。
 また、地元意向調査を市民無作為抽出(2000部)と市役所・商工会議所関係者(200部)を対象に行った結果、「こみせの保存・修復」を求める者と、将来像としても「歴史と文化のまち」をイメージする者が多いことがわかった。
 以上の課題と意向調査から、中心市街地の役割、市民が共有できる中心市街地のまちづくり方向から、今後進めていくまちづくりを総括するコンセプトとして「<こみせ>が輝き、<真の豊かさ>を実感できる街−こみせを核にしたまちづくり−」が整理され、図4-1のように前町・浜町線が「こみせ通り」として設定された。
 一方、こみせの保存については、昭和58年度に中町地区を伝統的建造物群保存地区に指定するため、文化庁の保存対策事業により、調査を実施したが、[1]関係住民の意思統一ができていない、[2]都市計画の街路変更が必要、[3]中町の一角にショッピングセンターの建設計画があった、などの理由から、以後は行政上での伝統的建造物群保存活動がないまま、平成11年度までに至ってしまった。
 しかし、その後「こみせ」の価値を認め、まちづくりに生かそうとした中町と前町の有志により「こみせ通り商店街振興組合」が昭和60年に組織され、昭和61年から商工会議所や観光協会、その他の関係団体とこみせ通り商店街振興組合で実行委員会を組織して「こみせ祭り」が、毎年開催されてきており、今年は、こみせ祭りの内容がさらに充実して行われ、大変な賑わいをみせたのである。
 こみせ祭りは、こみせ保存とそれを生かしたまちづくり活動であり、これによって中町・前町のみならず、多くの市民もこみせ保存の意義を理解したものと思う。
 平成11年度「黒石市中心市街地活性化基本計画」が策定され、翌12年6月にTMO会社「津軽こみせ株式会社」が、「こみせを核にしたまちづくり」を活動の基本理念として、県内で初の設立となったことも手伝って、市のこみせ通りの伝統的建造物群保存活動が、本格的に動き出した。
2.中町地区を保存地区に選定
 この観光資源保護調査を財団法人日本ナショナルトラストに申請した際、黒石市中心市街地活性化基本計画で、図4-1のように「こみせ通り」を設定しているため、中町と前町をその調査の対象区域にしたのであるが、調査を進める中で、都市計画の担当課と打合せを行ったところ、図4-2のように、前町の西側一部が防火地域となっており、この地区を保存地区に選定することは困難であることが判明した。
 調査委員会からは、中町が江戸・明治・大正時代中心の建造物群に対して、前町は、大正時代以降の建造物となっているが、いずれも近世と近代の風情を残す「こみせ通り」として高く評価できるものであり、ぜひ伝統的建造物群保存地区に指定してほしいという強い要望があったものの前述の理由により、今回は中町地区だけを保存地区に指定し、前町については、早い機会に防火地域から解除した上で、保存地区に指定し、保存地区を拡大をするということで調査委員各位の了解を得た。
 市としても、中心市街地の活性化は緊急の課題であるため、行政及び関係機関はもとより、津軽こみせ株式会社を中心に商店街組合や多くの市民の協力を得ながら推進していくことが必要不可欠であり、活性化基本計画に沿った事業の実施をすみやかに進めなければならないであろう。
 市では、こみせ通りを伝統的建造物群保存地区に指定し、保存と活用を図っていくことになっているが、保存とまちづくりが車の両輪のごとく、有効に活用されるための具体的まちづくり実施計画が待たれるところであるが、伝統的建造物群保存地区の景観が損なわれないために、隣接する地域を景観条例で保護することも、その一つとして考えなければならない。
□コラム1 鳴海 幸江(前町在住)
 昨年に比べれば、今年の雪は少ないように思われますが、この時期になるとこみせの有難さがしみじみと分かります。
 朝10時開店前に店の前の雪かきをするのですが、雪の道路を歩いてきた人がこみせに入って通り過ぎて行く足跡が残っています。
 こみせの中を歩いてくれたんだと嬉しく思います。先人達が私有地を提供してまでも、雨や雪の中でも歩きやすい様にと作ってくれた心のやさしさに感謝せずにはいられません。
 又こみせの連なっている街並みも暖かさが伝わって来る様な気がして大好きです。
 昔の人達の生活をも想像させられ遥か昔にロマンを感じます。
 この様な古い街並みは日一日と日時を経る毎に価値が出てくることと思いますので大事に保存していきたいと思っている昨今です。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION