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第3章 町並の現況
1.中町
(1)調査の経緯
 この中町地区の「こみせ」町並と主な商家遺構の調査は、昭和58年に専門家や関係住民代表、行政関係者等からなる「中町地区こみせ保存調査対策協議会」が設置され、「伝統的建造物群保存調査」がすでに実施されている。また、その報告書である「黒石の町並」が翌年の3月に黒石市教育委員会から刊行された。この時の建築関係の調査は草野和夫東北工業大学教授(当時)のグループが担当し、筆者も委員として町並や建築の調査に参加した。
 この「黒石の町並」には建築調査の報告として、第5章では「町並の現況」、第6章では「中町地区商家遺構の概況」をまとめ、さらに第7章では第5章や第6章を受けて「保存景観と修景」の提案もしている。すなわち、黒石市中町地区の「こみせ」の町並とその建築および修景のアウトラインはすでにこの報告書によって明らかにされている。
 今回の調査は再度、重要伝統的建造物群保存地区の選定を目指して、財団法人日本ナショナルトラストの平成13年度調査事業で採択された「黒石市中町・前町地区の伝統的建造物群保存地区に関わる調査」である。したがって、中町地区の「こみせ」町並とその建築の調査は2回目の調査となる。そこで、今回の調査では前回調査できなかった商家や住宅およびこれらの付属屋の調査を実施し、中町地区全域の建築調査の精度を高めることを第一の目的とした。次に、昭和58年の調査当時から18年経過した中町地区の町並やそれを構成する建築について、解体や改築、改造などによって、大きく変化した景観およびほとんど変化していない景観などを確認し、前回の報告書に示された修景基準によって、改めて町並景観の修景まで試みられるように保存対策の資料作成にも努めた。
(2)屋敷割の現況
 今回調査対象とした中町地区は旧黒石市街地のほぼ中心部に位置し、北側には浜町、南側には前町、西側には横町が続く。前町、中町、浜町は南北のびる弘前方面から青森方面へ通じる旧街道沿いに、横町は鰺ヶ沢に至る旧街道沿いにそれぞれ発展してきた町である。特に中町(今の浜町も含む)や前町、横町は黒石藩の中心商人町として、17世紀後半に町割りがなされたところである。この他、山形町や上町、元町も商人町として町割りがなされ、ごれらの商人町に「こみせ」が設置されていた(図3-1)。
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図3-1 黒石市中心部
 中町地区は南北道路延長で約280m、面積では約3haとなり、ここには住居の主屋・店舗39棟、付属屋47棟の合計86棟の建築物が配置されている。南北の表道路には東側に15口、西側に15口の合計30口の屋敷が面している。この屋敷数と形状は、所有形態に若干の変動はあるものの、昭和58年当時とほとんど変化がない。屋敷規模は多様で、間口2.8〜23.6間、奥行7.8〜45.5間、面積32.1〜1447.0坪となる。また、中町はほぼ中央部を東西に横断する道路によって、南北に分けられるが、南側には2軒の酒造業を営む屋敷(No.1、6)や国重要文化財の高橋家住宅の屋敷(No.28)など比較的規模の大きい家が屋敷を構えているのに対して、北側では特別に屋敷規模の大きい家は見当たらない。なお、裏道まで屋敷が続いている屋敷割りは3口見られ、いずれも南側の東側街区であった(図3-2)。
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図3-2 中町地区調査対象全体図








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