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第1章 調査の概要
1.調査の目的
 黒石市は、青森県の中央部、県都青森市と城下町弘前市の間に位置している。近年、東北自動車道黒石インターチェンジの設置や青森空港のジェット化により、交通基盤が整備され、首都圏及び東北地方の各都市へのアクセスが容易となってきている。
 黒石は津軽藩の城下町として発展した。詳細は第2章に譲るが、明暦年間に弘前藩から分かれ、「黒石津軽家」を創立し、その際にもとあった町割を基盤に、黒石陣屋の建設と町割りがなされた。現在でも、黒石の町名には当時の町割りの名前が残る。
 本調査で対象とする中町・前町は商人町として、江戸時代前期から栄えた。中町には、今も国の重要文化財の「高橋家住宅」や市指定有形文化財「鳴海家住宅」をはじめ、西谷家住宅、中村亀吉酒造店、盛家住宅など江戸時代中期から明治・大正・昭和の初期に建てられた伝統的な建物が並ぶ。これら豪壮な商家の町並みを特徴づけているのが「こみせ」とよばれるアーケードである。「こみせ」は、通りに面して、建物の軒の外側に作られた木造のアーケードで、冬季は通りとの間に蔀を落とし込むなどして快適な歩行空間をつくりあげる。越後地方では「雁木」、津軽地方では「こみせ」とよばれ、積雪地帯で一般にみられるものだったが、現存するものは全国でもひじょうに数が少ない。
 この「こみせの町並み」を対象として、昭和58年度に国の伝統的建造物群保存対策調査が実施されたが、当時は保存地区として指定されるまでには至らず、黒石市内に残された「こみせ」が失われつつあった。本調査は、調査後18年を経て、現在も連続した「こみせ」が保たれている中町、中町に連続し比較的伝統的建造物が残されている前町の2地区を対象に、再度、伝統的建造物群保存地区の指定を検討するために、財団法人日本ナショナルトラストの平成13年度観光資源保護調査として実施した。前回、昭和58年度に実施した伝統的建造物保存対策調査と八戸工業大学が独自に実施した調査成果を基礎に、本調査では町並み及び「こみせ」の現況を実測、保存地区を設定する場合の課題を整理した上で、何を保存するのかをあきらかにし、保存地区の設定の検討を行った。
2.調査委員会の構成
 調査を実施するにあたっては、専門家や関係住民代表・行政関係者等、下記のような調査委員会を構成し、進めた。事務局は、黒石市文化課と財団法人日本ナショナルトラストで担当した。
委員長 高島 成侑(八戸工業大学教授)
委員 高橋 恒夫(東北工業大学教授)
  福川 裕一(千葉大学教授)
  神 輯孝(元八戸工業高校長)
  北山 茂朝(住府建築設計事務所社長)
  野呂 晋一(野呂設計室社長)
  盛 勇造(森清組社長)
  木下 啓一(津軽こみせ株式会社社長)
  鳴海 文四郎(地区代表/文化財保護審議委員)
  高橋 幸江(地区代表/文化財保護審議委員)
  樋口 秀仁(黒石市建設課技師)
  篠村 正雄(黒石市教育委員会文化課歴史文化専門員)
  岡崎 正憲(黒石市教育委員会文化課課長)
  米山 淳一(財団法人日本ナショナルトラスト事業課長)
アドバイザー 江面 嗣人(文化庁文化財部建造物課主任調査官)
  小笠原 真理子(青森県教育委員会文化財保護課文化財班主事)
事務局 鈴木 徹(黒石市文化課文化財係長)
  工藤 美枝子(黒石市文化課主査)
  山本 玲子(財団法人日本ナショナルトラスト事業課係長)
 調査は委員が分担し、それぞれ進められた。中町地区の建築学的な調査は、前回の伝統的建造物群保存対策調査の中心を担った高橋恒夫委員が、「こみせ」の詳細調査は北山茂朝委員を中心とする地元の建築士のグループが担当した。前町地区の建築学的な調査については、これまで独自に調査を続けていた高島成侑委員長が担当、さらに重要伝統的建造物群保存地区の選定を受けている千葉県佐原市、埼玉県川越市などで実績のある福川裕一委員が都市計画などの課題について調査した。
3.調査の経過
 本調査は、関係住民の協力を得ながら、下記のような経過で進められた。
4月18日(水)事務局打合せ
6月18日(月)第1回委員会
8月7日(火)〜11日(土)中町・前町地区第1次調査
8月27日(月)〜29日(水)前町地区第2次調査
9月10日(月)〜12日(水)中町地区第2次調査
11月5日(月)〜6日(水)中町地区補足調査
11月6日(火)第2回委員会
12月25日(火)黒石市関係各課ヒアリング・資料収集
12月26日(水)報告書編集打合せ
4.報告者の執筆分担
 調査報告書の執筆は以下のように担当した。
第1章(鈴木徹・山本玲子)、第2章(篠村正雄)、第3章1(高橋恒夫)、第3章2(高島成侑)、第4章(岡崎正憲)、第5章(高橋恒夫)、第6章(福川裕一)








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