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はじめに
 青森空港まで羽田から飛行機で1時間あまり。岩木山のふもと、りんご畑が広がる田園地帯を車で抜けるとわずか30分ほどで黒石の中町に至る。大きな妻入りの商家が続き、造り酒屋には酒林がさがる。その建物の前面の軒下に屋根をさしかけ、人が歩けるようにつくられているのが「こみせ」である。個々の商店や住宅で、私有地を提供し、それぞれの工夫でつくられ、また車道が高くなってしまったために、歩いていくと、思いがけず段差があったりするのでバリアフリーとはいえないが、歩行者のみの空間だ。景観的な美しさに加え、なんといっても「こみせ」のありがたさを痛感したのは、冬の夜に訪れた時だった。車道には除雪の雪が積もり、路面は凍結してとても歩けたものではないが、「こみせ」の中は除雪され、ゆっくり歩くことができた。冬の夜、津軽三味線が流れる町並みをそぞろ歩くのもこの地方ならではの楽しみかただろう。
 しかし、かつては市内にあたりまえのように見られた「こみせ」も、連続している地区はわずか中町付近だけである。黒石市では、こみせの町並みの保全について18年前に調査を実施したが、保存地区の指定には至っていない。
 財団法人日本ナショナルトラストでは、昭和46年度より全国の貴重な自然や文化財などを対象に観光資源保護調査を行い、観光資源の保全・活用の提言を行っている。これまでに、その数は全国で約180件にのぼっており、「黒石市中町・前町地区の伝統的建造物群保存地区に関わる調査」は、平成13年度の観光資源保護調査のひとつとして実施した。本調査では、黒石の中町と中町に連続する前町地区の歴史的町並みを対象として、保全策を講じるための基礎調査および保全計画を提案するものである。
 調査にあたっては、住民の皆さん、黒石市役所、関係者の皆さんのご協力をいただきました。また、文化庁、青森県の指導をいただき、さらには、調査に精力的に関わっていただいた高島成侑先生、高橋恒夫先生はじめ八戸工業大学・東北工業大学の学生のみなさん、福川裕一先生など多くの方々のお世話になりました。記してお礼を申し上げます。
平成14年3月
社団法人日本観光協会








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