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ふれあい活動奮戦記
介護保険の事業収入をうまく活用しお年寄りが笑って逝ける仕組みをつくりたい
NPO法人北九州あいの会(福岡県)
 「ふれあいや助け合いを広げるきっかけづくりをしたいと、一昨年から宅老所の運営に乗り出したところ、重度の痴呆老人が表情豊かになったり、家に引きこもっていた女性老人が、“家で寝ているよりここに来たほうがいい“と喜んでいただくうれしい事例を目の当たりにしました。やはり、小規模ならではの細やかなサービスや家庭的な雰囲気がいいんでしょうね。実は私自身も介護を必要とする母を抱えているので、うちの会の宅老所を利用してこの活動を続けているんですが、そういうことを鑑みると、助け合い活動というのは、まさに自分たちのためでもあるとつくづく感じますね」
 明快な口調でこう語るのは、設立11年目を迎えたN PO法人北九州あいの会の代表を務める石井カズエさん。「この活動は私の人生そのもの。ふれあい社会の実現に向けてまだまだ走り続けます」というそのパワーには、ただただ圧倒されるばかりである。
活動の原点は「最後まで住み慣れた地域で自立して生きたい」との思い
 
あいの会事務局(左)とケアプランサービスのスタッフ
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 石井さんが介護サービスの世界に飛び込んだのは、3人の子育てを終えた50歳を過ぎてからのこと。
 「慣れ親しんだわが家を離れ、手どもたちの家を転々と移りながら死を迎えた義母の姿を見て、自分はこんな死に方はしたくない。そのためにはどう生きていけばいいのか」と考えたのがその動機だという。
 「子どもに依存することなく、最後まで住み慣れた地域で自立して生き、そして死んでいくには、自立を支援する介護サービスの充実が不可欠だと思いました。それで、ホームヘルパーの資格をとって市の登録ヘルパーとして活動を始めたんですが、当時は行政による措置の時代。施しの要素が強く、私が理想とするような“いつでも誰でもサービスが受けられる“というようなものとはほど遠かったんです」
 そんなときに時間預託を取り入れた住民参加型の在宅介護サービス団体の存在を知り、「こういうシステムなら、元気なうちに人を助け、支援が必要になったら助けてもらえる」と、91年8月、たった一人で任意団体を設立。まだ九州には市民による助け合い活動は何もなかった時代。それだけに当初は有償ボランティアに対する理解は乏しく、少なからず批判も受けたが、「困ったときはお互いさま」という市民団体ならではのまごころの支援によって着実に活動の輪を広げていき、現在では会員数は700名弱、助け合いの活動時間も2000年度の実績で2万6676時間に達するまでになった。
 「もう10年も利用してくださっている方もいて、“死ぬまで面倒みてくれ“と言われています。そうした利用者の信頼が何よりの励みになります」
介護保険参入を機に事業規模は大きく拡大組織の充実も果たす
 そんな同会では現在、助け合い活動と介護保険事業の2本柱で活動を展開している。「介護保険への参入は、当初は助け合いの会員へのサービスの延長という位置づけでしたが、会員外からの申し込みが予想以上にありましてね。現在約100名のお年寄りにホームヘルプ事業を提供していますが、うち7割は新しい利用者。大半は口コミですが、地域に根ざした10年の活動があってこそのことだと思います。それだけに利用者の皆さんの期待を裏切らないような、良質のサービスを提供しなければと身が引き締まります」
 
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事務所の2階でふれあい昼食会
 
福岡県北九州市に本拠地を置くNPO法人北九州あいの会は、今後ますますの高齢化に伴って、市民同士の自発的、立体的な助け合い生活援助活動を基として、助け合って生きていく地域社会を目指す市民団体。介護や家事、移送などを有償で行うたすけあいサービスと介護保険サービス(ホームヘルプサービス・ケアプランサービス・デイサービス)を行っている。たすけあい活動は会員制で、サービスも利用(家族も含む)もする「本会員」、利用者本人の「受給会員」、組織の運営にかかわる「正会員」、資金面で会を支える「賛助会員」に分類され、本会員・正会員は入会金1万円、受給会員・正会員・賛助会員(個人)は年会費3000円が必要。サービスの利用方法はチケット(点数)制で、サービスを提供した者は、現金化するか時間預託にするかを選択(うち1割は事務費)することができる。なお、介護保険通所指定施設は、民間の宅老所としても利用可能(→連絡先は最終頁)。
 
 この介護保険サービスの利用者の増加によって、同会の事業収入は飛躍的に増加。2000年度は約1億2000万円と、前年度の約3000万円から一挙に4倍もの伸びを見せた。その結果それまでの財政不安がかなり解消され、保険事業の収益で助け合いのサービス利用単価を900円から800円へ引き下げることもできた。また常勤スタッフの数も増えて現在は25名。4年制大学の新卒者を含めて20代、30代といった若い担い手が多いのも特徴の一つである。「事業の継続のことを考えると、おばさんグループのままでいるのは良くないと思っていましたから、若い世代が入ってきてくれたのは本当にありがたい。パソコンにも習熟しているので、介護保険の給付管理業務などの事務作業にも大いに活躍してくれています。その一方で、移送サービスなどの分野では定年後の男性の参加も増えており、今後はもっとこの会が雇用の場となることを目指していきたいですね」
 また同会では現在2か所で介護保険対応のデイサービスも行う宅老所を運営しているが、戸畑区の「デイホーム夕鶴」は、70代の旅館経営者が「社会のために役立ちたい」と提供してくれた別館を利用したものだし、八幡西区の「宅老所大浦」はたすけあい利用会員が提供してくれた民家を改造したものだという。
 「こんなふうに、地域にあるものすべてを社会資源にできるのがNPOのいいところではないでしょうか。また夕鶴のほうは、提供者自らが施設長となって、ホームを運営してくれてもいます。やりたい人とNPOが手を組めばできることはいろいろあると思うので、その可能性も探っていきたいと思っています」
 
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昨年5月にヘルパーステーションが独立。事務局より30メートルほど
 
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ステーションの若いスタッフたち
資金調達にひと苦労これからのNPOには経営的な視点も必要
 こうして見てみると、介護保険は同会の活動の幅を広げ、新たな可能性も与えた。しかしその一方で、「思いもかけなかった厳しい現実にも直面している」とも石井さんは言う。「事業者としての基礎体力が不十分なままに急激に事業が拡大したため、資金手当てが追いつかないんです」
 財産がなくてもNPO法人格は取得できた。それゆえ介護保険事業が始まった時点での会の財産は、40万円程度しかなかった。ところが人件費一つをとってもそうだが、常勤スタッフを雇えば、保険収入が入ってくるまではお金が必要になってくる。それを支払うだけの資金はどこにもなかったのである。「まさか給料は3か月待ってくれというわけにはいきませんから、持ち出しました」
 
1991年8月   日本ケアシステム協会「まごころサービスネット・北九州センター支部」発足
1995年1月   同協会より独立。サービス生産協同組合「たすけあい北九州あいの会」となる
1998年5月   NPO法人格を取得
2000年1月   北九州市委託事業ホームヘルプサービスを開始
4月   介護保険事業に参入。「デイホーム夕鶴」開所
12月   助け合いのサービス利用単価を900円から800円へ引き下げる
2001年9月   「宅老所大浦」開所
 
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(上)昨年秋にオープンした「宅老所大浦」でくつろぐお年寄り
(下)デイサービス。中学生の体験ボランティアと全盲の方の散歩
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 また同会では2000年度に約200万円の法人税を納めたが、これもまた借り入れをして費用を工面したという。「NPOにとって、これは大きな落とし穴でした」と石井さん。結局、宅老所大浦の改修費用には900万円ほどかかったが、いずれ収支は黒字になると見込んで750万円を借り入れ不足分と人件費2か月は持ち出しとなった。
 「課税額は企業とまったく同じ。儲けたら税金を払うのは当たり前でしょうが、NPO法人は非営利団体。ボランティアで地域福祉に貢献しているのに、税制支援がないというのはどう考えてもおかしい。NPOだからといってすべて税制優遇しろとは言いませんが、公益性の高いNPOに対しては、何らかの優遇措置があってしかるべきだと思うのですが」
 いずれにしても、活動をすればするだけ資金が必要になるという現実を前にして、これからのNPOには経営的な視点も必要になることを痛感しているという石井さん。
 「その点をこれからはもっと学ばないとね。ただ、それでもお金は何とかなるって、どこか楽観してるところもあるんです(笑)。それよりも大切なのは、いい人材や物件との出会い。まだまだより地域密着で地域のニーズに応えられるような宅老所を増やしていきたいし、いずれはグループホームもつくりたいと考えていますから。そうしてすべての仕組みをつくって、自分が死ぬときには笑って逝けるような社会にすることが究極の目標です」
 理念と運営の両立をどう果たしていくのか。これはどこの団体でも多かれ少なかれ突き当たる問題だ。
 あとに続くNPOのためにも、ぜひともすばらしい道標をつけていってほしい。
 
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会員さんから届いた1俵のモチ米でにぎやかに餅つき
 
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保育園のお迎えと在宅子守をしながら夕食づくりも行うたすけあい活動








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