レポート[4]
共に学ぶこと〜講義保障を受けてきて〜
菅原 あさみ(函館市聴覚障害者協会)
1、はじめに
私は平成12年度筑波技術短期大学(以下技短とする)を卒業し、北海道教育大学函館校(以下北教大とする)に編入学した。ここでは聴障学生の入学経験が、これまでになかった北教大における講義保障の実態と、唯一聴障学生である私がそこで他学生と共に学んでいく上で感じたこと、そしてそれらを踏まえた上で、最後に技短の卒業生として技短の在り方について要望・期待を提案していきたい。
2、北海道教育大函館校での講義保障
▽講義保障の組織(バリアフリー委員会の設立・登録状況)
北海道教育大学函館校では、平成12年度から、障害学生が修学可能となるよう施設設備の整備や支援体制、具体的な支援の方法などを検討、取り組んでいくことをベースとした「バリアフリー委員会」が設けられた。この「バリアフリー委員会」の中に設けられた授業保障パートの一つが、現在講義保障としてのノートテイカーの組織運営にあたっている。この組織運営上はコーディネーターと呼ばれ、現在は6名の教官から運営されている。ノートテイカーの登録については、学生ホールなどで掲示するなど本学学生に対して募集を行った上で、応じてくれた学生に登録してもらうというかたちをとっている。コーディネーターの役割はノートテイカーの募集、各授業へのノートテイカーの分割割り当て、代理・臨時ノートテイカーの支配、聴障学生・ノートテイカー・授業者への要望への対処、ミーティング(聴障学生・ノートテイカー・コーディネーター)の開催などが主である。
▽講義形態に応じた保障形態
これまでに講義形式の他にも、討議形式、演習形式、ゼミ形式などさまざまな形式の授業を受けてきたが、その中で最も逐次性が要求される、討議形式・ゼミ形式ではノートテイクでも大変な遅れをとってしまう。そこでバリアフリー委員会の先生方と相談して、討議形式の保障では、OHCによるテイクを実践させてもらった。結果として、他学生の目にもノートテイクの進行具合がわかるということで、他学生の発言が配慮され、テイクもスムーズに進んだ。研究室単位でのゼミの授業では、6人と少人数のため、先生にPCにてタイプしながらの説明をしてもらっている。また、実験などではゼミの同期に復唱してもらったり、筆談をお願いしたりしてもらっている。テイクが困難とされる数学の授業においては、予め先生にプリントを作ってもらっている。それを用いて、ノートテイカーが授業中に補足するかたちである。授業によってまちまちであるが、わかりづらい専門用語はできる限り黒板上で説明を記入してもらう、テイカーが書ききれなかったり、理解し切れなかったりしたときなどは、先生にストップをきかせてもらうなど、どこか一箇所に視点を絞れるよう、配慮してもらっている。専門性の問題については、専門科目(情報)は過去に受講経験のある情報科学コース学生に、免許取得を希望する数学の授業においては数学科の学生・院生に一任し、授業内容に一律したテイクを配慮してもらうことにした。
3、共に学ぶこと
▽手話サークルの設立・手話の講義の開講
北教大では、学生に障害者理解をより啓発するために、バリアフリー委員会で検討された結果、昨年後期に地域のろうあ者、手話通訳者からなる「障害者理解とコミュニケーション(手話)」の講義科目名で、一般科目枠で実施されるようになった。これらが実践されたことから、聴覚障害者理解、とりわけ手話に理解や興味を持ち始めてくれる学生が一層増えてきた。また、学内で手話サークルを開くことにより、学生たちに聴覚障害に対する理解をなお深めていくことができるようになってきたと思う。そしてこれらを機に、授業中においてそれほど重要な事項ではないものに対しては、少しずつであるがノートテイカーに手話を用いてサポートしてもらえるようになってきた。こうしてサポートを受けながらも学生生活を送っている私であるが、周囲に理解を求めることなど、まわりの学生たちと関わっていく上で、逆に私自身にとっても様々な面で勉強になっている。これからの要望・期待としては、こうした学生たちと一緒に、バリアフリー委員会の協力を得ながらも、よりよい情報保障を考えていくことによって、もっと周囲に聴覚障害、手話コミュニケーションについての理解を広めていきたいと思っている。
▽これからの技短の在り方について
以上現在北教大で学んだことを述べてきた。健聴学生と共に学んでいくにつれて、それまでに学んできた技短との環境と比較し、それらについて振り返ることも少なくはない。大学の中では講義の場面であっても、それ以外であっても常に先生と学生のコミュニケーションが大いに成り立っている。これは先生と学生のコミュニケーション手段が同じであることから、スムーズにいくといえることであろう。また、学生同士の討議も大学生活にとって大いに必要ではないだろうか。私は北教大に入って、これらのノートテイクという授業保障に恵まれることができたが、肝心の討議やコミュニケーションは満足行くまで成り立っているとはいえない。もっと、自分が納得できるまでコミュニケーションをとっていきたい。技短は聴覚に障害を持った学生が集まり、そして同じ学習環境にある彼らが共に学ぶ場である。そういった恵まれた環境であり、そして何よりも学生と先生がまずスムーズにコミュニケーションを豊かにとれるところ、それが技短の大きなメリットといえるところではないだろうか。技短に入るまで普通学校、いわゆるインテグレーション上がりであった私は、それまで自分の障害についてさほど深く認識したことがなかった。そんな自分が、はじめて聞こえない自分自身に対してのアイデンティティーについて考え始めるようになったのは、技短で、同じ障害を持つ先輩たちや、サークル等を通して、学んでいったことから得ることができたのではないかと思う。そして、それらの経験が今の私に大いに影響されている。学問だけではなく、自己の障害について認識できる絶好の場であるといったなど、多くのメリットを生かしつつも技短自身が成長し、魅力ある大学になって欲しいと私は願うばかりである。
司会:小中((富山県立富山ろう学校)
要点をまとめると
1.バリアフリー委員会を設立した経緯と筑波技短の関わり
2.ノートテイクについての悩み
3.一般の学生と一緒に学ぶこと、活動などを通して共に行動することの意義
4.理解を深めるためには
5.筑波技短の役割。どのような役割を担っていけばよいか
だと思うが、質問・意見はないか。
山村:(石川県聴覚障害者協会)
北海道教育大学函館校の発表。自分は20年前に北海道大学に行っていた。レポートを聞いて非常に羨ましいと思った。北海道教育大学函館校は教育専門コースで学生が少なく、筑波技短との関わりが上手くできたのか。自分の通っていた大学は、総合大学であり、健常者もいて、一人一人が教育をするのは非常に困難。
筑波技短から総合大学に編入した場合、筑波技短のサポートは今のケースのようにできるのか。
司会:新井(筑波技術短期大学)
大きな大学や小さな大学といった、大学の規模の大きさでの違いは確かにある。
北海道教育大は学生の数が少ない。菅原さんの編入したコースは情報科学の専門で学生の数が少なく、先生の数も少ない。リーダーの先生が行動を起こせば、互いに活動を一緒に始めやすい環境にある。大きな大学の場合は、何かを始めようとすると、教官の間での調整が難しくなる。小さい大学は調整しやすい。
筑波技短の関わりは、小さい大学の場合の方がやりやすく、その背景には、教官などのイメージがしやすいことがあり、影響も大きいと個人的には感じている。
筑波技短としての支援については、後で沖吉先生から補足してもらいたい。
山村(石川県聴覚障害者協会)
学内では手話サークルはあるか。あれば、サークルからの支援はどうか。また、地域の手話サークルの支援はあったか。
司会:新井(筑波技術短期大学)
彼女の場合は、教育大学の先生が地域の手話サークルや協会に行って相談していた。今は、彼女自身が手話サークルや協会とのパイプを持っている状態。
司会:小中(富山県立富山ろう学校)
小さな大学はサポートがしやすい面がある。菅原さんは、協会と相談しているという話もある。質問がないようなので、沖吉先生の方から、筑波技短のサポートについて補足説明をお願いしたい。
共同研究者:沖吉(筑波技術短期大学副学長)
今、非常に世の中が変わってきている。
1.構造改革の中で大学のあり方も見直されている。
・障害者を含めてその教育にうまく使えないか。
・向かい風を追い風に変えていきたい。
スキーのジャンプも向かい風でうまくジャンプできる。向かい風をうまく捉えていく必要がある。
2.障害を原因とする就職・修学資格をとるための障害欠格条項の撤廃。
63の欠格条項のうち42が撤廃された。
今年度中に全て撤廃されるだろう。障害者が社会に参加するための大きなきっかけになる。
3.障害を持つ学生へのサポート
大学の学長(管理者)から、「真剣に考えなければならない」という動きがでてきた。
3について話を進めながら筑波技短のサポートについて繋げていきたいと思う。
▽障害者の高等教育への希望者の急増について
正確な数字はわからないが、ろう学校を参考にすると、大学・短期大学への希望者が、1998年で1.9%だったが、2000年では9.6%になっている。12年間で約5倍の進学率になっている。特に、大学への進学希望の割合が増えている。国立大や私立大への進学が増えてきたということだ。
昨年、国立大学の学長で構成されている委員会(国立大学協会)があり、障害を持つ学生に対する支援の実態調査を行った。これらの実態調査や、支援・窓口・施設の変更など、どうしたいのかについてまとめたものが冊子(国立大学における身体に障害を有する者への支援に関する実態調査報告集:平成13年6月)になっている。
その中で、最近3年間の国立大学入学数が出された。平成12年での国立大学への障害者の入学などの様子についてだが相談者数が242人(うち聴覚障害者94人)、大学受験者数が196人(うち聴覚障害者63人)、大学入学者数が83人(うち聴覚障害者29人)である。また、相談を受けた大学は全体の70%強であり、ほとんどの大学で障害者の受験希望者数が増えていくと思われる。このことからみて、大学の管理者が、障害者の高等教育についてどういった風に対応するのか真剣に考える認識をやっと持ってもらえたといえる。
国立大学における障害学生に対する支援状況だが、学部内における受験に関する規定を設けているところは全体の31%。他は障害のある・なしに関わらず同じ試験をしている。大学全体で統一した受験に関する規定を設けているところは全体の14%である。また、入学後の障害学生のための相談窓口を持っている大学は全体の31%、相談に対応するための特別な組織を有している大学は全体の11%である。
実態調査は、「何人入学したか」「支援はどうか」「建物の構造についてはどうか」「今後どうしたいか」など、かなり丁寧に調査してある。
さて、その実態調査報告書の中で、調査に基づいて国立大学協会がいくつかの提案を行っているので紹介したい。
・各大学に「障害学生支援委員会」を設置し、恒常的な「障害学生支援センター」に発展させる。
←障害学生が属している学科の先生と学生ボランティアの支援だけでは一時的になるのではないか。その為に、支援センターに発展させていこう。
・エリアごとに、支援の中核となる大学を設ける。
←専門の先生、関心の深い先生などの違いがある。エリアごとに支援の中核となる大学の設置を。
・基幹大学に「障害学生支援情報センターを設置してはどうか。
←そのための支援ネットワークを形成する。
これらが本当に実現すればかなり進歩すると思われる。その他にも、提言されている一部を紹介すると、
・施設、設備の整備について
←大学側が一方的に行うのではなく、障害学生の意見も聞き、真に利用しやすく、障害学生が楽になる設備を作りたい。
・ボランティアについて
←障害学生への支援は、全てを一般の学生ボランティアに頼るには限界がある。学生は、授業内の一般ボランティアでの支援は無償。何らかの報奨を国として支払うことを考えてほしい。学内では授業内の位置付け(正式の単位を浮揚する)専門的技術を要するものについては大学院の学生や地域の中で専門知識を持った人との連携も必要である。要約筆記については地域のボランティアにも要求していく。
これは、今までの報告から見れば画期的なことであり、私達も後押ししていきたいものである。
筑波技短からも6月に報告書が出たのだが、筑波技短には大学の教育研究についてどういったことをしていけばよいのかを話し合う会があった。その中身について紹介したい。
▽筑波技術短期大学運営諮問会議の答申
(平成13年4月)
・障害者の高等教育の整備:3つの提案
1.障害の特性に即した教育を行う本格的な大学をつくる
←障害の特性を生かせるものにしていかなくてはならない。
2.全国の大学等で、障害者と健常者が共に学べる環境を作っていく。
3.障害者教育を適正・円滑・効果的に進めるネットワークをつくっている。
←障害者教育を、ネットワークでしっかりしたものにしたい。
・筑波技術短期大学を「大学」に改組・整備
1.本格的な高等教育・研究機能
2.全国の大学への支援機能
3.ネットワークのセンター機能
・聴覚・視覚障害者の大学設置の趣旨について
1.社会で活躍できる専門技術者、指導者の養成
→個性、障害の特性に即した本格的な教育。各人の社会自立・参加、社会貢献を支援
※社会に積極的・リーダーとして参加し、障害者としての経験を生かせる人材が必要。
2.聴覚・視覚障害者の高等教育プログラム。障害保障・情報保障システムの開発
→他大学、学校、施設等への支援。障害者全体の教育に貢献
※活用するには、高等学校やろう学校などで支援できる。
3.情報保障、健康科学に関係する専門職の育成、東西医学の統合的研究
→高齢化社会における健康的な国民生活に寄与(社会全体に貢献していけること)
私たちも障害者になる可能性がある。聴障にとっての支援が、高齢化社会に貢献できることにもなる。(高齢者の中には、耳が聞こえにくくなる人もいる)
具体的に筑波技短ではどんなサポートをしているかだが、教育方法開発センター、他大学からの相談に答えたり、学生からの相談に答えたりしている。
筑波技短では平成13年2月に相談支援室を設置した。これは、大学全体として対応できるように設置された。相談や研修会を開いたりしている。また、支援や相談の返事をしている。内容としては、
・聴覚・視覚障害学生の大学教育に関する相談支援を行う
→受け入れ体制、障害の把握、施設整備、学習支援体制、教官の支援、ボランティア、全学への啓発、進路指導
・助成措置、地域の専門家、支援組織などに関する情報の提供など
PR不足もあり、筑波技短の存在を知らない、筑波技短が聴覚障害のための大学であることを知らない人が多い。可能な範囲でサポートしたくセンターを立ち上げた。サポートにあたっては筑波技短の存在があることを積極的に働きかけていく必要がある。
・障害をもつ大学の措置制度を知らない人が多い。
←全国の大学の中で、障害学生がうまくいくよう、働きかけないといけない。できる範囲内で協力、相談を受ける。助成措置があることを知らせているが、知らない学生が多い。
・大学に障害をもつ人が入学した時の助成の道を教えたい。
←助成など、筑波技短へ相談する道があることを知ってほしい。各大学への障害学生へのサポートをしていってほしい。具体的に役に立つサポートを深く考えていきたい。今回の学会も役に立っている。これからどんなスケジュールを行うかなど、質問あればよろしくお願いしたい。
司会:小中(富山県立富山ろう学校)
今の話をまとめる。障害学生への支援について国立大学協会が行った実態調査のまとめと提案について。障害学生を筑波技短としてもサポートしていきたいこと。他大学からの相談を受けたり、相談や連絡に答えたりできるようなネットワーク作りをできる範囲で支援していきたいことなど。質問などあればお願いしたい。
菊地:(群馬大学)
今の沖吉先生の報告の中で、何のために技短があるのか、筑波技短としての計画や目的、保障などの話があった。技短の卒業生としては筑波技短が変わるのは嬉しいが、本当に変わっていくのか。先生方の意識、細かな面で先生方が学生をどのように見ているのか。筑波技短の先生が私たちを見ているイメージとして、例えば、新井先生のように手話やろう文化なども良く知っている先生は少ない。逆のイメージの先生もいる。先生方の意識も変わってくれたらと思う。
共同研究者:沖吉(筑波技術短期大学副学長)
耳の痛い意見だ。私も手話ができないが、時々大学の講義を聴いたりしている。私自身は手話よりダンスの方がうまい。筑波技短の中にもいろいろな先生がいる。一般の国立大学も同じ。でも、皆熱い気持ちを持っている。先生方の意識改革も進めたい。先ほどの趣旨で大学を作りたいと思っている。始めから素晴らしい先生がいるのではない。いろいろな場を通して活動し、成長してゆけたらと思う。新しい大学や制度を作るには、学生と共に先生も成長していく。話だけではなく、いろんな場面を通してどういった中身にするのか、どんな先生になっていくのかも考えたい。改革・改善に繋げていきたい。
菊地:(群馬大学)
お願いします。本当にがんばってください。
堀田:(神奈川県聴覚障害者親の会)
平塚の親の会の堀田。昨日から参加している。11回目の参加。この分科会ができてからずっと参加している。息子は、平塚のろう学校の卒業生。本科がない。大学に進むための普通科をろう学校の中にたくさん作ってほしいと思っているが、まだない。PRして、たくさんの小中学生が大学を目指し、大学で勉強できるような体制を作ってほしい。大学進学を経験している大学生が、いろいろなところで報告して、親たちにどのような方法で大学に行けたのかということを教えてほしい。まだ、大学進学のことを知らない親も多い。一年に一回のこの会の内容を、地元に帰って、ぜひ、親にも報告してあげてほしい。
共同研究者:沖吉(筑波技術短期大学副学長)
個人的な感想としては、おっしゃるとおり。障害学生が大学に進学する道はまだ狭い。今のろう学校でどういった人間を育てていくか。今までは大学進学のことを考えてはいなかったが、今後、3〜4割は大学に行く時代としたいが、一度には変えられない。4年間で卒業するのは難しいかもしれない。大学の中には専門学校からが入りやすい大学があるが、今後は障害がある人の入りやすい大学もあってもいい。高等部までの教育を受けた人も入れるような大学作りも、これまでの教育を受けた人も大学へ入れるようにしなければならないと思う。障害学生が大学に入った後、しっかり勉強できるような環境作りも必要である。