レポート[3]
群馬大学での聴覚障害学生の受け入れ
菊池 真理(群馬大学学生)
●群大の反応
<学生>
群大には私のほかに二人難聴の学生がいるが、その人は大学に情報保障を要望しなかったので私が初めての要望する学生ということになる。その二人は4年と院2年でどちらも今年度卒業を迎える。彼は要望なんて考えもしなかったと言っていた。情報不足も大きな問題だと感じた。
<学校側>
立ち上げるまでに教官の中で色々な意見があり、一時は制度として立ち上げることが無理かと思われたときもあったが、制度として無事に発足した。思ったよりも早い対応で正直驚いている。
●反省
群大の合格通知を受け取ったのが昨年度6月末。入学までに色々と前もって打ち合わせをするべきだったのであるが、色々な事情でできぬまま、入学した。もっと早いうちに交渉を始めていればスムーズにスタートできたのではないかと思っている。
●現在状況
入学前から群大の院生とメールのやり取りを何度かしたことがきっかけで、制度として立ち上がっていないとき(1ヶ月程)の間もその院生が個人的にNTをして下さった。その院生が都合が悪いときは代わりの人が来てくれた。
現在も研究室に質問しにお邪魔したり、研究室の行事に数回誘って頂いたりとお世話になっている。
・お花見
・英会話オンリー茶話会
・飲み会
・リサーチプロポーザル
●情報保障制度
・募集
初めの頃、ボランティアでの募集を行ったがなかなか人が集まらなかった。予算がついた後
1.TAと同等の謝金
2.教務課でボランティアをしたという証明書を発行する
の2点を追加して再募集を行った。
学生があつまり、都合が悪いときはお助けマンとして数人が控えてくださることに。
・方法
パソコン要約筆記で、パソコンを2台用意。1台は入力用。もう1台は入力用PCと無線LANで同時出力するPC。要約筆記者が先生の話を聞きそれを入力する。私はそのPCを横に見ながら、板書を見ながらノートをとっていく、そういう形で授業を受けている。ソフトはIPtalkというチャット用のフリーソフトを使用。テイカーに対して質問ができる利点がある。(テイカーの要約の意味の確認など)
・問題点
テイカーが居眠りをする。テイカーの字が汚い。後で読み返すと分からない。コーディネーターの先生に相談して、眠い時には自分から交代してもらうよう“自衛”してくれるよう言っていただいた。最初はテイカーがつくだけで嬉しかったが、今は質がまちまちなど講習会の必要性を感じている。夏休みに講習会を行う予定である。
●入学から今までの流れ
<4月>
入学してすぐ、要望書を渡し、早急にノートテイク制度を立ち上げて欲しいと希望を伝えた。また先生達には授業のレジュメ、OHP使用のときにはOHP資料を頂きたいとお願いした。制度としてやる場合、TA制度を活用するのはどうか?と提案を受ける。
制度としてはまだ立ち上がっていない段階であったが、授業は院生がボランティアでやって下さり、英語の授業を除いてみなNTが付いている状況で大変恵まれた環境で講義を受けられた。
<5月>
私は要望を大学側に伝えたのが4月初めで遅いこともあって今年度は予算がつかないかもしれないから有償化は難しい、と言われていたが、こないだ教務委員会で一年間に35万くらい予算が付くことになった。群大で初めての情報保障制度がスタート。
実は前にもボランティアでの募集を行ったがなかなか人が集まらなかった。
1.TAと同等の謝金
2.教務課でボランティアをしたという証明書を発行する
の2点を追加して再募集を行う。
情報保障担当の教官も決まって、これからはその先生を通すことになった。
●通訳事情
講義に要約筆記がつくが、英語だけは通訳がついている。
市の通訳派遣に問い合わせてみると手話通訳というのは、福祉関係のお金で養成しているから、学校教育というのは派遣対象外というのが普通。学校の講義の通訳は業務対象外だから派遣はできないと言われた。
手話サークルからボランティアを募って来てもらっている。英語は週に1回で、皆さん仕事を持っているので、5人の方が交互に来てくれている。
<問題点>
通訳の英語力が英語の通訳をするには不充分であること(通訳が下手なわけではない)。
英語と日本語が瞬時に切り替わるため、日本語は通訳できても英語だと把握できず、日本語に戻ったときに対応が遅れがち。
<課題>
英語力のある、専門的知識を持った通訳の養成⇒どこで、どうやって?
確かに現状を考えると、かなり無理がある。医療場面でさえ人材確保が困難で、まして、学校に常時だとすると資源的にも時間的にも困難。
また専門の授業の手話通訳は一般の手話通訳とはまた別の知識や技術が要求される。大学での聴覚障害学生の情報保障のための、専門知識に強い通訳を養成する必要がある。
司会:新井(筑波技術短期大学)
今の報告の中でも理系の学生の情報保障がない。初めて学生が技術系の学校に入って大学としても初めての試みとなるわけ。群馬大についてはまったく技短からアドバイスがなかったのではなく、コンタクトはとっていた。3月に電話をしている。もうひとつ北海道教育大の場合、私から資料を渡している。学生のノートテイクは同じレベルの学生では難しい。知識として学生より上の人がいいという流れもある。初めから事務の人と話して募集した。群馬大での、6ヵ月間の経験を発表してもらったが、教育問題が苦手な人の多い情報工学部の中でがんばっていると思う。
藤垣(日本福祉大学)
ノートテイクを受けていて、これだけは守ってほしいとか、これはあんまりというノートテイカーはいたか。
レポーター:菊池(群馬大学)
眠ってしまうノートテイカーがいる。何回起こしてもだめ。先生に言っても眠ってしまう人がいた。本人に対してはやはり言えない。
藤垣(日本福祉大学)
週に1回英語のノートテイクをしている。自分が単位を落としてまでやっている。英語のノートテイクについての情報保障はあるのか。
レポーター:菊池(群馬大学)
なぜ単位を落としてまでやっているの。やめればいい。失礼だが、おもしろいという印象を受けた。
藤垣(日本福祉大学)
周りの人の協力が得られず2人でやっている。みんな単位を取るのに必死。
司会:新井(筑波技術短期大学)
あなたに対するアドバイスは難しいようですね。英語の勉強より英語のノートテイクはもっと大変ということだろうね。
舟田(富山県ろうあ福祉協会)
文系と違って実験がある。座ってノートテイクできないと思う。工学部は実験があると思うが、ノートテイクはどうなっているのか。
レポーター:菊池(群馬大学)
実験は10月からだ。実験や応用的なことにこれから入る。夏休み、試しに音声認識ソフトを使う。プログラムの方法は少しずつ個人的に準備を始めている。9月にノートテイクの講習会をする。なんとかなるだろう。
司会:新井(筑波技術短期大学)
彼女は実験の経験があるので安心してるのかな。
森崎(難聴児童を持つ親の会)
他の2人の聴障学生はどうしていたか。
レポーター:菊池(群馬大学)
1人は院の2年生。もう1人は4年生。1人はおとなしくこもりがち。サークルへ行っても黙っているだけ。もう1人(4年生)は私の話を聞いて世界が広がっているようだが、自分で動こうとはしていない。
森崎(難聴児童を持つ親の会)
息子も困っている。保障の運動の仕方とかどうか。
司会:新井(筑波技術短期大学)
お互いに仲良くなって情報交換しあうといいと思う。
西出(石川県聴覚障害者協会)
がんばっている。実際やってみることが大事だと思う。アメリカでは、情報保障は義務付けられているが、日本はぼちぼちの状態だ。
司会:新井(筑波技術短期大学)
明日、北大の報告も簡単にする。名古屋の研究発表にも関わることと思う。
2日目
司会:小中(富山県立富山ろう学校)
19日の進行は小中が担当する、私は大学を卒業したのが20数年前なので、討論が分かりにくいこともあったが、今日はがんばる。今日だけの参加の方もおられるので、昨日のレポートをまとめて報告したいと思う。
1つめは、松延秀一さん「高等教育をめぐる最近の状況」。大学の民間化への危機感について話してもらった。その後、共同研究者の沖吉和裕先生より大学の独立行政法人化についての話があった。独立行政法人化に対してどのように対応していけばよいのか、聴覚障害学生の情報保障への支援などについて、大学のあり方について要望を作ったり、聴覚障害覚醒への支援体制を作ったりしていくことが必要ではないかとの話だった。
2つめは、中村友和さん他5名「東海地域を中心とした聴障学生の大学生活における意識調査結果と問題点」。東海地域のアンケート調査の報告だった。情報保障のあるなしで、できることとできなかったこと、理科系・技術系の科目に対する情報保障が難しい問題などが挙げられた。また、学生のコミュニケーション手段がいろいろあること。大学内の手話サークルとその地域の手話サークルとの連携や関わり、情報支援のサポートの連携をどう作っていけばいいのか。情報支援の事を知らない学生がいて、情報保障が遅れているという問題も出された。
3つめは、菊地真理さん「群馬大学での聴覚障害生の受け入れ」。入学してゼロからの情報保障を作ってきた。ノートテイクのボランティアをどう募集するかについて、報奨を与える方法で募集したりしたこと、学生ボランティアに対してはその証明書を出した方がいいのか、個人での努力とあわせて、筑波技短との連絡や支援があったこと、ノートテイク技術の問題について、講習会を開き、技術の共通理解をしていくなどの話があった。
今日の予定だが、菅原あさみさん「共に学ぶこと―講義保障を受けてきて―」。
菅原さんは欠席されたので、代わりに新井先生の方から報告をして頂き、その後、沖吉先生から情報保障について、筑波技短の支援についてなど30分ほど話してもらい、課題を提起して頂きたいと思っている。