レポート[4]
難聴学級の役割
〜手話を活用し、聴覚障害の理解と認識を深めるために〜
足立 貢(大阪市立酉島小学校)
1.はじめに
本校で6年間、難聴学級を担任してきました。入学時より指導をおこなってきた児童が自ら選択し、この春、聾学校の中学部に進学しました。
本児や、通常の学級の他の児童に、聴覚障害をテーマにして指導をおこなってきたことを振りかえり、まとめてみたいと思います。
2.難聴学級の取り組み
難聴学級の担任は、次のような点に着目し、取り組みを進めていく必要があると考えています。
[1]聴覚障害児への言語指導、教科指導、自立活動的な内容の指導
[2]聴覚管理(聴力、補聴器、FMマイクの管理も含む)
[3]障害の理解、認識を深めるための学習を実施(他の教師や他の児童に対しておこなうことも含む)
[4]保護者との連携
[5]通常の学級の担任へのサポート
[6]関係機関(他の難聴学級、聾学校、病院、難聴児親の会、補聴器販売店など)との連携
なかでも今回は、[3]の障害の理解、認織を深めるために取り組んできたことを報告します。
3.対象児の実態:現在、聾学校中学部1年生女子
[1]入学時の様子
補聴器をうまく活用し、騒音下など、よほど聞きとりにくい状況でなければ、相手の話をほぼ聞きとり、音声により会話ができていた。
文のレベルで読み書きができ、文字を活用したことばの学習を、入学直後から展開できた。ただ、イメージが広がらず、「○○をしました。」など、決まりきったパターンで表現することが多かった。
[2]他の児童との関係
高学年になるにつれ、他の児童とのコミュニケーションがうまくいかなくなる(話題のずれ、意思疎通の不十分さからトラブルも多くなる)。女子のグループにうまく入れないことが多かった。
[3]学習の仕方
国語と算数を難聴学級で学習する。他の教科は、全て通常の学級で学ぶ。通常の学級で学習をする際など、FMマイクを活用する。
また、校内にある他の障害児学級と合同で学習する時間を週に2〜3回持つ。学期に1度合同で「おたのしみ会」を実施する。
[4]情報保障
朝礼やいろいろな行事(遠足、運動会、劇鑑賞、卒業式など)では、FMマイクが有効にはたらくように工夫する(FM補聴器・マイクの使用が対象児にとり、一番使いやすい方法であったため)。
4.難聴学級での指導
(1)難聴学級での取り組みと対象児の変化
対象児の手話への興味や関心、聴覚障害に関する認識の深まりや考え方の変化などを難聴学級で取り組んできたことと併せてまとめてみます。
学年 |
対象児の興味関心、考え方の変化 |
難聴学級での取り組み |
1年 |
・手話に対する興味や関心は、あまりない。
・補聴器の重要性はわかる。 |
・難聴学級に、手話や聴覚障害にする図書を用意しておく(情報提供)。
・難聴児親の会を紹介、入会を勧る。 |
2年 |
・まだ、手話に対する興味や関心はあまりない。
・きこえにくいなど自分から訴えることもほとんどない。 |
・オージオメーターを購入し、校内で聴力検査が可能になり、聴力について話す。 |
3年 |
・FM補聴器・FMマイクの有効性に気づき積極的に使用する。
・手話に少し興味を持つようになり難聴学級においていた手話の本を自分から見る。 |
・FM補聴器の使用を開始。情報をうまくキャッチできるようにFMマイクの使い方を解説。
・「おたのしみ会」の発表で手話を使うように言い練習する。 |
4年 |
・手話の本を通常の学級へ持って行き、他の児童と一緒に見る。
・作文に聞こえにくいことを書き始める。
・聾学校の文化祭を見学する。
・耳穴式の補聴器の使用を始め、さらに補聴器への関心が高まる。 |
・プール水泳の際、手話通訳を開始。
・校内、PTA手話学習会(5、6年が対象)に出席するように言う。
・補聴器特性検査装置を購入し、補聴器やその調整について話す。場面により、耳穴式の補聴器とFM補聴器を使いわけるように話す。 |
5年 |
・作文で、聴覚障害や手話について書くことが多くなる(体験作文で入賞)。
・きこえにくい、わかりにくいということが、少し訴えられるようになる。
・通常の学級で、国語の教科書の詩を手話で表し発表する(参観日)
・他校の難聴学級と交流したことで聴覚障害児の集団のよさを感じる
・難聴児親の会のキャンプに参加、先輩の聴覚障害者との出会い、コミュニケーションをした経験から多くを学ぶ。
・聾学校の文化祭を見学する。
・母親とともに地域の手話サークルに時々参加する。 |
・週に1時間、手話の学習を開始(手話テキストを作成)。
・いろんな作文コンクールに応募するように言う(必ず聴こえにくいことを書く)。
・「障害を知る本 耳の不自由な子どもたち」を使い、聴覚障害について学習する。
・他校の難聴学級と交流会を設定。
・6年生から「ふるさと」の歌を手話で歌いたいと依頼があり、対象児と共に教えに行く。 |
6年 |
・読書感想文や毎日書く詩でも、聴覚障害に関することを書くことが増える。
・聴覚障害児の交流会「WANPAKU交流会」に参加、発表(全て手話をつけて)。
・聾学校の文化祭を見学、手話表現のすばらしさを感じる。
・手話劇など家庭から見に行く。
・卒業式の卒業証書授与後、一言意見を言う際、手話で発表。
・聴覚障害や手話に関して、自分なりの考えが持てるようになる。
・通常の学級の「終わりの会」や日常会話などで手話を使うことはない。 |
・難聴学級の授業、日常会話を含めできるだけ手話で表すようにする。
・障害の認識を深めるための学習を開始
・聴覚障害児の交流会で手話をつけ発表するように言う。
・いろんな場面の発表で、手話を使うように言う(通常の学級の「終わりの会」なども)。
・他校の難聴学級在籍児童とメールのやりとりをする。
・中学への進学について話し合う(聾学校の中学部を選択)。 |
(2)障害の認識を深めるための学習
対象児が6年生になり、時間をみつけては、聴覚障害について考えたり、情報を提供したりする学習を続けました。国語や算数の単元の変わりめや対象児の日常生活であったことを基にして、折をみて話し合いました。それを次のページのようにまとめてみました。
また、話をする際は、必ず板書をし、ポイントをまとめて示し、後で対象児が書き写しつつ、再度考えるという時間を取るようにしました。さらに、こちらから一方的に考え方を押し付けるのではなく、まず対象児の考えを聞いた上で話を進めることにしていました。
テーマ |
対象児の考え |
解説・情報の提供 |
1.聴力低下 |
・右耳の聴力低下のため、補聴器が片耳装用になり聞き取りにくい、不便 |
○聴力低下の原因(伝音造性、感音性)
・聴力は変動する、聴こえの変化に注意 |
2.聴覚障害者のコミュニケーション |
○今、自分で使おうとする方法・読話と発音、聴く(補聴器を活用)
理由:聴こえる人のコミュニケーションに合わせている
・プール水泳の開始にあわせ、情報保障の受け方を考える。
:教師の手話通訳と、友だちにも説明してもらう |
○聴覚障害者のコミュニケーション方法
・手話と指文字・筆談・身振り・読話と発音・聴く(補聴器を活用)などある
・どんな時どんな方法を選ぶか自分で決める
・自分の使いやすい方法を使ってもらえるよう要求する
・補聴器をしていない時のコミュニケーシヨンは、読話だけでは無理、手話が便利、時には筆談も利用する。
:相手の言っていることが分かるように工夫する・たのむ
わかっているふり、うんうんとうなずくだけは、だめ |
3.手話の種類 |
・今使うのは、日本語対応手話 |
○日本語対応手話と日本手話のちがい
・将来どちらを使うかは自分の考えで決める |
4.手話のよいと思うところ |
○今、自分にとって
・雑音が多い所の会話で便利
・会話がはずむ(きこえにくい友だちと)
・補聴器をはずしている時、静かに会話する時に便利
・手話で説明してもらう方が、聞き返しが減る
・手話の表し方は覚えやすい
○将来、手話をどう使おうと思うか
・きこえにくい友だちとの会話では、必ず使う
・きこえる人で手話を知っている人との会話でも使う
・新しい手話は、お母さんか聾学校の先生に教えてもらう |
○手話通訳の方法
・話すことを手話におきかえる
・手話、話すことを声で伝える
という2通りの方法があることを説明する |
5.耳のきこえにくい人のよび方 |
○自分のことを言うとき
・「聴覚障害者、きこえにくい人」を使う |
○聴覚障害者、聴力障害者、難聴、きこえにくい人、きこえない人、ろう者、ろうあ者など様々な言い方がある
・自分の立堵と関係する、いろんな考え方がある。相手の考え方や立場も尊重する |
6.情報保障 |
○情報保障に対する自分なりの考え
・今、何が起こっているのか聞いたりして、何をしないといけないか考えて行動すること |
・通常の学級での生活発表会でFM補聴器を使用しなかった
:発表している子の声は、ほとんど聞き取れない、自分から情報を断った
○情報保障の考え方:あたりまえの権利を得る、一番情報をキャッチしやすい方法を選び使ってもらう、差別や偏見の解消のため、自分があきらめたらおわり |
(3)他の児童が聴覚障害に対する理解を深めるために
通常の学級の他の児童が聴覚障害に対する理解を深めるために取り組んできたことをまとめてみます。
[1]きこえにくいことの解説(対象児の在籍する学級へ話しに行く)
[2]補聴器の試聴、説明 (FM補聴器、FMマイクの説明も含む、対象児の在籍する学級へ説明しに行く)
[3]手話の指導
[4]手話学習ビデオの作成:手話は対象児が表現(プール水泳で使う手話、6年生を送る会でうたう歌の手話表現、卒業式でうたう歌の手話表現など)
[5]障害児学級の「おたのしみ会」の様子をダイジェスト版(ビデオ)で、全校に流す、その際個々の出し物(対象児は、手話表現しているところ)を必ず入れる