カレントトピックス フリースクールの今
司会 北野 雅子(社会福祉法人石川県聴覚障害者協会)
武居 渡(金沢大学)
講師 竹内 かおり(龍の子学園)
井手 加奈子(ろうっ子学園)
杉田 達也(ろうっ子学園)
谷脇 智美(きずな)
司会:北野
最近の流れであるフリースクールを取り上げました。ろう教育をろう学校すべてに任せるのではなく、何か自分達で出来ることはないか、という新しい考え方が日本各地で起こって実践されてきています。そういった今の流れと、今回のお話をする方の紹介を武居の方からしていただきます。
司会:武居
ただいまご紹介いただきました、金沢大学教育学部 武居と申します。私は健聴者です。舞台上では私以外はろう者ですので、私も手話を使わせていただきます。読みとりは通訳に任せます。カレントトピックスということですが、今話題のフリースクールを取り上げることにしました。皆さんはニュースや新聞など様々なところでフリースクールを目にしたことがあると思います。土曜日や日曜日といった学校のない日に、ろうの子供達を集めていろいろな活動をしており、東京や名古屋、大阪といった大都市を中心に繰り広げられています。特徴はろう者がろう者らしく育っていくということにあります。ろう児をもつ親が健聴者という場合もあります。ですから、成人ろう者であるスタッフを見ると、自分の子供(ろう児)の将来のモデルになるわけです。このような活動を続けている皆さんに、実践例を報告していただきたいと思います。
まず紹介しましょう。最初に龍の子学園 竹内さんです。次にろうっ子学園 杉田さんです。同じくろうっ子学園 井手さんです。大阪のきずな 谷脇さんです。よろしくお願いします。
竹内
おはようございます。龍の子学園の代表を務めている、竹内かおりと申します。よろしくお願いします。1999年4月より、毎月第4土曜日に活動を続けて3年目になります。これまでの活動は毎月会場の予約を行っていましたが、今年に入り、福祉専門学校の好意により同じ会場での活動が可能になりました。現在我々のスタッフは、ろう者25名、健聴者5名で活動を行っております。通ってくる子供達は幼稚部から中学部まで40〜50名ほどです。東京、神奈川、茨城、千葉など関東の周辺の子供達となっています。
我々が活動に至った経緯をお話したいと思います。スタッフはろう学校出身者がほとんどを占めています。当然ろう学校では口話教育を受けました。今の状況は、良い方向に向かっているとは思いますが、我々卒業者、OBの中で、良い環境を作ってあげたい、より一層良いものにしていきたいという思いを持った者が集まりました。また、ろう教育の大会、集会などで意見を出されるのも、その場の中心になるのも、健聴者の先生方です。やはり私達が実践を重ねていく場を私達が作ろうではないか、そういった実践の報告から何か私達がやれることがあるのじゃないか、という思いから龍の子学園を設立しました。それはろう学校への批判という思いではありません。ろう学校の卒業者、OBのろう学校への思い入れは強いものがあります。私達の活動がろう学校、ろう教育を変えていく一助になればという思いから活動を始めました。龍の子学園の理念はこちら(スクリーンを示す)にあります。バイリンガル、ろう者の自然言語である手話、ろう者の文化(ろう文化)を基盤に書き言葉である日本語、当然我々ろう者も日本の社会で生きていく以上日本語を必要としますので日本語、私達が日本で暮らしていく以上必要不可欠な日本文化、これを第一言語の手話やろう文化を基盤にした上で獲得していこうというものです。日本語の獲得の前に、人間の我々の心を育てていこうというのが教育の第一前提だと思います。やはり、それには第一言語の手話が不可欠です。遊び、そして何か物を考える、コミュニケーションを図る、そういったことを手話で行い、人間を育てていくことが必要なのではないかと思います。それにはロールモデル、ろうの成人が必要です。社会性・集団性を育てる人間性、そして手話言語の発達、アイデンティティ、このことを中心にして活動していく場合には、確固たる信念を持ってロールモデルとなる意識を持った成人ろう者が必要だと思います。集まってくる子供達は当然ろう学校で口話教育を受けています。そういった子に手話を強要することはしていません。私達は口話は使いません。キュードも使いません。ですが、スタッフがまず子供のメッセージを受け取る。そしてそれを手話で返すことによって、子供達に何か新しい刺激や影響を与えていく。そして、子供達のメッセージを私達が受け止めていくということを基本にしています。私達の活動は、幼稚部、小低部、小高部、中学部と4つのグループに分かれて活動を行っています。親の会が別にあります。朝、スタッフが劇を演じます。子供も親も楽しみにしています。4時20分に一日の活動を終えます。親指姫という有名なお話ご存じですか? おむすびころりんとか、そういった物語をスタッフが考え、演じます。劇を行う私達の狙いは、例えば劇を演じていると苦しそうな様子をしていると、お水をすっと差し出すような子供が出てきました。劇の途中でですよ。そういうふうに人間性を育てることです。また、手話ポエムの披露も子供達は非常に楽しんでいます。私達の活動の内容を花に例えて図式化したもの(OHP)です。子供が持っている力を開かせるには何が必要か、太陽と水。まずそれには日本手話という光があって、お水になるのが遊び、活動、スタッフの力、そういった力を得ながら、本来子供が持っている力で花を咲かせる、これが私達の考えているイメージです。まず幼稚部のご紹介をします。手話の能力を高めるため、絵本の手話による読み聞かせ、またゲームなどを使って行っております。また子供が持っている能力や個性を伸ばす、子供達みんなで集まってワークショップのような話し合いをさせるような活動です。そして小低、小高、小学部の活動。先ほどの幼稚部は遊びが中心でしたが、そこにプラス、学習を重ねていくのが小学部の活動です。総合的なテーマによる学習、自分の意見を述べられる、そして人の話しを聞いた上で理論的にその物事を語れる、考えられる力を高める。そして手話の日本語への翻訳の力を高めるといったことを目標にしています。我々の活動は月に1回なものですから、親の会からはもっと活動を増やしてほしいという要望があります。乳幼児を抱えているご両親のために、そういった子供達が集まる場を週1回設けました。その様子をビデオでまとめてあります。(ビデオ上映10分)
まだまだ活動は浅いものですが、試行錯誤しながら進めてきました。この7月にロレール・ガリモアというアメリカの方がおいでになりました。その時、バイリンガル教育の話の内容がOHPで提示してあります。日本手話、日本手話と日本語、そして日本語、この3つを我々が試行錯誤しながら考えて実践してきた内容が、ガリモアさんの話を聞いてやっと確信を持つことが出来ました。そして私達スタッフと親との関係も大変良い方向に向かってきています。学園に通ってくる子供達の中にはインテグレーションした子供もおりましたが、ろう学校に戻りたいという子供達も出てきました。そして今は、普通校からろう学校に籍を移す子供達が増えてきています。そして幼稚部の子供さえも自分に自信を持ち、生き生きと発言する子供も出てきました。
最後に龍の子学園が抱えている今後の課題は、スタッフの質の向上です。様々な子供達が集まる中にたくさんの問題が潜んでいます。スタッフが日々反省を重ね、質を高めていくことが必要だと思いますし、月1回第4土曜日の活動の他にスタッフだけが集まり、研修会を行っています。そして私立学校などの見学を行い、私達の知識を高めていきたいと思っております。2つ目には教材ビデオの作成があります。楽しんで見てもらう娯楽用のビデオと、また学校で使用する教科書など、その教科書を翻訳した手話の教材ビデオの作成事業を進めています。3つ目の課題、これは一番大切なのですが、ろう学校との連携があります。ろう学校の中で成人のろう者を見ていないということがあります。そこに私達が入っていくことで成人のろう者を見てもらい、意見を聞いて頂き、意見交換を重ねていくということを進めたいと思っています。ろう学校の先生を対象にした講座をこの前開請いたしました。そういった活動も今後も進めていきたいと思っております。私達が作成したビデオ、その一部30〜40秒、ご覧下さい。(ビデオ上映)
いかがですか。2,3歳の子供達が集まったときに子供達に見せたら、大変面白がって楽しそうに見ていました。今ご紹介をしたのは、小さい子供に対するビデオでしたが、年齢別の様々なビデオが作れたらなあと思っています。
司会:武居
ありがとうございました。両親ろうの子供達の様子が見てとれました。続きまして名古屋ろうっ子学園の杉田さん、井手さんに発表していただきましょう。よろしくお願いします。
杉田
龍の子学園の発表を聞きまして、本当に良い内容だなと思いました。さて、ろうっ子学園の発表をさせていただきます杉田と申します。私達の活動の原点はろう児はろう児であるということです。2000年4月8日に発足いたしました。東京でオータムスクールが開催されましたときに参加しまして、いろいろと勉強をしました。その当時は龍の子学園はもう活動を始めているのですね。その内容を見まして、地元名古屋でも同じようなことが出来ないかとみんなで話し合った結果、このような形にすることになりました。手話で学び、教え、遊びということを進めています。手話はろう児にとって第一言語である。そして手話を第一言語として習得させるということを基本にしています。第二言語は日本語ということになりますが、音声言語としての言語ではなく、書き言葉としての言語です。これを念頭に活動を続けています。スタッフ自身、口話教育を受け、ろう学校で健聴に近づくための様々な教育を施されていました。聞こえないことを否定されているような思いを抱えていたという経験を持っています。何か釈然としないまま今日まで来てしまっているようなところがあるのですが、同じような思いを今のろう児たちにしているのではないかという危惧がありました。口話教育の結果、文章力や日本語の力が果たして付いたかどうか、むしろそれが低下しているような現実があるのではないかと思います。そこで、第一言語としての手話を身につけ、第二言語としての日本語、書き言葉としての日本語にきちんと翻訳できる力を養う、そういった教育を進める必要があるのではないかとスタッフ間で確認いたしました。また、ろう児の夢が小さな、些細なものになっているような気がします。「何かこういうものになりたい」という夢を持っていたとしても、それは「ろう者には無理だから」とか、「コミュニケーションが出来ないから」ということで、芽の段階で摘み取られてしまっているような気がします。ですので、大きな夢に向かって歩み続けてもらいたいというふうに思っています。そういった意味で、成人ろう者の存在は非常に大切ではないでしょうか。このような考え方の基で活動を進めています。学園活動は月に一度、第二金、土で行っております。常に同じ場所を確保して行っております。幼稚部、小低部、小高部の3つに分けられております。9時半に受付が始まりまして、10時に全体集会ということでまずスタッフが劇を行っております。10時半から、各部に分かれて活動をやっております。内容は龍の子学園とほぼ似たようなところがあります。昼食をとって、午後は午前に続きということで各部に分かれての活動が進められます。手話コーラスですとか、様々な学習を進めていきます。発表者をバトンタッチしまして、もう少し具体的なことをお話しいたします。

井手
ろうっ子学園の井手です。よろしくお願いします。今年の3月10,11日、一泊二日で愛知県あさひ高原少年自然の家で合宿を行いました。発足から1年たったということで、自分の意見をきちんと言語化する力をつけることが出来、また様々な行動力もついてきたということで合宿をしてみようということになりました。子供達には二日目の午前中に劇を発表するという課題が与えられました。まず一日目、午後から始まりまして、スタッフは絵本10冊と段ボール、新聞、画用紙、いろいろな色のペンを準備し、子供達に託して、主体は子供達に任せることにいたしました。子供達が自ら話し合い、実行していくという方針を取りました。参加は12名と少なかったですが、小高部2名、小低部6名、幼稚部4名という構成でした。どの劇をすればいいか、そんなことを話し合っている内に、自然にリーダーシップを取る子供が生まれていきました。劇は絵本から選んで取り上げようか、それとも全く別のものを考え出そうか、といったことを話し合っている。スタッフは端から見守っているだけということで、特に手出しはしませんでした。多数決で選ぶということに決まり、白雪姫が絵本の中から選ばれました。次は配役です。こういう役をやりたいと、それぞれみんな意見を出し合って決めていったのですが、王子様の役をやる子がどうしてもいない。そこで少々もめました。最後に王子様はお姫様にキスをしなくてはならないので、それが恥ずかしくてみんな嫌がっているのではないかと思われたのですが、なんとか話し合いで決めることが出来ました。それから小道具作り、練習に入りました。それからどういうセリフにしようか、どういう動きにしようか、そういったことも話し合いによって決められていきました。絵本を見ながら、そのセリフを手話にして覚えていくという段階にきました。小道具ですが、王子様の場合、王冠や馬が必要だということで、自分の配役に必要なものをそれぞれ考え作っていくということになりました。小道具作りは非常に時間がかかる、なかなかうまく作ることが出来ない、一日目では終わらせることは出来ませんでした。二日目はスケジュールより早く自分の作業を進める子供達も見られました。朝の9時から舞台上での稽古が始まりました。このような動きをするというようなところをスタッフも確認していったのですが、例えばセリフはお客様に背中を向けるのではなく、観客の方を向いていた方がいいとか、こういう動きをした方がお客さんからは見栄えがするというアドバイスをいくつかしました。スタッフのアドバイスを子供達は素直に受け止めてリハーサルを進めて行きました。このような合宿だったのですが、成果は多々ありました。小高部、小低部、幼稚部のつながりが出来たことが、まず一つあげられます。普段の活動でもこのような全体的な活動はありますが、合宿を通じて特に縦のつながりが出来たように思います。それから団結力が出来ました。合宿という決められた時間の中で、何とか課題をクリアしなくてはならないということで、皆が協力し合うことが出来たと思います。何とか成功させるために、何とかしなくてはという共通した思いがあったからこそ、成し得たことと思います。短い時間でも十分練習をすることが出来ました。白雪姫という題材が非常に有名だったからかもしれません。そのために一人一人が自分からきちんと動くことが出来、全体的にスムーズに進んだのではないかと思います。それから判断力が付いたと思います。こういったものが必要だと思えば自分で判断し、行動に移すことが出来ました。そして、いろいろな人達とのやりとりの中で、こうした方がいい、ああしたほうがいいというような判断のようなものが出来たと思います。それからスタッフに対して、積極的に質問を投げかけたり、アドバイスを求めたりすることも出来たと思います。最後、終わりの会の時に子供達にどういう感想を持ったかを一人ずつ聞いてみます。その時に幼稚部の子供達が本当に積極的に手を挙げて、自分の思いをきちんと発表することが出来ました。こちらがびっくりするほど、みんな積極的で一人一人に話をしてもらうことになりました。幼稚部の子供というと言いたいことはたくさんあるのだけども、それをきちんと表現することがなかなか出来ない、自分の思いをきちんと伝えられないという面がありますが、スタッフの適切な援助があれば、その思いを伝えることが出来、そのことによって自信をつけたり、満足感、喜びを得たりすることが可能だと思われました。今後も子供達自身が体験し、対話をして、集団を作っていけるような、そういう手話の存在する環境を作っていけたらいいなと思っています。始めはキュードを使っていた子供達も自然と手話の表出が増えていったので、スタッフとしても非常に嬉しく思っております。そのおかげでコミュニケーションも十分図れるようになってきました。ではビデオに収めたものを用意してありますので、ご覧下さい。(ビデオ上映)

司会:武居
ありがとうございました。先輩、後輩の縦の関係が非常に強固なものになったという話でしたが、ろうの子供にとって集団を作るというのは、いろいろな力を獲得する上で非常に大切ですね。ろう児は集団の中からいろいろなものを学び取っていくという面が重要だと思われます。最後ですが、「きずな」より報告をしていただきます。谷脇さんよろしくお願いします。
谷脇
今ご紹介をいただきました「きずな」の代表をしております谷脇と申します。どうぞ皆さんよろしくお願いします。龍の子学園、ろうっ子学園の活動の内容を聞いていて、大変素晴らしい内容で感動いたしました。では、「きづな」の設立までに至った経緯をまずお話ししていきたいと思います。2000年6月に発足しました。あるスタッフが「ろうの成人に会ったことがない」「会う場所を作りたい」といったことが一つのきっかけです。8月にプレワークショップを行いました。そこで様々なことを話し合い、正式な発足となりました。それからは毎月の活動を行っています。月に1回ワークショップを開いております。その活動の内容によって、宿泊の時もあれば、日帰りの時もあります。様々です。「きずな」とはどういうものなのかを皆さんに知ってもらうためにビデオを用意しました。ご覧下さい。(ビデオ上映)
「きずな」という団体はろうの子供、またろう児を持つ親に何かを与えていく、交流の場を提供することを考えております。大きく分けて4つ。まず1つ目。同じろうの仲間との交流を通して、ろうとは何か、自分はどういうものなのか、聞こえないことをマイナスとして受け止めるのではなく、むしろ個性の一つであるというふうに考えていくことを目標にしています。
二つ目、ろう者の言葉である手話。三つ目、集団の中での体験、学習を通して、年齢差を越えて交流する場を提供する。そして最後の4つ目に、ろうの子供を持つ親は様々な不安を抱えていると思います。育児での不安などいろいろな不安を抱えながら生活をされていると思いますが、そういったご両親と情報交換をしていける場を提供していきたいと思っています。成人のろう者に会ったことがないという声をよく聞きます。確かに自分が小さかったときに同世代の友達はいるが、ろうの大人に会う機会はなかったと思います。たくさんの成人がいるのだということが、ろうの子供にとってだけではなく、ろう児を持つ親にとっても大切なことだと思います。
様々な年齢の子供達が通ってきていますので、そこでコミュニケーションがとれる集団の環境を整えたい。その中で自らの生きる道を自分たちで考えていく。自分のやりたいことの選択が出来る、そういう場所でありたい、そういう場所を提供したいと思っています。「きずな」というグループをつくっていますので、親、ろう児、ろうの成人たちが集まる中で、「絆」を大切なキーワードとして活動を行っていきたいと思っています。以上できずなの報告を終わらせたいと思います。どうもありがとうございました。
司会:武居
どうもありがとうございました。ろうの成人と子供達のつながりを大切に考えているというお話でしたが、同感ですね。インテグレーションの子供達は、特にろうの成人と会う機会が非常に少ないと思いますね。ですから、そういった所へ行って、ろうのお兄さん、お姉さん、成人に会う機会を与えるということを大切にされておられるお話が大変興味深かったです。ありがとうございました。
3つの団体からご報告をいただきましたが、お互いにそれぞれの活動内容や報告を聞いて、お互いの団体で意見の交換、また、先ほどの報告でお話しされなかった部分などあると思いますので、質問や自分の発表の補足などいかがでしょうか。まず龍の子の竹内さん。
竹内
ろうっ子学園に対して質問ですが、ビデオを拝見しました。合宿の様子でしたが、スタッフが随時必要なときにアドバイスをするというようなことは良かったと思います。日頃の学園活動についてはどうなのでしょうか?
杉田
内容は龍の子学園のものとそれほど大きく違ったものはないように思います。例えば、四季に応じた絵を描いて、そこには日本語はついていないのですが、その説明を手話でする。それに適した日本語はどんなものが当てはまるかどうかという、日本語への翻訳をするとか、イベント、ディスカッションなどあります。
竹内
ありがとうございました。「きずな」ですが、幼稚部から中学部までですね。皆さん、全員で一度に活動されているのか、それとも部によって分かれているのか教えて下さい。
谷脇
幼稚部から中学部3年まで様々な年齢層の子供が通ってきています。全体でのワークショップ、部に分かれてのワークショップがあります。
杉田
きずなと龍の子にお尋ねしたいのですが、当日スタッフの劇など様々な内容をしますが、事前に劇の練習などされているのでしょうか。
竹内
龍の子学園ではスタッフの劇を行っています。第4土曜日にいつもの活動を行っている他に、第2土曜日にスタッフ会議があります。その時に宿泊をしています。いろいろな流れの会議をした後で、夜12時頃になってから劇の練習をしています。だいたいこういう流れでやろうとかしています。例えば6月は梅雨で雨が非常に多いですよね。水に関することが出来ないかということで、「おむすびころりん」のアレンジでおむすびを水に変えてやるといった感じです。
谷脇
きずなはビデオにもありましたように、クリスマスの時などワークショップをしますが、毎月スタッフ研修会をやっておりますので、その時に会議や打ち合わせをやっています。それから、当日の朝、スタッフが早めに集まって確認をするという形を取っています。
杉田
龍の子学園にもう一つ質問なのですが、インテグレーションの子やろう学校に通っている子など様々だと思いますが、比率を教えて下さい。例えば手話を習得している子や口話を得意としている子など、コミュニケーションの主体は様々だと思いますが、そのあたりを含めてお願いします。
竹内
龍の子の創立当時はろう学校70%、インテグレーション30%の割合でした。その後、ろう学校に籍を移す子供が増えまして、40〜50名子供がいますが、インテグレーションの子は4〜5人で本当にごく少数になってきています。両親がろう者であるという、デフファミリーのお子さんが非常に多いというのも特徴の一つかと思います。また、ろう学校に通っている子供とインテグレーションの子供とは違いが明らかですね。現在非常にインテグレーションの子供が少なくなっているということもありまして、なかなかろう学校に在籍している子についていけないという面がありまして、そこのところをどうしていくかが今後の課題です。
谷脇
どちらかといえばインテグレーションの子の方が多いです。ろう学校に通っている子も勿論いますが、半分ずつくらいの割合でしょうか? また、コミュニケーションの方法は様々で、手話を使う子もいます。手話を使わない子も、他の子の使う手話などを見て少しずつ覚えています。
竹内
幼稚部の子供ですが、ろう学校の幼稚部に通っている子が多いのですが、たまたまその時、インテグレーションというか、普通の幼稚園に通っている子が二人きたのですね。その時、はっきりとこの二人が仲間に入れなかったことがありました。コミュニケーションが上手くとれなくて、友達をぶってしまったのですね。コミュニケーションが上手くいかないとそのようなことが起こってしまうということです。そこのところをきちんとケアをしていきたいと思っています。
谷脇
これまでの活動を通して、子供達も様々な出会いがあったと思うのですが、やりがいを感じたことを具体例を挙げてお話ししていただきたいと思います。
竹内
そうですね、いつもです。子供達と接しているときは、すべてが楽しいし、いつも新鮮な驚きとか発見ばかりです。ろう学校の先生とお話をする機会をつくったと先ほどお話ししましたが、それぞれ違う立場で私達は月1回の活動でしかありませんし、ろう学校の先生は日々の教育の現場があります。そういう中で、それぞれの違う立場で意見交換をして、いろんな情報交換が出来ます。私達だけしか出来ないこともあります。
井手
ろうっ子学園の場合ですが、やはり私にも子供がいるのです。そういう子供を持つ人達がスタッフのメンバーです。そういう活動の中で自分が寄宿舎での生活の経験があります。懐かしさもあり、子供達と話をしながら楽しいですね。
司会:武居
私から質問してよろしいでしょうか。ろう学校に通っているお子さんがフリースクールに来ていると思うのですが、学校の先生方が活動を見学に来られるのですか。
竹内
龍の子です。頻繁ではありませんが、時折見学にこられる方があります。私自身が大事に思っていることは、夏休みや冬休みに先生方の講座を企画しても、遠くから来られる方はたくさんいて、関東を拠点にしている私達なので、関東の学校の先生方との関わりを持っていきたいという目的もあるのですが、なかなか足を運んでいただけなく非常に残念です。やはり、私達から働きかけるというよりは、スタッフと子供と親との良い関係を作っていると思うのです。親の方から学校の先生方に連絡を取っていただいてという感じでしょうか。
ろうっこ学園
私達の場合は、昨年はよくおいでになっていました。こられたときはろうの子供を持つご両親かなと思ったのですが、私達の活動を見て顔つきが変わってくるので、どういう方が来られているのかも分からないので、一体どういうことかなと様子を見ていたら、終わった後に尋ねて来られて、ろう学校の先生だとわかり、私達スタッフも驚きました。先生がいるから、突然キュードに変わる子供もいるのですよ。普段はなにげなく手話で話をするのに、そういう判断を子供がするのですよね。私達がそういうふうに引きずられないように、先生にも席をはずしてもらう。ろう学校の時の様子とここに通っての様子では全然違うようです。先生が見ても、表情が違うという話もしています。
谷脇
時々は担任の先生もお見えになります。ろう学校の先生もそうですね。その時は一緒のスタッフの方に入ってもらうときもありますし、子供の様子を見ていただいて先生が受ける印象もあるみたいですね。活動を見て子供達の様子を見ていただいて、いろいろ感じ取っていただいています。
司会:武居
まだ、時間がありますので、せっかくですので、今日はフロアにお集まりになっていただいておりますので、フロアの方からの質問をお受けしたいと思います。
(会場)
埼玉から参りました。それぞれの団体からお聞きしたいのですが、やはりスタッフとなる最低条件があると思いますが、いかがでしょうか?
竹内
3つあります。日本手話が出来ること、日本手話に堪能なこと。そして、バイリンガル教育を行う上で軽々しい気持ちでスタッフになっていただいても思うようにいきません。私達はお金をもらって子供達を預かっているわけです。その子の命を預かっているわけです。生半可な気持ちではいけない。プロであるという意識を持った上で、研鑽し研修をしていくということ。つまり、日本手話が出来ること。きちんとしたプロ意識が持てること。そして龍の子学園の理念に賛同してくれること。この3つが条件です。
ろうっこ学園
私達スタッフがその人を見たときに、きちんとやってもらえるか、生やさしいものじゃないので、きちんと私達の活動や考え方などの話をして、そこできちんと納得してその意志をはっきり示してくれる方です。そして見学をしてもらいます。自分がスタッフとして仕事が出来るかどうかの意志決定を本人にしてもらうための見学をしてもらいます。やはり実際にやってみて、いろいろ思うこともあると思いますが、そこでちょっと苦しいなと思われる方には遠慮いただくこともあります。
谷脇
きずなの場合は、正スタッフと当日スタッフと分かれています。その時その時に会議がありますので、その会議に出席できる人、そして当日スタッフの場合はまず手話が出来ること。子供が好きな方。正スタッフが話をした後に来てもらうので、十分会議の上、活動のことを説明してから来てもらっています。
司会:武居
他にございましたら、どうぞ前の方におねがいします。
(会場)
北海道の畠山と申します。フリースクールの代表として、私も今度北海道でフリースクールを始めることにしました。若い人がドンドン自発的な活動としてフリースクールを始めているということで、ホームページなどでもいろいろお話は拝見しています。お聞きしたいことは、ご両親がろう者であるのか、健聴であるのか、また、スタッフの平均年齢を教えて下さい。それと、ろうあ協会とのパイプづくりはどのようにされているのか。また、手話で活動の中心ということでしたが、私達の所はろう両親の子供達には遠慮していただいています。インテグレーションした子供達を対象に活動をしています。ご両親と一緒に通っていただいて、親子のコミュニケーションからまず見直していただく。それに賛同し、了解をしていただいた人に通っていただく。活動を続けてきて、やっと親御さんのコミュニケーションが成立するようになっていく。手話を使う人達とのつながりとかというものを私達はやっていきたいと思っています。大人になったときにいろいろなコミュニケーションの中から、本人が選択していくのだと思います。いろいろな方法があると思います。手話が言語である。それは誇りを持つことでもあるけれども、押しつけになるのではと不安になります。
ろう学校とのパイプづくり。スタッフの平均年齢。ろうあ協会との関係づくり。最後は、今あなた達の前にいる子供達の先に見えるその子たちの将来であるろうの成人、大人とのつながりをどういうふうに考えられているかということをお聞きしたいのですが。
司会:武居
すべての質問ではなく、答えられるものだけでも結構だということなので、お願いしたいと思います。
竹内
スタッフ全体から見れば、デフファミリー出身者半分、両親が健聴者である者が半分という割合です。私個人は両親が健聴者で、今のご質問者と同じで北海道出身です。高等ろう学校を卒業しました。スタッフの平均年齢ですが、大学生が最年少です。一番年上が38歳、40歳ぐらいです。年齢層が幅広いのですが平均年齢は28才です。ろう協とのつながりですが、今のところ実現されていません。私達の活動の理念をきちんと持って進めておりますので、今のところ特に必要性が発生してないというのがあります。ですが、様々な成人ろう者の方の協力は得ておりますので、全く外部からのいろんな意見は取り入れないというわけではありません。必要に応じて援助はいただいております。ろう学校のパイプづくりは私は必要なことだと思います。ろう学校の中で個人的レベルではありますが、私達の活動について共感をいただいている人もいますので、連絡も頂戴しております。龍の子として、一年間の活動の集大成として一年に一度実践報告会を3月に行っております。それをろう学校に連絡をしています。長期の休みにろう学校の先生だけの講座を行っております。以前、ろう学校の先生から小学校の教科書を手話に翻訳してもらいたいというご連絡をいただいたことがありました。共同製作という形で手話に変えたという実績があります。小学校1,2年生の教科書を手話にしましたので、現在は5,6年生のものを手話化する作業に入っています。北海道でもそのような活動をされているということを初めて知りまして、なるほどと思いました。龍の子の方ではインテグレーションの子もいますが、ろう学校の子供もいます。また、ろうの成人と会うことも大切だと思いますが、その前にろう児との関わり、ろう児との集団を作っていくということを第一に考えたいと思っています。子供達に条件を付けることなくどんな子たちにも活動を進めたいと思っております。
ろうっ子学園
スタッフですが、両親がろうであるスタッフと健聴者であるスタッフの割合は、半分ずつくらいでしょうか。ろう協とのつながりですが、今のところ持っておりません。また、スタッフの最年長は40歳を越えています。最年少は20歳。やはり年齢層は非常に幅広いですが、子供を持っているスタッフが多いです。平均年齢は32歳ぐらいです。それから、ろう学校との関わりですが、ろう学校の中に親の会があります。そちらとろう学校ではつながりを持っているようですが、そこは私達スタッフが関与するところではありません。活動の考え方に関しては先ほど龍の子学園からもあったのと同じです。
谷脇
きずなの方ではスタッフの親がろう者か健聴者かですが、健聴者の親を持つスタッフもおりますし、ろう者の親を持つスタッフもいます。半分半分といったところでしょうか。どちらかといえば健聴者の親を持つスタッフの方が多いですね。ろう協とのつながりは大阪、京都というような、ろう協とワークショップを行うときにご協力をいただいたり、また私達がろう協の様々な行事の企画などのお手伝いをしたりすることもあります。また、ろう学校の親の会からもキャンプの依頼などもありまして、そういった意味でつながりを持っていると思います。
(会場)
千葉から参りました。いいお話ありがとうございました。様々な成功例をお話しいただきましたが、なかなかうまくいかなかったなあという面がありましたらお話し下さい。それから高等部というのは支援に入っていないのでしょうか? それから、スタッフの中にはろう学校の先生などの専門家、専門的な資格を持っている方はいらっしゃるのでしょうか。何かトラブルがあったときに対処が出来る立場の人はいらっしゃるのでしょうか。教えて下さい。
(会場)
お疲れさまです。大変すばらしい内容をお聞きしました。質問がありました「ろうあ協会との連携は?」に「ない」というお答えでしたが、どうしてそういう関係をお持ちにならないのか。全く考えてないのか、意図があってそういう関係づくりを拒絶しているのか、お考えをお聞かせ下さい。ろう教育の現状を見ても進んでいるとは言えない。その中でろうあ団体というか、そういう組織がやればよかったのですね。そういったことをやってこなかったという組織の反省もあると思うのです。そういったことをしてこなかった組織との関係を皆さんがどう思っているのか、今後のことを含めてお聞かせ願えませんか?
司会:武居
今、お二人の方から質問がございましたが、お二人に対してのお答えをまとめてそれぞれの団体からお聞かせいただけませんか?
竹内
一分間スピーチをする大会をやったのです。そうすると、今私がやっているように、原稿を見て、日本語を見ながらとなってしまって、見ている子たちは退屈この上ないという感じなのです。それは私達が日本語に引きずられてしてしまったのですね。そこからはスピーチ大会も日本語ではなくて、まず自分の中で話したいことを考える。そしてそのことを手話で語るというようにしました。その後に日本語があってもいいのです。失敗例であるかもしれません。
また、小低部の場合には15人〜20人ぐらいが一斉に集まります。初めてきた子供の性格を私達スタッフはなかなかつかみきれないのです。スタッフ自身がうろたえてしまったりしたのですが、最近は慣れてきまして、メインの者を決め、その者が話し、フォローにあたる者を後ろにつけるというふうにはっきりと役割をつけたことで、子供達も誰が中心になるかが分かるようになりました。そうでないと子供達は誰を見たらいいか分かりません。
乳幼児、幼稚部に私達は力を入れています。その小さな子供達、ろう学校には当然良いこともありますが、もうちょっと私達の期待するものがろう学校にあればいいなと思いますね。
先生の資格は私達にもなくてはいけないなと実感しています。専門的な知識が必要だということを皆実感し始めて、最近は大学生になるスタッフも増えてきました。教員採用の試験、大学の中で教育の現場に実習に行く者も増えてきましたし、研修会の場で専門家の方にお出でいただいて、お話を聞くような私達の研修の場も設けています。今回の大会に私達が協力するというのは大切なことだと思います。今の教育の在り方というか、何か刺激を与えたいなと思っております。先生方が集まる研究の場とか、様々な所に行きまして、私達の活動を積極的に発表していくというのが私達の役割でもあるかなと思っています。
ろうっ子学園
高等部のグループについてですが、私達の活動は中学部もないです。今後は中学部のことも思っているのですが、まだちょっとそこまで視野に入れてないです。今のスタッフは、子供を持ち家庭を持っている方が多くて、いろいろ日々の生活もあって、資格というところまでいかないです。ろうあ協会との関係づくりということで、拒絶しているわけではないです。当然スタッフはろうあ協会の会員の方もいますので、今後関係は作っていきたいと思っています。私達の活動というのは、手話で話ができる場を作ろうということなので、ろう学校と同じことをやろうと思っているのではありません。
谷脇
一年くらいの活動になるのですが、日々、その時に感じる失敗はたくさんあるのですが、具体的な例としましては、手話の出来ない子供達が、手話で話をするスタッフについてこられなくて、なかなか集団についてこられない子供達も出てきてしまいます。以前は慌ててそういう子供達を追いかけることがたびたびありました。今はそういう子供達もきちんとスタッフの話が聞けるとか、手話の分からない子供に対するフォローなど、私達が考えていかなくてはいけない面がたくさんあると思います。高等部についてですが、中学部の子が高等部を設けてもらいたいというより、スタッフにはいりたいという意見はこの前聞きました。私達スタッフが集まる場に専門家の方にお出でいただいてお話を聞く機会を設けています。教育の勉強をしてろう学校の先生になりたいという夢を持っているスタッフもいます。
竹内
私達が専門家になる必要があるかというと、私達は同じ人間として子供達と向き合いたいのです。専門家として子供達と接することを私達は考えてはいないのです。まだまだ私達の活動も日が浅いものですから、龍の子の活動が煮詰まってきちんとして形になった時に対外的な関わりを考えていきたいと思っています。
司会:武居
どうもありがとうございました。予定より時間も過ぎましたが、皆さんからいろいろお話をいただいて良かったと思います。ありがとうございます。前よりも活動も盛んになり、大変素晴らしい活動をされているなあと感じました。本当にありがとうございました。
司会:北野
4人の方、今日は本当にありがとうございました。全く新しいスタイル、新しい内容を提示していただいたと思っております。日本語ももちろん大切ですが、私達は手話が必要であって、日本語の読み書きが必要であるという皆さんのお考え、大変共感しました。ただ対外的なパイプづくりが出来ていないという状況ですので、我々も新しい反省を持ち、新しい皆さん方の刺激をいただきながら今後考えていきたいと思います。