2.デンマークのバイリンガル教育
バイリンガル教育というのは、二つの言語による教育ということです。デンマークやスウェーデンでは、ろう児のバイリンガル教育を実践しています。ここではデンマークの様子を中心にお話します。デンマークでは、1982年よりバイリンガル教育を実施し、教育効果を上げています。二つの言語というのは、第一言語をデンマーク手話、第二言語をデンマーク語と考えているのです。このように手話を優先し、デンマーク語については読むことと書くことを重視しています。もちろん、子どもに応じて聴覚学習もおこなっていますが、それほど多くの時間は割いてはいません。デンマークでは、バイリンガル教育開始後から1992年までの10年間の特別プロジェクトの成果報告集を出版しました。デンマークでは手話ですべての教科を教え、「手話」という教科もあります。先生も手話ができるように訓練を受けています。(スウェーデンでは、1981年に「ろう者の第一言語は手話である」と議会で議決されました。)
私は「デンマークのろう者と手話」について研究するため、デンマークに10ヶ月間滞在しました。このときは一般のデンマーク人の家庭に下宿したのですが、デンマークの家庭では、障害者に対する偏見がほとんどありませんでした。子どもの頃から障害者も健常者も平等であるという教育が充分になされているのだろうと感じました。ろう学校の様子も日本とはかなり違ったものでした。下宿先で日本のろう児の学校生活について聞かれたので、日本では聞こえなくても話すことはできるのだから聴覚口話法が人切に考えられていると話すと、それではコミュニケーションに無理が生じないのか?と尋ねられました。デンマークでは、ろう者は手話を使うのがあたりまえだという認識です。そして、ろう児をもつ健聴の親も手話を使うのがあたりまえなのです。デンマークでは日本社会ほど他人との競争というものがなく、ひとりひとりを個人として認めているのです。
こうした社会環境、国民性がバイリンガル教育を成功させたのだと思います。日本でも少しずつデンマークのよい点を吸収するように努力する必要があると思います。