基礎講座1 ろう者から見るろう教育の課題
財団法人全日本ろうあ連盟
松本 晶行
1.教育とは何なのか?
ろう教育が、特別な独立したものとは考えません。様々な教育の中の一つだと思っています。その中で、ろう教育とは何なのかきちんと捉えることが必要だと思います。
今、日本の教育全体に不安を感じています。神戸の事件などを見ると、非常に怖い事態になっていると思います。
私の経験を紹介したいと思います。私の仕事は弁護士です。時々少年事件を担当することがあります。12〜18才位までの人で、非行の理由はそれぞれ異なります。本人にも周りに聞いてもよくわからないことがあります。
でも、問題は二つに大きく分けられるようです。一つは、愛情のない家庭で育った子どもたち。愛情をかけてもらう、そうした経験がない子どもたちです。
例[1]保育所で病気になります。夜、親が迎えに来ますが、子どもが家に帰りたがらない。体調の悪いときに殴られたりいじめられたりするのに耐えられないわけです。
例[2]7・8月の夏休みにプール遊びに来た子の中に、体に青あざのある子が時々見られます。親の虐待にあっているわけです。
そういう子どもたちが非行に走っていくケースがあります。教育は学校の中だけではなく、社会全体の中でのものなのです。
もう一つは、愛情が過剰というか、愛情をかけすぎる、甘やかし、期待されすぎるというケースがあります。
例[1]お父さんが学校の先生。妹は成績が良い。お父さんは毎晩勉強を教えてくれる。小学校はそれでもよかったが、中学校になると自分のやりたいことが出てきて、お父さんの期待が次第に苦痛になってきた。バイクを盗んで走り回るなどの非行に走る。
例[2]高校2年生。覚せい剤を使用。3人兄弟の末っ子。兄・姉は一流の高校、大学を卒業し、一流の企業に就職している。本人は志望高校の入試に失敗、志望外の高校に入学する。高1の時、喫煙により退学する。家庭の雰囲気が、兄姉は一流なのにおまえは…という感じで。自分に誇りが持てず、家庭の中に居場所がなくなってしまい非行に走る。
聞こえる子どもたちの悩みは、ろう者の子どもたちも持っています。ろう学校の子どもたちが持っている問題を考えるとき、ろう教育だけ切り離して考えても解決にはなりません。社会全体の問題として、教育全体の問題として考える必要があります。