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5.これからのろう学校の教育内容
 教育内容に関しても3つほど大切かなと思うことがあります。今まで十分にやってこなかった、あまり手がつけられなかったところで、1つは障害認識です。ろうであるという障害をどう認識するか。あるいは、ろうであることを「障害」として認識するのか、いろいろな「生き方」「あり方」「存在の仕方」の1つとして認識するのか。またそれをどう形成していくのかを、ろう学校がもっとしっかり考えていかなければいけません。私は障害の認識は一生続くものだと思います。ある時期にある障害の認識が出来上がったら、それでお終いとは思いません。死ぬまで自分自身って一体何なのだろうと問い続けていくものだと思います。今、自分はこうだと思っている。だけど、あと2年後、3年後に自分の身の上に大きな出来事が起こった時に、今思っている自分とは違った自己認識が出ているかもしれません。障害の認識は変化し、一生にわたって認識し続けていくことだと思います。そうであっても、ろうとして生きていくことは、少なくとも聞こえて生きていくこととの違いは当然あります。その中で自分らしさを見つける時、聴者の「らしさ」をそのまま受け入れて生きていくのは無理があることは確かです。そのあたりをもっと考えていかなければならないのに、ステレオタイプになっていく不安もあります。パターンになってしまって、あなたはAタイプ、あなたはBタイプという形で障害認識をするとしたら、これも問題です。しかし聞こえないことについて、もっと幅広く子どもたちが知っていく機会をろう教育の中で保障していくことは今後必要ではないかと思います。
 2つ目は、批判的な思考が大切です。人を批判するとか文句をつけるという意味ではなく、どうしてこうなったのか、なぜだろうかと考える力です。自分はこう思うが、あなたはどうかと、ディスカッションする力。それがろうの子どもたちにこれから必要になってくる力だと思います。聞こえる人と一緒に暮らしていく時に、どうしても情報格差が出てきます。その時にこちらから食らいついていく、あるいはその背景を考えようとする、それと関連する事項を考えていこうとする。それは自立して社会で生きていく時に重要なことだと思います。今までのろう学校での教育は、どちらかというと教師主導で、教師の教えることをしっかり学んでいく。言い方が悪いかもしれませんが、受け身の教育が強かったように思います。もっと子ども自身がしっかり考えていく教育に変えていかないと21世紀は大変になります。自分自身が物事に対して、批判的にその原因や背景を考えて、積極的に話し合って討議していくような力を育てる必要があると思います。
 最後に、僕の研究テーマでもありますが、リテラシー、読み書きの力について、バイリンガルの考え方をもっと研究していかないといけないと思います。手話を使って習得していく。あるいは手話と日本語、書き言葉がどう関連するのか。今まではどうしても日本語を通して日本語を知るというか、日本語で日本語を学習していくプロセスが多かったですが、それ以外の方法を考えていかないと、ろう教育自体の質が向上しないと思います。読み書きに関しては、単語とか文法とかその言葉の規則そのものを学習することは絶対必要です。日本語の学習そのものが必要ないという意味ではありませんが、方法としてもう少しバイリンガル的な方法を考えていく必要があるし、そこが今まで弱かったところではないかと思います。
 まとまらない話になりましたが、金沢のろう学校の設立の話から、20世紀のろう教育はこうだったのではないかということ、そしてこれから我々はこんなところにいくといいのではないかという話をさせていただきました。2日間の集会の中で、それぞれの方がそれぞれの望む未来のろう教育に一歩でも近づき、一歩でも進んでいただければ幸いです。ご静聴、ご静視、ありがとうございました。








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