祝辞 (石川県立ろう学校長 鈴木 三郎)
21世紀幕明けの年に、第13回ろう教育を考える全国討論集会が、全国各地から、沢山の関係者が参加され、ここ金沢市において盛大に開催されますことを心からお祝い申し上げます。
新たな世紀を迎え、世界の多くの国々で教育改革が進められています。私は、昨年10月に、ハンガリーの学校教育を視察する機会に恵まれました。現在、ハンガリーでは、学校制度・教育課程について移行期も終わり、スタートしたばかりであり、10校の様々な学校を訪問(残念ながら特殊教育が行われている学校を視察することができなかった)してきました。その間、通訳を通して何度も耳にしたのが「タレントを伸ばす」という表現であった。「子どもたち一人一人が持つ才能を十分に引き出す」・「個の伸長」という意味に理解したが、実際に多くの学校を参観して、各学校共に明確な学校の特色が打ち出され、個を伸ばす工夫が随所に配慮されているのを見て、「なるほどこういうことなのか」と、うなずかされました。
日本でも学校教育を取り巻く環境も大きく変わろうとしている今日、ろう教育に対しても、各方面からの期待に十分応えられるよう、関係者一同が心を一つにして取り組むことが重要視されています。
禅の言葉に「卒啄同機」という教えがあります。雛がかえるときに親鳥はその卵の殻をくちばしでコツコツと啄み、雛が出てきやすいように手助けと言うよりか口助けをします。もしそのとき雛が、自ら殻を破って出てこようとする自力が成熟していないと出られなくて死んでしまいます。早過ぎても駄目、遅過ぎてもいけません。それだけにこのタイミングは絶妙であります。鳥に備わっている自然の妙諦、摂理だと思います。家庭教育における親と子、学校教育における教師と教え子、社会教育における地域の人たちと子供。難しいことですが、聾教育の原点はこの「卒啄同機」にあるような気がします。
全国には、ろう学校が99校8分校あります。石川県では、本校1校だけであり、本年度から設置された学校評議員制度で、3名の方に評議員(地域代表・聴覚障害者代表・学識経験者)になっていただき、それぞれの立場からご意見をうかがい、学校運営に役立てていきたいと考えています。「特色のある学校づくり」・「開かれた学校づくり」・「魅力ある学校づくり」を目指し、幼児.児童.生徒一人一人のもっている適性を十分活かし、心豊かにたくましく生きる力を育てるため、これまでより以上に、保護者と教職員が手を携えて、幼児児童.生徒の指導や支援を考えていかなければならないと思います。
最後になりましたが、本会のますますのご発展と本討論集会のご成功並びにご参会の皆様方のご健勝を心から祈念申し上げ、祝辞とさせていただきます。