=明日に向けてのアピール(その13)=
聴覚障害者のアイデンティティの確率を!
子どもたちに豊かな教育と未来を!
2001年8月18日から19日までの二日間、自然豊かな森の都・石川県金沢市で開催された「第13回ろう教育を考える全国討論集会」は、21世紀の新しいろう教育を実現するための第一歩の集会となりました。
参加者は、北は北海道から南は沖縄までの41都道府県に及びました。
今集会の参加者は、ボランティア要員を含めて815名、内訳は学校関係者204名、親13名、聴覚障害者245名、手話関係者268名、学生26名、その他59名でした。
日本の聴覚障害教育は、社会構造の大きな変化とそれに伴う価値観の多様化の中で、かつてない大きな変動の時期を迎えています。
国立特殊教育総合研究所・小田先生の記念講演は、こうしたろう教育の大きな変動の時期を迎えるにあたって心すべき指針を示してくれました。
・旧来の「学校」や「ろう教育」や「言語指導」といった枠組みにとらわれない柔軟な考え方
・聴覚口話法に代表される伝統的な専門性と手話・バイリンガル教育に代表される新しい専門性の合理的で健全な結合
・新しい理念も時には固定的で排他的になる危険をはらんでいることへの戒め
等々です。
積み重ねられた伝統と新しい潮流の健全な結合を願う小田先生の講演は、歴史の町、金沢にふさわしいばかりでなく、21世紀のろう教育の構築に向けて第一歩を踏み出した私たちにとって、時宜を得た貴重な助言でした。
パネルデイスカッション「地域に開かれたろう学校」は、こうした21世紀のろう学校の新しいあり方と課題を論議する場となりました。
8つの分科会では、計32本のレポートが出されました。
聴覚障害教師の手話を使う模擬授業に新しいろう教育の可能性を発見したり、悩んでいた重複児の親が他県の実践に勇気づけられたり、聞こえる親の聞こえない子供に対する見方の反省に自らの姿勢を問われたり、どの分科会も、全国各地の経験と実践の、密度の濃い交流の場となっています。新しいろう教育の渦が、今ここに生まれつつある、と確信できる二日間の分科会でした。
また、基礎講座と今年初めて設けられた「カレントトピックス」は、内外のろう教育についての、貴重な情報提供の場となりました。
地元の石川県立ろう学校は、十年もの論議を経て、乳幼児、幼稚部の早期から手話を取り入れた実践を始めました。今その実践が見事に花開き、子どもも教師も親も、心安らかで充実した毎日を過ごせるようになった、という報告を聞くことができました。
石川県立ろう学校は、学校を挙げて本集会の成功のために協力してくれただけでなく、そのろう教育実践の取り組みによって、地方のろう学校の活性化・充実の可能性を示してくれました。私たちはこのことに心から感謝するとともに、石川県立ろう学校のいっそうの充実発展にエールを送りたいと思います。
ろう教育集会の十余年の積み重ねは、ろう教育に関して様々な立場から厳しく問いただし、問題点を明らかにしてきました。また、新しい理念・方法に基づく全国各地の実践がこのろう教育集会に持ち込まれて論議され、次第に形を整えてくると共に、課題も明らかになってきました。
いま連絡協議会に問われているのは、新しいろう教育の理念・方法・課題についてのろう教育集会13回の論議を踏まえて、「日本のろう教育」のあるべき姿の全体像を描き出し、その実現のための道筋を明らかにしていくことです。
集会に先だって開催されたろう教育の明日を考える連結協議会世話人会・総会において、連絡協議会は、全日本ろうあ連盟とともに「プロジェクト会議」を発足させることを決定し、こうした課題に答えていく決意を明らかにしました。
また、新しいろう教育の取り組みが、もはや一部の「先進校」だけでなく、大半のろう学校で始まっていることを踏まえ、ろう学校教員・親・地域の聴覚障害者団体の結合を押し進め、県・地域レベルの「ろう教育を考える会」を組織していくことを確認しました。
また、毎年集会前日に開いてきた「ろう両親交流会」は、恒常的な組織として旗揚げし、全国に呼びかけることを決めました。
この討論集会の成果をもちかえり、実際に子供たちの教育環境の整備充実へと結びつけるために、私たち一人一人が、それぞれの立場で、最大限の努力をしましょう。そして来年2002年8月、栃木県・宇都宮市で再会しましょう。
2001年8月19日
第13回ろう教育を考える全国討論集会
(於 石川県・金沢市)