日本財団 図書館


成果-II.各地のネットワーク形成
 
1. 沖縄で初の「不登校生の進路と社会参加」シンポジウムを行ったのは2000年の6月25日であった。その半年前に、沖縄大学の吉川教授から紹介を受けたのだが、当時の那覇青年会議所理事長の鈴木洋一氏であった。氏はシンポジウム当日次期理事長の安里繁信氏他のJC幹部をお連れになり、秋の相談会では安里氏が理事長として「仕事をする意欲があれば私の会社を訪ねなさい。別の仕事がしたければJCのネットワークを通じて探してみましょう」という力強い挨拶をして下さった。今年度の相談会でも鈴木氏、安里氏、今年度の理事長の中村聡氏、青少年育成委員会の大城博立氏も参加して社会参加希望者の相談にのって下さった。14年度の那覇JC事業には「不登校児の現状と地域の課題」を入れ、5月には本協会の近藤専務理事を講師に講演会も行われる予定である。通常JCは事業、役員共毎年変わるので後続事業が難しいが、那覇の場合は不登校生に関心を持つ素晴らしいネットワークができており、代々の理事長が真剣に取り組み、主催事業にまで組み込んでいる。各地にこのようなネットワークが拡がれば有難いと思う。
 
2. 「広島思春期問題研究会」は、小児科医、臨床心理士、養護教諭のネットワーク
 同会では毎年夏に不登校生等の「ふれあいサマーキャンプ」を行っている。これはゲームで集団生活に慣れ、学校や社会へ出ていくステップにするためで、同じ悩みを持つ者同士が本心を打ち明け合う場になっているようだ。このキャンプは既に15年も続いており、春や冬のイベントもある。
 不登校に限らず、子どもの問題は親や先生だけでなくそれぞれの専門家のネットワークがあれば、それだけ適切な対応ができる。このようなネットワークを1つでも発見できることが、本プロジェクトの成果と言ってもよかろう。
 
3. 富山のネットワーク「麦の根」
 麦の根代表の宮川正文氏は本協会が今年度募集した相談ボランティアの1人。彼が麦の根の活動内容をメールで送ってきて我々も初めて知った。そこで早速12月の実行委員会に招き、詳細がわかってきた。
「コンピュータが不登校児と地域を結ぶ」
受け皿となる居場所を
 麦の根は、不登校経験者を中心に、インターネットを活用して、様々な人々との交流を目指す富山の団体である。体験などを綴ったホームページを開設している他、子どもたちの居場所とパソコン教室を運営している。
 ここで着目したいのは、麦の根HPにある掲示板である。不登校で悩む人が、相談事を掲示板に記入すると、不登校当事者や弁護士、カウンセラーなど麦の根の関係者を中心にアドバイスが書き込まれる。相談掲示板の意義はどこにあるのか。それは、閉じこもりがちな相談者を、医療やフリースクール、カウンセリングなどの対面的な支援につなぐ媒介としての可能性である。
 
4. 本協会の姉妹団体である長寿社会文化協会(WAC)では「地域三世代子育て支援」の全国ネットを作りつつある。内容としては、ボランティア型の親子のたまり場づくり。商店街の空き店舗を利用した、たまり場づくり。独り暮らしの高齢者宅を寺子屋にする活動等がある。
 今の若い人は子育てが苦手だが、役に立ちたい中高年は数多くいるので、支援しようというもので、そのボランティア養成研修会も行っている。こんな輪が広がれば青少年問題の予防にもなると思われる。
 
5. 子どもが抱える不安や悩みに耳を傾ける電話相談の関係者が全国から集まる「全国青少年相談研究集会」が国立オリンピック記念青少年総合センターの呼びかけで行われている。今年5月には報告書が出るそうであるが、教育委員会、警察、民間等の横断的な集会は少ないので、我々も注目し、是非一緒にネットワークを作りたいと望んでいる。但し上記センターは主催者で事務局的な存在なので、中心的に活動している人がおらず、継続的な日常活動にはなっていないので今後の取り組みに期待している。
 
6. 全国の開業医らでつくる日本小児科医会が「子どもの心相談医の認定制度を導入して2年が経った。活動の様子は新聞でも報道されたが、各地の小児科医が不登校生のカウンセリングに力を入れていることが分かった、但、難しいのは、初診の時はカウンセリングの報酬があるが、後は月1回、1年間だけしか医療保険上認められていないということ、つまり専門家としてカウンセリングの必要を感じてもボランティアになってしまうということで、経営的には難しく、積極的にカウンセリングに応じられない場合もあるという。本協会では有料相談という制度があるので、提携してこちらから依託する形でできないかと協議しているところである。これがうまくいけば助かる不登校生は多いはずだ。
 
7. 全国の中小企業の10市区からなら中小企業都市連絡協議会が、人材育成を柱に、高校生のインターンシップや熟練技術の継承に取り組んでいる。インターンシップの希望があれば広域で連携して希望する職種の企業を探すもので、職場の体験で物づくり魅力を知ると同時に就職も可能だと言う。不登校生、中退者を受け入れている高校等に呼びかけて、社会参加に結びつけたいと考え、本協会がコーディネートする予定である。
 
8. 寺院を中心とするネットワーク
[1] 6月に行った和歌山のシンポジウムでパネリストを務めた高野山高校の添田校長先生が、不登校問題に大変熱心で、自ら真言宗宗派の末寺に呼びかけ、まさに「不登校生の駆け込み寺」として彼らの相談にのるよう案内した。その結果、協力の意思表示をしたいかの寺院がネットワークを組んで対応することとなった。
不登校窓口 寺院名
寺院名 住所 寺院名 住所
正覚寺 兵庫県伊丹市 蓮華定院 和歌山県伊都郡
縁城寺 京都府中郡峰 満願寺 愛媛県越智郡
万福寺 兵庫県美方郡 金剛寺 兵庫県高砂市
明王寺 大分県日田市 高蔵寺 岡山県倉敷市中
宝蔵寺 茨城県水戸市 千光寺 岡山県都窪郡
医王寺 和歌山県海草郡 観世音寺 鳥取県気高郡

 なお、これらの寺院に持ち込まれた相談で、専門的な対応が必要な場合は、本協会の相談員が支援することとなった。
 [2]財団法人全国青少年教化協議会では、不登校生対策として、「寺子屋NPOプログラム」をスタートさせた。これは、不登校生13万という状況下にあって社会の一部では、寺院がかつて担っていた教育や福祉に機能が再び見直されてきている。市民のニーズに応じて自然発生的に誕生した江戸時代の寺子屋を、学校やフリースクール以外の新たな教育の場として、また、青少年の自立支援の場として復活させたいというものである。目的は、
i 青少年問題に関して積極的な活動を行っている寺院および活動を希望する寺院のネットワークを構築する
ii 寺院を場として、地域社会と協働しながら青少幼年の居場所(フリースペースやシェルター)や、親の会・チャイルドラインなどの設置を推進する。
iii 人材・資源・物的な面でより豊かな環境を作り出すため、上記施設を地域・行政・企業を巻き込んだNPOとして運営する
iv 青少年(15歳から30歳くらいまで)やその親たちがNPOを設立するための人材養成教育プログラムを提供する。
v 市民活動を通じて地域社会におけるコミュニケーションセンターとしての寺院の役割を再構築する。
この目的を達成するため、ネットワークを組んでいるのが以下の7寺院である
不登校問題対応寺院一覧
地域 寺院名 宗派名
北海道 大聖寺 真言宗豊山派
長野 宗徳寺 曹洞宗
群馬 金剛寺 真言宗豊山派
千葉 妙厳寺 日蓮宗
大阪 西福寺 浄土真宗本願寺派
兵庫 清水寺 天台宗
香川 報四恩精舎 曹洞宗
 
9. NPO法人スタートラインのネットワーク(滋賀県長浜市)
 ひきこもっているわかものをいったん家から引き離し、同じ体験をしてきたもの同士で共同生活をし、今まで不足してきた様々な体験を積み重ねる場として存在している。
 ひきこもりから脱出し、自立を果たすために必要な、あるいはプラスになると思われる活動を主催することと、外部団体・法人・個人のネットワークをつくり、社会体験・労働体験・人間体験・自然体験の場を提供することが大きな目的である。これらの体験の積み重ねの中から自分の生きる道を見出し、自分の足で、自分のぺースで、二分の人生を歩み始める「スタートライン」に立って欲しいと願っている。
 
具体的な活動
(1)相談活動: 直接あって行う面接と、手紙・電話・電子メールと鵜の通信手段を利用して行う2種類がある。相談は、スタートライン代表・専属相談員、不登校やひきこもりの経験者が応じ担当する。
(2)家庭訪問活動: 引きこもって外部と接触できない場合、専属のリーダーと不登校・ひきこもり経験者が2〜3人のチームを組んで家庭を訪問する。そして本人と接触し、緩やかに人間関係を深めながら、新たなスタートができる等にサポートする
(3)親の会の活動: 親同士の体験交流会である。
(4)鍋の会: 一緒に料理を作り、食べながら話し合い、自己を開くグループセラピーの要素をもつ会である。
(5)自律に必要・有益な体験をするためのネットワーク構築活動:
  社会体験・労働体験・人間体験・自然体験をするため、ひきこもりの問題に理解あるボランティア団体、社会活動団体、趣味のグループ、労働の場を提供してくださる個人及び法人、ひきこもりの問題に対して同じ活動をしている団体等々とのネットワーク構築に積極的に取り組んでいる。
(6)新たな職域の創造活動:
  ひきこもり経験をした若者たちの多くに共通する世さ、すばらしさを生かせる職域の創造を最大のテーマとしている。優しさ、思いやり、丁寧、こまやかな感性、まじめ・・・など良さ、すばらしさも数え切れないほどあります。こうした彼らの特性を生かせる初Kゥイ機を作っていくことを大きな活動の柱としている。
 
構築している主なネットワーク
(1)山田予防医術研究所・自然形体療法本部
(2)共同作業所こほく自立支援センター(MTR)
(3)フリースペース あゆみ寮
(4)パソコン家庭教師 アエル
(5)浅井農園
(6)岡山・ニューウェイ
(7)フットフライト
 外反母趾を始めとする、足を矯正するため、手造りの靴が注目を集めている。その人に最適な靴を作る靴工房・専門店である。靴職人を目指す人を養成する活動もしている。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION