日本財団 図書館


平成13年度「人間関係づくり講座」の中間報告
 平成13年6月の厚生労働省発表のひきこもり者数は10万人であった。しかしこれは全国都道府県、政令指定都市の精神保健施設センター56ヶ所での実数であり、他の民間相談機関での相談者数を含めると100万人近いひきこもりがいると予想される。彼らの大多数には実質的な関わりが必要と考え、当協会では、次頁の要領での講座を開設した。
 最終目標を短期アルバイト→長期アルバイト→正杜員になることを考え、18歳以上で対人関係等の不安から社会参加がうまく行かない方達の仲間づくりをしている。内容は下記の通り。
1)将来の夢を設定し、夢に近づく努力をする。
2)友達を一人でも多くつくり、色々な情報交換の場、対人関係をつくりあげていく場にする。
3)各人の持っている特技や趣味を交換する場とする。
4)各人の持っている不安や悩みをお互いに打ち明けられる場とする。
5)希望者には別紙の研修を行い、カウンセリングを通した不安や悩みの解決をはかる。
6)各人の発達段階に応じてビジネススキルを指導する。
7)最終的に社会参加をめざし、インターンとして受入れる企業等で研修してみる。
[会場]: 東京都新宿区神楽坂6-35-1 教育センタービル2F
  (社)日本青少年育成協会
[日時]: 毎月第4金曜日 pm 3:00〜5:00
担当者: 社団法人 日本青少年育成協会 相談員 成瀬栄子
講座開始日: H13、3月14日
終了予定日: H14、3月29日
形式: オープン(参加・不参加の出入り自由形式)
参加者地域: 首都圏及び静岡県、栃木県
参加者数: 30名(男性21名女性9名)(各回定員20名)
【講座内容】
z0021_01.jpg
 この他に、ひきこもりから立ち直った人たちとの話し合いの場を持った
結果: 正社員4名(内1名見込み)(内1名起業)H14.2.18現在
  短期・長期バイト8名(内2名通信制高校へ進学)
事例1 A男、20代 
ひきこもり歴5年:
成瀬からの手紙を本人が読み個別面談入る。
二ヵ月後、講座に参加する様になる。
本人との個別面談、家族各々への面談を規則的に重ねつつ本人の思い込みの打破へと流れを持っていく。
コンピューターが得意で好きとのことなのでスキルアップを重ね、ソフト会社の正社員となる。この段階で面談、講座とも終了の形をとる。その後本人に不安が生じたときのみ電話にて対応、現在は安定感がでて本人が明るく生き生きしてきたとの連絡を母から受ける。
来所当時は母や父を憎み、理想(対人間の在り方に)が高すぎて社会復帰が一番困難と思われる人物であった。
事例2 B男、20代 
ひきこもり歴7年:
成瀬からの手紙により、本人が母親と一緒に面談にくる。
つき2回の個別面談と講座を続けながら専門学校にて何か技術を身につけることを提案。本人は非常に真面目に努力し、二種類の資格を得る(日商簿記2級、ワープロ3級)。
現在も簿記一級を目指して勉強中。面接に向けて電話の応対の訓練や面接訓練ビジネスマナーも何度も練習。
県が実施する就業推進事業の一環である企業との合同面接会に参加することを本人に勧める。
県の方にはその旨を伝え、今回は初めてのケースの為、一般でとりあえず受けることを確認。事務職として正社員になる研修を受けている。
事例3 (男)20代 
ひきこもり歴6年:
本人が英語が得意であることから数行英語を交えた手紙を本人に書く。本人が個別面談に初来所した時には英語の話しを主体に会話。2回目以降は自分の気持を英語で説明し、私も英語でカウンセリングするように心がける旨約束する。
英語の能力が高いので、この力を利用した職につこうと目標を設定。個別面談と講座は数回であったが参加。
個別面談の中にも同様のプログラムを組み入れる。
現在、学習塾を設立し、他塾でノウハウを勉強中。
事例4 (男)30代 
ひきこもり歴10年:
本人が講座があることを聞いたと電話をしてくる。
スタート時点から参加。数回講座のみに参加。講座に来ているうちに何か資格を取った方がよいと思いだし、福祉関係の専門学校へ入学することを決意。現在はまだ勉強中であるが、就職先は多いとのこと。最初は否定的なとらえ方、孤独感が強い人物であったが、現在は安定している。
 
7. 職弱者の起業
 ひきこもりだけでなく、障害者や病弱者高齢者のように職を得にくい人達が、自分のぺースで働き、地域社会とも交流できる場として、自ら飲食店を開く人達が多くなっている。これはまさしく「起業」である。最近報道された所だけでも、東京都世田谷区烏山のレストラン「らくだ」東京国分寺市の「コミュニティ・レストラン」東京都北区「スワンベーカリー十条店」がある。レストランは調理、接客、掃除、会計など多様な職種があり、一人一人に合った仕事が見つけやすい。又、店に集まることで交流が起こり、互いに支え合うことが期待できる。スワンベーカリーの小島靖子さんは元養護学校の先生。「彼等は普通の子どもたちよりゆっくりとこの時間をかけて成長しているのです。誰かが自分を待っている。その張り合いに支えられるんです」と語り、朝日新聞の天声人語にも紹介されている。障害者が働く全国の喫茶店やレストランの関係者が集まり、情報や意見を交換する「全国喫茶コーナー交流会」まで開かれるようになった。
 
8. 「クズは大丈夫、再生がきくよ」
 かなり前の新聞の投書欄に、「あのひと言」というテーマでこんな記事が出ていた。
クズは大丈夫 再生がきくよ
 その青年は「定職がないので、親から人間のクズだと言われる」と弱々しく言った。間をおいて大工さんが「お前な、クズやカスは大丈夫だ。ゴミは駄目だが、クズやカスは再生がきくよ。紙クズ、鉄クズを見ろ、立派な資源だ。ガラスのクズは新しいガラスを作る時に必要なんだ。酒カスで甘酒を造る。カス漬けなんか、うめいだろう。おれも学校も出てねえし、若いときはクズだった。親不孝もしたよ」と諭すように言った。つい最近この大工さんに会ったのであの青年のことを聞いてみた。「だいぶ仕事を任せられるようになった。再生品は新品以上だ。立ち直ったヤツは強いよ」とニコニコしていた。あの時のクズやカスの話が青年の胸を打ち、心を開かせ、ヤル気を起こさせたのであろう。この大工さんは立派なカウンセラーだ。
 
9. ボラバイトで社会参加
 今、「ボラバイト」という制度が注目されている。これは東京の「サンカネットワーク」という会社が2000年に始めたことでボランティアとアルバイトの中間的な存在である。既に学生や社会人など2400人が登録しており、時給は手取りで375円。交通費も支給されない。
 私共にもボランティアは多数いるが、ボランティアだと頼む方は遠慮がちになり、ボランティア側も「どうせタダだから」といい加減になる。その点少しでも報酬があれば仕事のつもりできちんとやるし、支払う方もそれなりの事を要求するので責任感が生じて良い。報酬は最低賃金法で定める地域の最低賃金が基準だという、これは不登校生の社会参加にも活用できそうである。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION