2−4.今年度のまとめと今後の課題と実施すべき事項
(1)今年度のまとめ
前項までにロンドン条約及び関連文書の概要、海外における実態、我が国における実態について述べてきた。96年議定書の批准に際し、議定書が示す方向と我が国の浚渫土砂海洋投入処分の実態との間に調整しておくべき問題が以下のように明確になった。
1)底質の評価体系について
・ 物理的特性、化学的特性及び生物学的特性についてその評価手順、スクリーニングの考え方等
2)試験方法について
・ 物理的特性
・ 化学的特性…考慮すべき物質の選定、溶出試験と含有量試験について
・ 生物学的特性…特性把握の方法、バイオアッセイの導入について
3)基準値について
・ 複数基準値の設定、基準値設定に関する留意事項について
4)投棄場所について
・ 地点選定に必要な情報、データベース及び情報公開について
5)潜在的影響について
6)モニタリングについて
・ モニタリングの実施とフィードバックの方法について
これらの検討課題についてロンドン条約関連文書による方向、我が国の現状、海外における参考事例、今後の課題をまとめると表2−28のとおりになる。また、想定される底質評価の手順(案)をまとめると図2−32のようになる。
表2−28(1) 平成13年度調査のまとめ及び来年度以降の課題
検討課題 |
ロンドン条約96年議定書の規定 |
わが国の現状(認識) |
参考事項 |
今後の課題 |
ロンドン条約96年議定書附属書2(WAF) |
しゅんせつ物WAG |
物理試験、化学試験、生物試験の実施順序 |
特に順序については規定していない。 |
物理試験→化学試験→生物試験の順序で行う |
・物理試験、化学試験(同時に行い順序は考えられていない)が義務付けられている |
・OSPAR条約では、物理学的特性→化学的特性→生物学的特性の階層的特性把握が推奨されている |
・全体的な評価体系の検討 |
生物試験は行われていない |
・米では、化学試験と生物試験の階層的取組みがなされている |
・生物試験の役割の検討 |
スクリーニング |
特に記述はない |
浚渫物が汚染されていないという合理的な保証がある場合、砂・れき及び岩で構成している場合、過去にかき乱されたことのない地質学的物質で構成されている場合のいずれかであれば、化学的及び生物学的特性分析は免除されるとしている |
・わが国では「スクリーニング」の意識は薄く、システマチックなスクリーニングは実施していない。このため、砂質土であっても一様な化学分析が義務づけされている |
・GIPME報告書に、初期スクリー二ング、初期評価の手順が示されている |
・事業事例を分析し、スクリーニングの有無を含め段階的な評価方法の検討 |
物理的特性 |
物理的特性を考慮する |
・潜在的影響評価や化学的及び/または生物学的試験の必要性を決定するため必要 |
・浚渫土量、粒度分布、比重は測定している |
・OSPAR条約における物理的特性把握項目:粒度組成、固相の割合、密度・比重、有機物量(TOC) |
  |
・土量、粒度分布、比重 |
・わが国では、スクリーニングという認識は薄く、砂質土であっても化学分析は義務づけされている |
・[1]汚染されていないという合理的保証がある浚渫物、[2]砂、れき、岩で構成されている浚渫物、[3]かき乱されたことのない地質学的物質で構成される浚渫物、のいずれかに当てはまる場合は、化学的及び生物学的特性分析は免除される |
化学的特性
・考慮すべき物質 |
優先的に考慮すべき物質(例示)・カドミウム、水銀、有機ハロゲン、石油炭化水素、ひ素、鉛、銅、亜鉛、ベリリウム、クロム、ニッケル、バナジウム、有機珪素化合物、シアン化合物、フッ化物、殺虫剤及びその副生成物 |
審査する場合に優先的に選択すべき物質(例)・WAFと同じ |
・WAF、しゅんせつ物WAGで列挙されている項目について、有機珪素化合物以外は判定基準を設けている |
・OSPAR条約における化学的特性把握項目: |
・化学的特性把握項目の見直し |
・その他懸念される化学物質(TBT、ダイオキシン類、PAH類)については判定基準はない |
(1)重金属・・カドミウム、銅、水銀、亜鉛、クロム、鉛、ニッケル |
(2)有機/有機金属化合物・・PCBコンジェナー、多環芳香族炭化水素(PAH)類、TBT化合物及びその分解生成物 |
・溶出試験と含有量試験 |
特に記述はない |
特に記述はない |
・現行の基準は溶出試験によっている |
・OSPAR条約諸国、米、加、豪等主要国は、いずれも含有量試験を実施 |
・含有量試験による底質データの収集・分析 |
・海外(英米加等)からは、溶出試験に対して妥当性が疑問視されている |
・暴露経路を検討し、各物質・状態に応じた試験方法の検討 |
・暴露経路を検討し、それぞれの物質や状態に適した試験方法を選択することが望ましい |
・設定項目(基準値)と試験方法の検討・見直し |
・環境省、海上保安庁の定期モニタリング調査は含有量試験で実施している |
・実用性、実効性を考慮した試験・評価方法の検討 |
表2−28(2) 平成13年度調査のまとめ及び来年度以降の課題
検討課題 |
ロンドン条約96年議定書の規定 |
わが国の現状(認識) |
参考事項 |
今後の課題 |
ロンドン条約96年議定書附属書2(WAF) |
しゅんせつ物WAG |
・複数基準値(上限値、下限値等)の設定 |
・上限を明記し、下限は明記してもよい |
WAFと同じ |
・現行では基準値は1つ(上限値に近い管理値=上限を超えると「禁止」か「処理」を求められる) |
・OSPAR条約ではロンドン条約と同様の規定であり、実際には複数段階の基準値を有している国が多い |
・複数基準値とした場合の特徴(メリット、デメリット)の検討・整理 |
・上限は、人の健康又は海洋生態系を代表する感受性の大きい海洋生物に対する急性又は慢性の影響を避けるように設定すべきである |
・基準値は一つの方がわかり易いという評価がある一方、上限・下限値を設けた方がきめ細かな運用ができ合理的であるという評価もある |
・全体の評価体系と関係付けて検討 |
・複数(上限、下限等)の基準値を定める場合には、明確な考え方と方法が必要である |
・各国の設定基準値の国際的評価(拘束力) |
特に記述はない |
特に記述はない |
・国際会議の場で、香港の基準値(下限値)が甘すぎるのではないかとの懸念や、わが国の溶出試験のみの評価に対する疑問視等の議論があった |
  |
・国際動向の継続的な把握 |
・国際的な協調は不可欠であり、今後も継続して国際情勢の把握や意見の交換が必要 |
・近隣のロンドン条約加盟国間との情報交換、合同調査等の検討 |
・近隣諸国との協調も近い将来必要 |
・複数物質による判定方法 |
特に記述はない |
特に記述はない |
・個々の物質については基準値を下回っていても複合的に影響を及ぼす可能性は残されており、このような場合の評価法について諸外国事例等の情報を整理しておく |
・オランダにおいては、複数の重金属の影響判定について、一定のルールを定め運用している |
  |
・バックグランド値の設定 |
特に記述はない |
特に記述はない |
・現行では、バックグランド値として一般的に適用している値はない |
・OSPAR環境レポートによれば、以下の物質に関して、特定地域のバックグランド値が記述されている |
・他国事例の収集・整理 |
・GIPMEの報告書(「底質の評価に関する手引き」)では、いかなる地域においても金属や有機物が自然状態でも堆積物中に存在し、そのレベルと分布状況を把握し、人為的発生源・活動からの負荷か否かを特定できるよう整理しておくことを提案している |
・バックグランド値と基準値との関係について、諸外国の事例や考え方を整理しておく必要がある |
・カドミウム、水銀、鉛、銅、多環芳香族炭化水素、HCB、DDE、PCB類 |
・日本の公的機関によるモニタリング調査結果等の整理、バックグランド値の幅及び地域差の有無の検討 |
生物学的特性 |
・廃棄物とその成分の特性把握では、生物学的特性、生物学的持続性を考慮する |
・潜在的影響が化学的・物理的特性分析や入手可能な生物学的情報に基づいて評価できない場合には生物学的試験を実施すべきである |
・現行では生物学的特性把握については実施していないのが一般的である |
・米、加、ではガイドラインに沿って試験を実施している |
・諸外国で行われている方法、供試生物・材料についての考え方、様々なレベルの生物試験の実施例、わが国の実態等の情報収集・整理を引続き行う |
・バイオアッセイ(毒性試験、生物蓄積試験等)については、底質に対する試験実績が少なく、供試生物、試験方法、評価方法等が未確立で標準化の至るまでには多くの課題を残している |
・オランダについても、ガイドラインにより実施する準備ができている |
・バイオアッセイの試験的実施 |
・一方で、有害か否かを最終的に判断する一つの指標として諸外国では取組みがなされている |
・その他OSPAR条約諸国その他の国で、試験段階の導入がされているが、試験方法、評価方法について課題も多いという情報もある |
・わが国の公的機関が行っている生物影響に関するモニタリング調査等の整理 |
・事業サイドとしても、バイオアッセイの経験を積み、試験方法・評価方法等について国際的な議論に参加できるレベルを確保することが必要 |
表2−28(3) 平成13年度調査のまとめ及び来年度以降の課題
検討課題 |
ロンドン条約96年議定書の規定 |
わが国の現状(認識) |
参考事項 |
今後の課題 |
ロンドン条約96年議定書附属書2(WAF) |
しゅんせつ物WAG |
投棄場所 |
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・地点選定に必要な情報 |
[1]水質、底質の物理的、化学的、生物学的特性 |
・WAFの記述に加え、さらに詳細な情報を収集すべきこと、投棄場所の広さ、収容量、潜在的影響の評価を検討すべきこと等を記述している |
・現行では、水底土砂は判断基準に従ってA、C、F海域のいずれかに排出しており、投棄場所に関する情報を調査するルールにはなっていない |
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・国際的動向は、投棄場所に関する情報を明確化する方向であり、投棄に際し、どの程度の情報が必要かを検討する |
[2]投入地点の海洋利用、有価値性 |
・継続事業に関してはおおよその投棄場所は明確になっている |
[3]流れの特性 |
[4]経済性及び作業場の実現可能性 |
・データの統括、公開 |
特に記述はない |
特に記述はない |
・環境省、海上保安庁が定期モニタリング調査を実施している |
米国では浚渫物関連DBが構築され、インターネットでアクセス可能となっている |
・データ蓄積・解析に関する役割の整理 |
・公的機関間の連携によるデータ蓄積、統合、公開が必要 |
・OSPAR条約国は、浚渫物投棄許可件数、処分量の報告が義務付け |
・データの一元管理、公開、使用に関する検討 |
潜在的影響 |
・影響仮説を設定し、処分選択肢の可否、環境モニタリング要件の決定を行う |
WAFの規定の他、以下の記述がある |
・現行においては、投棄申講の書類に影響仮説の記載は必要とされていない |
・ロッテルダム港においては、影響シナリオを作成し、影響評価に基づくモニタリング計画を作成している |
・影響シナリオの設定による既存事業のケーススタディの実施 |
・事前評価は、廃棄物の特性、処分地点の特性、処分技術を総合し、人の健康、生物資源、海洋の健全性、海洋の利用への影響を明記し、影響の性質、時間的・空間的規模を明確にする |
・影響仮説を立てるに当たっては、浮遊物の存在、産卵・繁殖・生育地等の過敏な地域か否か、回遊パターン、資源の市場性の他漁業、海上交通、その他工学的利用、文化的利用等への影響も考慮する |
・影響シナリオを設定し、既存の事業を当てはめ、潜在的影響の評価を行い、具体事例により評価体系全般にわたる問題点の把握を行う必要がある |
・オランダでは、過去10年における浚渫土砂データの見直しを行い、新しい浚渫物評価の枠組みの検討を行っている |
・浚渫土砂に関する影響シナリオの検討 |
・処分選択肢の評価分析は、人の健康へのリスク、環境費用、事故等のリスク、経済性、他の利用の排除等を考慮する |
・モニタリングは影響仮説を実証するとともに、投棄行為及び投棄場所に適用される管理対策を見直すためのフィードバック機能を果たす |
・影響仮説は投棄行為の累積的影響を考慮すべき |
モニタリング |
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・適合モニタリング |
・許可条件が満たされていること |
・WAFと同じ |
・浚渫土砂に関し現行では実施されていない |
・OSPAR条約では、処分船及び処分作業の定期検査が推奨されている |
・適合モニタリングの実施の検討 |
・適合モニタリングは、手続きどおり実施されているかどうかであり、事業者が自主的に点検するような仕組みが適当 |
・現場モニタリング |
・投入処分地選定過程の仮説が正しく、かつ環境と人の健康保護に十分であることを証明する |
・WAFと同じ |
・現行では、基準に適合した土砂を許可された地点に投棄することとされており、モニタリングの義務付けはない |
  |
・投棄場所と関連した現場モニタリング(事業中の影響、長期的影響)の実施方法(実施主体、費用負担方法を含む)の検討 |
・環境省、海上保安庁が、投棄場所全般の環境変化を調査しており、これが「現場モニタリング」と解釈できる |
・モニタリングの実施 |
・モニタリング計画には明確な目標を設定する |
・影響仮説は現場モニタリングの基礎となり、環境の変化が予測の範囲内かを確認する |
・環境省、海上保安庁が実施しているモニタリングでは以下の項目が調査されている |
・OSPAR条約では、影響仮説に基づくモニタリングの整合性が求められている |
・影響仮説検討後、一般的なモニタリング計画案やガイドラインの作成 |
・測定は、影響の範囲内のみならず、影響の範囲外についててもその程度を知りうることが必要である |
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・長期モニタリング結果の見直し |
・モニタリングの結果は、その目的に照らし見直すことが必要 |
物理試験:粒度組成 |
化学試験:カドミウム、水銀、クロム、TN、TP等 |
・現状では同一海域の調査は数年に1回程度のサイクルとなっており、これらのデータを比較解析することは可能 |
表2−28(4) 平成13年度調査のまとめ及び来年度以降の課題
検討課題 |
ロンドン条約96年議定書の規定 |
わが国の現状(認識) |
参考事項 |
今後の課題 |
ロンドン条約96年議定書附属書2(WAF) |
しゅんせつ物WAG |
その他
・有効利用の扱い |
・廃棄物管理選択肢を設定する段階で考慮すべき事項と記述されている |
・浚渫物は幅広い有効利用方法があり、WAGで示す特性分析は様々な利用方法に適用するときの保証を与える |
・港湾空港等整備におけるリサイクルガイドラインに手順をまとめている |
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・段階的評価体系の検討 |
・段階的な評価体系の適用により、最小の試験ですむような枠組みが望ましい |
・サンプリング |
特に記述はない |
特に記述はない |
・現行では、プロジェクトの特徴に応じ、案件ごとにサンプリング地点や頻度を設定している |
ロンドン条約会議で、浚渫物特性分析におけるサンプリングガイドラインの作成作業が進められている |
・サンプリングガイドラインの検討 |
・特性分析の頻度 |
・サンプリング地点や頻度に関するガイドラインがあれば事業者として作業がしやすい |
・OSPAR条約では、浚渫土量に応じたサンプリング地点数の目安、頻度等が記載されている |
・継続事業と新規事業とで試料数や試験頻度の差を設けるか否かの検討 |
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図2−32 想定される底質評価の手順(案)(初期スクリーニング、初期評価、毒性評価(生物試験):WAF、しゅんせつ物WAG及びGIPME報告書に従った手順)