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(3)アメリカにおける浚渫土砂海洋投入事業の状況(Ocean Disposal Databaseより)
 アメリカの陸軍工兵隊のインターネットサイトでは、浚渫土砂事業に関連したデータベース”Dredging Operation Technical Support Program(DOTS:浚渫事業技術支援プログラム)”を公開しており、’この中の”Ocean Disposal Database(ODD:海洋投入処分データベース)”について、詳しい内容を紹介する。
 ODDには各海洋投入地点の情報や地点毎の個別事業に関する情報が掲載されており、今後我が国において投棄場所管理、モニタリング調査のあり方、またデータ管理等を検討する際に大変参考になると考えられる。
1)概要
[1]海洋投入処分地点数及び地点ごとの事業数
 ODDは米国陸軍工兵隊が管理しており、1976(昭和51)年以降の連邦全域における浚渫事業関連のデータを検索することができる(注:資料編にインターネットサイトの一部を示す)。
 ODDでは、連邦全域の浚渫土砂海洋投入処分量のほか、アメリカ全域を7地域に区分し、その区分毎の投入処分量や、さらに細かい地域別の情報が見られるようになっている。ODDから作成したアメリカにおける浚渫土砂の海洋投入処分地点数、個々の投入処分場所の面積、水深、投入処分事業数の一覧表は表2−19及び図2−7(地域区分図)に示すとおりである。投入処分地点数は134地点、総面積は約750km2、水深は最浅部で1m程度、最深部で約3,000mとなっている。また、1976年から現在までに実施された投入処分事業件数は1,891件(うち連邦事業1,198件、許可事業693件)である。連邦事業は連邦政府が行っているものと理解できるが、許可事業については港湾管理者、民間のほか米国海軍なども含まれている(注:連邦事業と許可事業の違いについてはODDでは示されていない)。
 
[2]個別の投入処分地点に関する情報
 個別の投入処分地点に関する情報としては、以下に関する記載がある。
・最も最近行われた投入処分事業名と投入処分量
・投入処分地点として指定された年月、使用状況(投入処分地点としての使用が既に終わっているか否か)、指定根拠法令
・投入処分地点の位置図、緯度経度、最寄の岸からの距離、面積、水深(最浅部と最深部)、投入処分地点が円形だった場合はその直径
・その他特記事項
など
 
 また、上記情報の掲載画面は、投入処分量の経年変化や過去の投入処分履歴の画面ともリンクしている。
 
[3]個別事業に関する情報
 個別事業に関する情報としては、以下に関する記載がある。
・事業名
・投入処分年
・投入処分量
・投入処分開始時期/完了時期、頻度
・浚渫場所及び浚渫方法
・投入処分地点の位置:緯度経度、最寄の岸からの距離、面積、最寄の岸からの距離(最浅部と最深部)
・投入処分方法
・モニタリング調査の有無と頻度(水深観測、物理・化学・生物調査)
・投入処分前の化学試験実施の有無(全部ではないが分析結果を公開している事業も数多くある)
・投入処分前の生物試験における供試生物の種名(溶出液・固相・生物蓄積)
・その他特記事項
など
 
2)アメリカにおける海洋投入処分事業の実態
 ODDから得られた情報より、過去10年(1991〜2000年)におけるアメリカの浚渫土砂海洋投入処分事業の状況を以下のとおり類推した。
[1]投入処分前の試験方法
・アメリカでは、各地域や州により事前の試験方法が異なっているといわれる。東海岸のニューヨーク地域やニューイングランド地域の例では、粒度組成、化学試験(含有・溶出)、生物試験まで実施しているものが多くみられる。一方、西海岸のサンフランシスコ地域やロサンジェルス地域では化学試験についてODDで公表していない例が多いため、どのような試験を実施しているかは不明である。
・ニューヨーク地域では、化学試験として含有量試験と同時に溶出試験を実施している事業もある。ただし、通常は含有量試験のみで、溶出試験を実施するときは含有量試験も同時に行っている。また溶出試験の項目数の方が少ない場合が多かった。ニューヨーク地域以外の地域については、化学試験を行う場合は含有量試験のみであった。
・生物試験が多く行われているのは主に東海岸側、ニューヨーク付近である。大きく分けて、溶出液(おそらく清浄な海水を用い浚渫土砂から溶出したもの)、固相(浚渫土砂そのもの)、体内蓄積という3種の生物試験が行われるケース(ニューヨーク地域)と、固相と体内蓄積の2種の生物試験が行われるケース(ニューイングランド地域)があるようである(注:生物試験の詳細方法や結果についてはODDには記載されていない)。
・北西部、太平洋南部、北大西洋部、アラスカ及びホノルル部における過去10年の投入処分事業数は合計513件であった。これらのうち、事前調査結果をODDで公表している件数は以下及び表2−20のとおりである。他の事業でも行っているものとみられるが、公開していない事業については、試験内容は不明である。なお、全試験を免除されている事業数は2000年において12件(連邦全体:詳細位置、内容については不明)であった。
・粒度組成(物理調査) 92件 (全事業数の18%)
・化学試験(含有量) 102件(18%) (溶出) 26件(5%)
・生物試験(溶出液) 46件(9%) (固相) 57件(11%)
 (体内蓄積)55件 (11%)
 
[2]モニタリング調査
・モニタリング調査の種類は、水深観測、化学分析、物理調査、生物調査の4種類に区分されている。事業主体は、連邦事業の場合は連邦事業、許可事業の場合は民間も含めた個々の事業者、すなわち直接の事業者のようである(注:詳細項目、調査方法、実施主体はODD中に記載されていない。)。
・北西部、太平洋南部、北大西洋部、アラスカ及びホノルル部における過去10年の投棄事業におけるモニタリング調査件数は、不定期のものから1回/年以上の頻度のものも合わせると、以下のとおりである。
・水深観測 183件(全事業数の36%)
・化学分析 136件(27%)
・物理調査 142件(28%)
・生物調査 95件(19%)
・モニタリング調査は、基本的には投入処分地点ごと、事業ごとに検討するようであるが、特に連邦事業の場合など、数年間に一回まとめて実施しているようである。また、同じ年に複数の事業があっていずれも「年一回」のモニタリング調査としている場合は、同じ日付がモニタリングの日程となっており、すなわち複数事業に対してまとめて一回モニタリングすることで対処している。
・ニューヨーク地域においては、年1回のモニタリング調査を掲げている事業が多くみられるが、他の地域は不定期か調査自体なし、という状況である。
表2−19 アメリカにおける浚渫土砂の海洋投入処分地点数、個々の投入処分場所の面積、水深及び投入処分事業数の一覧表(1976年以降)
No 大区画 小区画 投入処分地点数 面積(km2 水深(m) 事業数
最小 最大 総面積 最浅 最深 連邦事業 許可事業
(民間等)
合計
1 1 北西部 シアトル 3 0.1 9.1 12.5 11 48 4 0 4
2 ポートランド 19 0 2.1 10.8 9 39 223 9 232
  (小計)   22     23.3     227 9 236
2 1 太平洋南部 サンフランシスコ 10 0 17 23 11 2,952 108 4 112
2 ロサンジェルス 5 2.0 2 8 81 318 12 164 176
  (小計)   15     31.0     120 168 288
3 1 南西部 ガルヴェストン 15 0 17.2 79.4 5 20 100 0 100
  (小計)   15     79.4     100 0 100
4 1 ミシシッピ渓谷部 ニューオーリンズ 16 0 19.0 95.6 2 32 112 0 112
  (小計)   16     95.6     112 0 112
5 1 南大西洋部 モービル 10 0 130.0 235.8 6 24 78 4 82
2 ジャクソンヴィル 19 0 10.4 58.8 2 900 114 27 141
3 サヴァンナ 2 5.2 11.1 16.3 8 11 41 1 42
4 チャールストン 6 2.1 30.7 49.7 6 13 45 10 55
5 ウィルミントン 4 6.0 20.8 53.6 12 13 84 8 92
  (小計)   41     414.1     362 50 412
6 1 北大西洋部 ニューイングランド 5 0 8.2 10.9 27 91 45 194 239
2 ニューヨーク 7 1.0 40.8 57.1 6 48 162 264 426
3 フィラデルフィア 4 0 0.7 1.4 6 18 19 0 19
4 ノーフォーク 1 20.8 20.8 20.8 9 12 19 0 19
  (小計)   17     90.2     245 458 703
7 1 アラスカ及びホノルル部 アラスカ 2 0.8 1.0 1.7 1 12 19 0 19
2 ホノルル 6 2.6 5.2 18.2 325 2,100 13 8 21
  (小計)   8     19.9     32 8 40
合計 134 (最小)
(最大)
130.0
753.6 (最浅)
1
(最深)
2,952
1,198 693 1891
注)投入処分地点面積については、面積そのものの表示はなく中心点の緯度経度のみ表している地点もある。
 
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図2−7 ODDの地域区分
 
表2−20 アメリカの一部区域におけるモニタリング調査の種類と頻度(投入処分地点別:北西部、太平洋南部、大西洋北部、アラスカ及びホノルル部、1991〜2000年)
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(出典)
・米国陸軍工兵隊(USACE)Ocean Disposal Databaseインターネットサイトhttp://ered1.wes.army.mil/ODD/odd.html








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