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3)諸外国と日本の生物試験の現状
 本資料は、欧米六カ国における生物試験の現状についてインターネット等を通じて入手可能な資料をもとにまとめたものである。今回、調査した六カ国には、浚渫土砂に関する生物試験を含めた評価体系が確立された国(アメリカ、カナダ、オランダ)がある一方、未だ独自の評価体系を模索する国(スペイン、デンマーク、イギリス)もあった。以下に概要を簡単にまとめた。
 
[1]評価方法の確立している国
 生物学的試験は、物理的・化学的特性把握を補う、あるいはそれと対等な評価方法として、浚渫土砂評価の必須項目という捉え方がなされている。現時点において確立されている評価体系には、階層的評価方法と並列的評価方法がある。
・階層的評価方法:物理的・化学的・生物学的項目について、階層的に評価する。浚渫土砂を性状により場合分けして、必要に応じて生物試験が実施される。→アメリカ、カナダ、(デンマーク)
・並列的評価方法:化学分析と生物試験を並列して実施、評価する。→オランダ
 
 いずれの方法に関しても一長一短がある。例えば、階層的評価方法は、作業の流れがはっきりしていることから浚渫土砂の評価をする上で実行しやすい方法と言える反面、途中段階での評価にかなりの重きが置かれ、通常でない性状をもつ浚渫土砂の評価を誤る危険性がある。
 一方、並列的評価方法は、複数の生物試験を課す傾向があるため、個体レベルから細胞レベルまでの影響情報を得られる反面、生物試験としての評価をどのように行うかが大きな課題となる。
 また、一部の国を除き、現状の評価体系は急性毒性に主眼が置かれており、例えば慢性的な毒性や、体内蓄積による影響に関しての評価は十分とは言えない。
 
[2]生物試験・評価方法を検討中の国
 スペインでは、生物試験の特性(生態学的関連、感度、再現性、標準化、結果の妥当性)・供試生物の条件(飼育管理の容易さ、入手しやすさ)により、生物試験の候補が挙げられている。また、SQT(Sediment Quality Triad)と呼ばれる独自の評価体系で、浚渫土砂を評価することを提唱している。
 デンマークでは、生物試験法の候補が挙げられ、化学分析によって算出されるRQ(Risk Quotient)値を提案し試験結果との比較がなされているが、溶出液を用いての試験では、RQ値との相関が認められず、より適切な生物試験系を確認する必要性が確認された。
 イギリスでは、国際的に認知された生物試験方法が推奨されており、1992年より、周辺海域の継続的調査が行われている。現在、全体的評価方法について検討している。
 
[3]日本の現状
 日本では、海産生物を用いての生物試験はそれほど実施されておらず、また個別の毒性評価は実施されているが、浚渫土砂に関する複合毒性を評価した試験例はない。
 アメリカ、カナダ、オランダなどの例から、生物試験の適用に際して課題となると考えられる点を以下に示す。
 
a.生物試験の役割の明確化
 物理・化学的特性把握を補う(階層的;アメリカ等)、あるいは対等な評価方法(並列的;オランダ)→役割に応じた暴露期間、暴露経路、感度の決定
b.供試生物の選定
 海外で使用されている生物の国内での生息の有無、試験の目的に応じた感度を有するか、入手の容易さ、培養しやすさ
c.技術的側面の確立
 供試生物の供給体制の確立(ロットの管理等)、試験施設の整備、試験の再現性、精度管理
 
(参考)
 PIANC(国際航路協会)の生物試験に関するワーキングなどでは、今後、浚渫土砂の生物試験の供試生物はマクロベントスの成体が世界的に一般的になるであろう、という見方が強い。その理由としては、以下が挙げられる。
・底質の毒性試験なので、底質(海底堆積物)中に生息する生物の方が合理的(プランクトンや魚・幼生は堆積物中には生息していないので供試生物としてあまり適当ではない)
・海底堆積物を食べる生物の方が濃縮性などの毒性の判断をより的確に行える(海水を濾過する二枚貝よりは直接摂取するヨコエビ類やゴカイ類の方が供試生物として適当である)








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