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(要約)
 汚染された堆積物が海洋資源に悪影響を及ぼすレベルを評価するための手法を開発しようという数々の試みがこれまでに行われてきた。しかし、一つの方法として広く受容されるに至っているものはなく、これは管理者の求める実用性や一貫性を欠くものであったことによるところが大きい。
 本報告書では、海洋堆積物への人為的影響、またそれに伴う海洋生物や人の健康へのリスクについて評価する各種手段を検討している。底質に係る数値的な基準は、広範囲での適用に向いていないという結論である。堆積物の評価を行う科学的根拠は、生物学的、化学的及び物理的な検討を一体化したものでなければならない。
 底質の評価に関する新しい手法の検討に加えて、検討に関わった科学者は、3つの特定の意味をもつ質問に言及することを要求された。質問と簡単な回答を以下に示す。
 ・底質の指針における概念は、海洋保全のための簡潔で均一的な方法を導くのに役立たせることが可能か?
回答:可能である−深刻な汚染ととるにたりない汚染とを区別する、均一的で比較的簡潔な方法を作成することができる。地方、そしておそらく国家レベルの管理上の意思決定を導くための試験計画を、生物学的及び(または)化学的試験に基づいて作成できる。
 ・そのような手法は、正しい科学の原理や方法を基礎としながら、管理者が期待する便宜を提供する形で適用することが可能か?
回答:可能である。
 ・海洋生物に対する堆積物の毒性は、化学的測定方法だけで予測することが可能か?
回答:いいえ−現時点で、堆積物の毒性を確実に予測できる化学的測定手法はない。
 本報告書は、底質の評価のために厳しい枠組みを提供するのではなく、自然状態の堆積物、人為的に撹乱された(例えば汚染された)堆積物及び海洋に悪影響を及ぼす(すなわち汚染源となる)堆積物などの区別に利用できる経験的手法を確認するものである。本質的には、科学的正当性と規制上の有用性からの判断基準を満たすことのできる手法を定義している。最も重要なのは、海洋環境の評価や管理に利用するための規則、規制、判定基準及び基準を必要とする管理者に対して、わかりやすい手引きを提示することである。また本報告書は、廃棄物の排出やしゅんせつの許可、環境上の規制の執行及びモニタリングプログラムの結果の解釈などに携わる担当者にも有用となりうる。
表2−1 GIPME報告書による「底質の評価に関する手引」の位置付け
検討項目 記載内容
手引作成の目的 本報告書の目的は、以下の質問に答えることである。
・底質の指針における概念は、簡素で均一的な海洋保全の方法を導き出すのに役立てることができるか?
・そのような手順は、健全な科学の法則や手法に基づきつつも、管理者が期待するような利益を提供する形で用いることができるか?
・海洋生物に対する有毒性の予測手法として化学的測定方法だけによることができるか?
本報告書では、これらの質問に答え、海洋環境の管理者の要請を満たす取組みの検討を行った。また、海洋における堆積物の評価に係る科学的概念の検討も、堆積物中の汚染とそれに関連した海洋生物や人の健康に対するリスクを含めた形で行った。そして、最終的に、自然状態の堆積物と人為的に撹乱された(例えば汚染された)堆積物、また海洋に悪影響を及ぼす(すなわち汚染源となる)堆積物とを区別するような経験的手法を特定した。
本報告書は、底質の評価のための厳しい枠組みを提供するのではない。本報告書では、科学及び法制度両方の有効性を満たしうる手法を定義している。このような取組みをさらに発展させることにより、管理手法の根拠を作成することができる。
対象範囲及び適用除外 はじめに注意点として触れておくべきことは、本手引の対象範囲は、生物相に与える化学物質の影響に限定されることである。すなわち、ここでは、海洋堆積物中に存在する化学物質(自然起源のものと人為起源のもの両方)により生じるリスクや、堆積物の生物学的特質、及びそれらに関連した相互作用や影響を取り扱っている。堆積物のしゅんせつ・処分、船舶の航行、漁業に関連したような物理的影響については、適用外とした。
広範囲に適用可能な総合的な評価手引について 確実に堆積物の毒性予測ができるという化学的測定方法はない。堆積物中の化学物質濃度のセット(いくつかの化学物質に係る値の組合せ)で、急性毒性を起こさない程度のものは知られているが、より有効なセットで毒性に直接反応するものはない。化学物質濃度が上昇すれば堆積物が有害である可能性も増加するが、種々の緩和プロセスもある(O'Connor and Paul, 2000)ため、提案されているいかなる化学的手法も、一貫性をもって確実に毒性を予測するまでに至っていない。このため、広範囲に適用可能ないかなる底質の評価に係る手引の科学的根拠であっても、必ず生物学的、化学的及び物理的な検討を組み入れたものでなければならない。
総合的な手引は、しゅんせつのような実用的な目的のために実施する底質評価に利用できるほか、モニタリングプログラム(ある規制下に置かれた活動の予測範囲内の影響の検証、及び公害防止措置の有効性の検証の両目的から実施されるもの)にも利用されうる。人の健康と環境への示唆を考慮に入れた幅広いアプローチを採用することには、かなりの価値がある。
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注1):産業起源の大きな粒子(TBT塗料の小片等)が含まれている場合
図2−2 底質の初期スクリーニング及び初期評価の手順(GIPME報告書より作成)
 
表2−2 底質の初期スクリーニング及び初期評価の手順に関する背景の整理
検討項目 記載内容
堆積場所 最初に確認すべき事項は、対象とする場所が自然条件下において拡散場か沈降場かということである。拡散場は、通常高エネルギーの水力学的環境下にあり、ここには微細粒子の堆積物がほとんどなく、このため、粒子と相互作用を生じる物質による汚染の可能性や、そのような汚染物質自体を多く含んでいる可能性はいずれも低い。沈降場は、通常低エネルギーの水力学的環境下にあり、微細粒子の堆積物がたまりやすいため、汚染も発生しやすく、人為活動起源の化学物質も多い。どちらの場合においても、その場所に固有の生物的集合体が、堆積物の構造と全体の構成、及び関連する水力学的条件を反映する。場所によっては、水力学的変動のため、堆積場所から拡散場へと変化するようなところもある。このような場所の堆積物は、粒度分布の範囲が広いことが考えられる。このことは、すなわち、堆積物に関連した汚染物質の移動性や生物に取りこまれた(有効な)有毒分の評価を行う際に、非平衡状態の役割も考慮すべきである、ということを強調している。
粒度組成 堆積物の物理的構成は、粒度分布と関係付けて評価されるべきである。自然の堆積物から採取した堆積物で2mm以上の大きさの粒子しか含んでいないものは、著しい量の汚染物質を含まないため、海洋環境の管理者にとってはほとんど懸念する必要がない筈である。砂(直径63μmを超える大きさの粒子で構成)も、化学物質を吸着できる比表面積を最小限しかもたないため、汚染物質を保有しにくい。対象とする堆積物の粒子が63μmを超え、人為起源の大きな粒子(例えば塗料の粒子)を全く含まない場合、これも管理者にとって懸念とすべきではない。対照的に、シルトと粘土分を含む堆積物(63μm未満の粒子)は、人為活動起源のものを含めて、化学物質を封鎖しやすい。堆積物の粒子が63μm(シルト)から2μm(粘土)まで低下するに従い、粒子の表面積割合は指数関数的に増加する。表面積割合の増加、及び表面の物質交換に対する感度の増大に伴い、堆積物中のイオン性物質や疎水性物質の堆積能力が増大する。微細粒子を多く含む堆積物が、より詳細な評価を必要とするに十分な理由があるのである。
現行の用途と管理目的 堆積物の評価を行うための適切な方法の選択は、ある部分では、生態学的配慮や、対象地域の人為的な用途及び関連する管理目的により左右される。例えば、汚染の評価を実施する理由として、次に示すもののうち1つかそれ以上が挙げられうる。
・汚染の分布地図を作成するため
・現状を把握するため
・海洋生物の生息状況(個体群、群集など)を把握するため
・人の健康、及び(または)生物の生産性・多様性に係るリスクを推測するため
・対象堆積物の提案されている用途、または開発(整備)方法に適当か評価するため
・堆積物のしゅんせつ及び(または)処分による評価を行うため
どの場合においても、評価は、「何もしない」、「汚染源規制を強化する」、あるいは「影響を緩和(ミティゲーション)する」といった管理・処理方法の選択に導いていくものである。問題とする事項を厳密に特定していくことにより、その事項にとって最も有意義で有益な情報を得られる評価手順が確立される。
規制機関は、化学物質による汚染に対する生物学的反応の許容限度を決定しなければならない。これは、汚染源の場所や空間的な広がり具合、また地域の管理目的や社会経済的な判断に左右される。管理目的が個々の生化学的プロセスの変化を防ぐというものであれば、汚染に対する生物学的反応の許容限度は、商業的用途に供する種の個体群を維持することを目指している場合よりも厳しくなりえる。一旦反応の許容限度が決定されると、現場調査及び化学分析の一連の作業と生物学的評価とを合わせることができる。
地域の汚染源 底質の評価を行うためのいかなる取組みも、環境保全及び管理を担当する部署から通常得られる筈のサポート情報を必要とする。最も本質的な情報は、陸上の汚染物質発生源に関する知識であり、これには直接排水(下水道及び産業排水)及び農業的・産業的活動等の面源からの海への流入、それに大気中の物質の輸送や降下も含まれる。汚染物質の排出量の推算を含む、対象地域における人為活動に関する付随的な情報も、沿岸域のどこが堆積物の汚染に対して最も脆弱か、その位置を探し出すのに役立つ。
まとめとして、底質の評価への取組みに際しては、その根底にある科学的な教義に基づき、いくつかの結論を導き出すことができる。現在広く行われている管理の状況下では、これらの教義は次のように述べることができる。(一部省略)
・底質評価においては、前提として、いかなる地域においても、金属や炭化水素が自然状態でも堆積物中に存在することを認識すべきである。対象地域に自然状態で存在する金属や炭化水素については、そのレベルと分布状況を把握し、人為的発生源・活動から追加されたものが特定できるように、根拠として整理しておかねばならない。さらに付け加えるならば、人為活動による負荷分の一部は、広範囲にわたる大気及び水の輸送により、周辺環境からもたらされる汚染も含んでいる。この汚染の過程についても、地域の人為活動に起源する負荷分の性質や範囲を特定する前に、特徴付けしておくべきである。
人の健康リスク まとめとして、底質の評価への取組みに際しては、その根底にある科学的な教義に基づき、いくつかの結論を導き出すことができる。現在広く行われている管理の状況下では、これらの教義は次のように述べることができる。(一部省略)
・環境及び人の健康に対して懸念となりそうな堆積物中の汚染物質の度合は、特定の物質及びその現存レベルや、堆積物の本質的な性質、固有動植物の種類、及び地域種が人の消費にどの程度供されているか、といったことに左右される。どこの海洋環境をとっても、これらの状況のコンビネーションは、その地独自のものであるということは明白である。このため、底質評価においては、その場にとって普通の物理的、化学的及び生物学的条件への配慮が必要となる。
堆積物は残留性汚染物質の溜まり場という機能も持つため、堆積物に関連した化合物の食物連鎖中の移送もまた一つの懸念事項となっている。この経路を通じて、海産物(魚介類)の消費により人の健康への影響が懸念されうる。人の組織内の汚染物質残留量に関する情報は、食物中の特定物質に関する基準がWHOのような公共の組織から発表されているので、それと比較できる。または、魚を餌とする鳥など、高次の捕食者の保護のために化学物質残留基準(chemical residue criteria)が定められているので、これとも比較できる。人が汚染物質に暴露されている程度を推測するには、生物蓄積の測定結果を、食物として用いられている既知の成分の消費データと組合せて考えることができる。しかし、ここで注意せねばならないのは、分析に用いたマトリックスが食物連鎖中に実際に用いられている具体的な構成要素であると保証されている、ということである。でなければ、導き出された推測はマトリックスの使用者を誤った方向に導くことになり、価値がないに等しい。というのは、その場合、マトリックスに示されていない別の取込み経路の方がより重要であるからである。
堆積場所の定義付け 堆積物の評価を行うための適切な測定方法の選択は、ある部分では、生態学的配慮や、対象地域の人為的な用途及び関連する管理目的により左右される。例えば、汚染の評価を実施する理由として、次に示すもののうち1つかそれ以上が挙げられうる。
・汚染の分布地図を作成するため
・現状を把握するため
・海洋生物の生息状況(個体群現存量、群集構成など)を把握するため
・人の健康、及び(または)生物の生産性・多様性に係るリスクを推測するため
・対象堆積物の提案されている用途、または開発(整備)方法に適当か評価するため
・堆積物のしゅんせつ及び(または)処分による評価を行うため
どの場合においても、評価は、「何もしない」、「汚染源規制を強化する」、あるいは「影響を緩和(ミティゲーション)する」といった管理・処理方法の選択に導いていくものである。問題とする事項を厳密に特定していくことにより、その事項にとって最も有意義で有益な情報を得られる評価手順が確立される。
管理組織は、化学物質による汚染に対する生物学的反応の許容限度を決定しなければならない。これは、汚染源の場所や空間的な広がり具合、また地域の管理目的や社会経済的な判断に左右される。管理目的が個体内の生化学的プロセスの変化を防ぐというものであれば、汚染に対する生物学的反応の許容限度は、商業的用途に供する種の個体群を維持することを目指している場合よりも厳しくなりえる。一端反応の許容限度が決定されると、現場調査及び化学分析の一連の作業と生物学的評価とを合わせることができる。
底生生物の種組成 実際に出現している生物種が、合理的に考えて出現が予測されている代表的な種とは明らかに異なる場所では、次に発するべき質問は、種組成の違いが汚染やその他の人間活動、例えば漁業(底引き網漁業)等によって生じたものか、あるいは自然の事象(嵐や淡水の流入等)によって生じたものか、というものである。十分な説明がなされうるなら、果たしてその観測された生物学的変化の深刻さは、人間活動への規制強化を行うことが正当だと判断するのに十分なくらいであるか否かが、管理上の主要な検討事項となる。これは、一部には、その地域における類似生息地の全体的な分布状況と関係して、影響場所の空間的広がりの範囲に左右される。即座に明確な説明がなされない場合は、おそらく、さらなる堆積物の詳細調査-室内べ一スの堆積物の特性分析やその他の関連した生物反応を含む-が必要となる。
底生生物の異常 特定物質の化学的濃度がバックグラウンドレベルを超えていても無毒とされる場合
管理行動を必要とする堆積物の多くは、バックグラウンドレベルよりも高濃度の化学物質を含んでいる。とはいっても、これらの堆積物が即有害というわけではない。Long et al.(1995)などの科学者は、数々の文献の見直しを行い、その功績として、経験的にみて、有毒堆積物とほぼ無関係な濃度である無影響濃度(no-effect level)を決定した。無影響濃度を超えた化学物質を含む堆積物が有害とは一概には結論付けられない。しかし、化学物質濃度がこの値と同じかそれ未満の場合は、対象とする堆積物はさらなる試験をせずともほぼ無毒であると仮定できる。ただし、その場合は、次のことに気をつけねばならない。無影響濃度は全化学物質に関して決定されているわけではない。したがって、種あるいは化学物質によっては、無影響とされた濃度でも影響を受けるかもしれない。腫瘍や生殖機能の損傷などの異常が認められた場合、管理者は、より詳細な調査を進めるべきである。
堆積物における最も簡単な生物観測方法は、一部を採取する方法やダイバーによる目視観測、水中写真の撮影により、異なる生物種の相対的な出現割合を推測するというものである。簡単な技術によっても、比較する地点間の主要な違いは示されるものである。可能であれば、このような観測は、より高頻度で詳細な調査により補完されるべきである。補完されることにより、その地域により普通に出現する個体群の年齢・世代及び(又は)個体群のサイズ構造の季節パターンが把握できる。多様なタイプの生物の再生産活動や外部からの加入が持続されているという証拠は、重大な生理学的機能が損なわれていないということの保証になる。対象地域において影響力が大きい種(鍵となる重要な種)-その食餌性や行動により-の再生産遷移が確立されていることが、特に重要なことである。汚染物質による影響を示すと考えられる、障害、腫瘍及び異常が進行しているような状況(腹足類のインポセックスを含む)が認められる場合、詳細な調査に着手することもできる。
金属濃度 バックグラウンド中に存在する金属
化学的分析は、特定の堆積物に自然状態または周辺環境と比較して高いレベルで汚染物質が含まれているかどうか判定するのに用いることができる。完全に自然状態の堆積物は、合成の有機金属化合物を含まないが、自然状態での堆積物の鉱物学的組成に合致した割合で金属やその他の元素を含んでいる。このような物質の存在量や、自然状態での何らかの差があった場合、いくつかの地球化学的な標準化プロセスを用いて堆積物の評価を行うことができる。
金属を含む元素の濃度は、地球化学的マーカー(Al、Liなど)に対して標準化を行うことにより、土壌中及び(または)地殻の岩石中に含まれている自然状態での存在量の報告例と比較することができる(Loring,1990,1991:Daskalakis and O'Connor,1995)。このマーカーは、粒度分布の変動に応じた堆積物中の組成を補正するのにも用いることができる。堆積物の元素:標準化元素比が自然状態の存在比と似たようなものであれば、堆積物が元素の構成分によって著しく汚染されていると信じる理由はない。
上記の概念は、次のような式で表される。
EF=(M/N)Obs/(M/N)Nat≦2
ここでEF…堆積物における金属の濃縮係数
(M/N)Obs…堆積物の(金属:標準化元素)比
(M/N)Nat…自然の(金属:標準化元素)比
半外洋中の堆積物であれば、元素の構成分は、管理上特に問題とはならない筈である。
土壌及び堆積物中の自然状態での変動性を考慮した上で、濃縮係数が2を超えなければ、汚染はきわめて小さいものと考えられる。汚染されていない近隣の場所からの堆積物データが入手できれば、同様の手法でその地域の金属:標準化元素比を算出し、上記の式の分母((M/N)Nat)として用いることができる。周辺環境の(バックグラウンドとしての)汚染レベルの推算は、しばしば、より最近に発生した地域汚染源の場所の確定や定量化作業に必要な前提条件として用いられている。周辺環境のレベルは、調査対象場所の近隣にある、地域(汚染)発生源から汚染されていない場所の金属レベルを用いて推測することが可能である。面発生源から排出された汚染物質が、大気や水の広域の輸送システムを通じ、均一に降下・沈降して堆積物が汚染されている場合、周辺環境のレベルは堆積物の層からコアサンプルを採取し、分析する方法により推算できる(すなわち、汚染物質が混入してくる、または汚染物質を発生する活動が始まる以前の堆積層がある)。ただし、この方法を用いて推算する場合は、堆積後の物質の化学組成に生じた地球化学的プロセスについても考慮しなければならない。
有機汚染物質 バックグラウンド及び基底となる有機成分
有機化合物が微量であり、トレースレベルで検出される場合、上記の方法と似たような方法を用いることができる。海洋堆積物中には、海洋の生物学的プロセスの結果として、また多様な発生源や活動(野火、鉱物の風化、農業、土壌浸食、化石燃料の燃焼、採鉱及び精錬など)からの地球化学的な輸送の結果として、自然起源と人為起源の両方の有機化合物が存在する。このような経過によりもたらされたバックグラウンドレベルは、自然のプロセスや既に行われてきた人為活動の遺物であり、国の管理が及ぶ範囲ではない。はっきりしているのは、有機化合物のレベルが近年の人間活動のためにさらに増大し、それが問題となる場合や場所が出てくるということである。したがって、主に自然状態を表すものとして、あるいは以前の人間活動の遺物があった場合はその影響のため地域レベルよりも高めのバックグラウンドレベルとして、基底のレベルを決定する方法が必要となる。(このようなバックグラウンドレベルを決めるのは地域レベルの話ではあるが、)これは国際レベルの活動-地球規模で拡散している物質を低減させようというもの、例えば残留性有機汚染物質(POP)関連の条約の作成など-を除外するものではない。
堆積物中の有機化合物の基底レベルを決定する取組みには、2つの選択肢がある。第1の方法は地域の沖合または大陸棚における堆積物を調査する方法であり、第2の方法は海岸に近い場所の堆積物、ただし地域の人間活動や産業活動による汚染がない場所のものを調査する方法である。どちらの方法にも長所と短所がある。沖合の堆積物は、広範囲にわたる沿岸域の基底レベルを決定するのに用いられるという利点があり、さらに地域レベルで基底となっている(実際の)汚染状況を反映しやすい。その一方で、通常、有機炭素の含有量が少ないため、分析には苦労する。この点については、サンプル自体のサイズ(量)を増加させることで、有機物の検出をより確実にすることができる。沿岸域や海岸付近の堆積物は、地域から排出される汚染と結びつきやすく、バックグラウンド値を超えていることもしばしばあるが、特定の沿岸地域において、より現実的なバックグラウンド状況を反映していると考えられる。注意深く選定された沿岸域のサンプル地点(地域の人為活動から離れた地点)では、サンプリング上及び分析上の困難はさほど伴わないが、地域スケ一ルで見た場合、必ずしもその地域の状況を正確に反映しているとは言えない。どちらの方法を取っても、粒度分布と有機物質含有量の変動を考慮して、標準化を行う必要がある。
この手順は、最も近い場所にある、参照堆積物から採取した代表的なサンプルを数検体用いることにより行う。参照堆積物中には、合成の有機化合物及び全有機炭素(TOC)が通常生じる範囲で測定されるものである。特定の化合物の選択は、まず、物質を放出する地域発生源に基づいて行うべきである。理想的には、これには数種の石油系炭化水素、数種の多環式芳香族炭化水素(PAH)及びPCBなどコンジェナー等の合成化合物を数種含むべきである。基底は、これらの選択された各有機化合物とTOCの関係により反映されることになる。
対象の堆積物及び参照堆積物の各サンプル中の有機化合物のTOCに対する割合は、地域の基底を超えた(対象とする堆積物中の)汚染レベルの評価を行う根拠となる。割合が似たものであれば-例えば係数2未満であれば、対象の堆積物における汚染のレベルは微小なものであり、含有有機化合物由来の損傷あるいはリスクはほぼないといえる。








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