5.行動基準
5.1 行動基準は、ある物が投棄を認められるか否かを決定するための審査メカニズムを提供する。同基準は議定書附属書2の最も重要な部分をなしており、科学者グループ会合は、そのあらゆる面を継続的に見直し、締約国の同リスト適用を支援する。また、同基準はロンドン条約附属書I及びIIの実施にも活用され得る。
5.2 各締約国は、人の健康及び海洋環境に対する潜在的な影響に基づいて、投棄が検討される廃棄物及びその構成物を審査するための機能を提供するために、国の行動基準を作成する。同基準において審査する物質を選択するに当たっては、人類の活動により影響を受ける発生源からの毒性及び持続性を有し、生体に蓄積する物質(例えば、カドミウム、水銀、有機ハロゲン、石油炭化水素、並びに、適当な場合には、ひ素、鉛、銅、亜鉛、ベリリウム、クロム、ニッケル及びバナジウム、有機けい素化合物、シアン化合物、ふつ化物、及び駆除剤またはその副産物で有機ハロゲン以外のもの)を優先する。同基準は、廃棄物を防止するための更なる検討の制度としても使用することができる。
5.3 個別の廃棄物ごとに、限界濃度、生物学的反応、環境基準、フラックスの検討及びその他の関係する価値に基づいて国の行動レベルを定義することは可能である。
5.4 行動基準は、上限値を特定するものとする。また、下限値を特定することもできる。上位の基準は、人の健康または海洋生態系を代表する繊細な海洋生物に対する急性のまたは慢性の影響を妨げるために設定されるべきである。行動基準を適用することによって、廃棄物は三つの潜在的種類に分かれることとなる。
.1 関係する上位の基準を越えて特定の物質を含むまたは生物学的反応を起こす廃棄物は、処理技術また過程を通じ投棄が容認できるようになる場合を除き、投棄することはできない。条約の要件を満たさないしゅんせつ物の管理方法の選択肢は、3.3項及び3.4項に示すとおりである。
.2 関係する下位の基準を下回り特定の物質を含むまたは生物学的反応を起こす廃棄物は、投棄との関連において、環境に対する懸念は少ないと考えるべきである。
.3 関係する上位の基準を下回るが下位の基準を越えて特定の物質を含むまたは生物学的反応を起こす廃棄物は、投棄することが適当であるかを決定するに先立ち、更なる詳細な検討が必要である。
6.投棄場所の選択
投棄場所選択に当たっての検討事項
6.1 海洋における投棄場所を適切に選択することは最も重要である。
6.2 投棄場所を選択するために必要な情報は次の事項を含む。
.1 水柱及び海底の物理的、化学的及び生物学的特性
.2 検討されている水域内におけるアメニティ(快適利用)区域、価値のある区域及びその他に利用されている区域の位置
.3 現海洋環境における物質の流れとの関連で、投棄によって生じる含有物フラックスの評価
.4 経済的及び作業上の実現可能性
6.3 投棄場所選択に当たっての手続に関するガイダンスは、海洋環境の保護の科学的側面についての合同専門家グループの報告書(GESAMP報告・研究No.16−海における廃棄物投棄場所選択のための科学的基準)の中に示されている。投棄場所の選択に先立って、投棄場所となる地域一般の海洋特性についてのデータが必要である。この情報は文献から入手出来るが、ギャップを埋めるため現地で調査を行うべきである。必要な情報は次のものを含む。
.1 地形、地球化学的及び地質学的特性、生物学的構成要素及び活動、また過去に影響を及ぼした投棄活動を含む海底の特性
.2 温度、水深、水温躍層/密度躍層の存在可能性及びその季節及び気象条件による水深方向の変化、潮候及び潮流楕円の方向、表層流及び底層流の平均的流向及び速速、底層流を起こす大波の速度、通常の風及び波の特性、及び年間平均暴風日数及び懸濁物質を含む水柱の物理的特性
.3 水素イオン濃度、塩分、表層及び底層の溶存酸素量、化学的酸素要求量及び生物化学的酸素要求量、栄養塩及びその様々な形態、一次生産を含む水柱の化学的、生物学的特性
6.4 特定の投棄場所の位置を決定するに際しては、次に示すいくつかの重要なアメニティ区域、生物学的特徴及び海の使用に考慮しなければならない。
.1 海岸線及び海水浴用の砂浜
.2 景観地または著しく文化的または歴史的に重要な地域
.3 保護区域のように特別な科学的または生物学的重要性のある地域
.4 漁場
.5 産卵場、生育場、加入場
.6 魚の回遊路
.7 季節的及び危急な生息地
.8 航路
.9 軍の占有地域
.10 鉱業、海底ケーブル、淡水化及びエネルギー転換所を含む海底の工業的使用
投棄場所の大きさ
6.5 投棄場所の大きさは以下の理由から重要な検討項目である。
.1 投棄場所は、拡散場所として許可されている場所でなければ、物質の大部分が投棄場所内または投棄後の影響が予想される場所内に残るのに十分な大きさであるべきである。
.2 投棄場所は、投棄場所の境界に達する前、または達する時にバックグラウンドレベルまで薄められた固形廃棄物または液体廃棄物の予想量に見合うために十分な大きさであるべきである。
.3 投棄場所は、長年使用できるようにするため投棄予想量との関係で十分な大きさであるべきである。
.4 投棄場所は、モニタリングに不必要な時間及び費用がかかるほどの大きさであるべきでない。
投棄場所の収容量
6.6 特に固形廃棄物の投棄場所の収容量を評価するために、以下につき検討されなければならない。
.1 年、月、週、日毎の予想される投入率
.2 拡散する場所か否か
.3 海底に投入物が堆積し盛り上がることで投棄場所が浅くなることの許容限界
潜在的影響の評価
6.7 特定の投棄場所での廃棄物の投棄が適当か否かを決定するに際しては、悪影響を引き起こす可能性のある物質に生物が現状に加えて更にどの程度さらされることになるのかを検討することが重要である。
6.8 ある物質の悪影響の程度は人間を含む生物がその物質にさらされることの関数である。ひるがえって暴露とは、色々な要因のなかでも、投入物質フラックスと物理的、化学的、生物学的諸過程との関数となる。これら諸過程は、含有物の運搬、挙動、運命及び分布を左右することになる。
6.9 天然の中にも原因物質が存在し、汚染がいたるところで観察されていることから考えると、生物は、常に、投棄されるいかなる廃棄物の中にも含まれている全ての物質に前もってさらされているということがわかる。つまり、危険物質にさらされることについての懸念は、投棄の結果として自然の状態に加えて更にさらされることになるということである。これは、言いかえれば、他の発生源から出た既存のフラックスと比較した、投棄物からの物質フラックスの相対強度概念である。
6.10 したがって、投棄場所を取りまく地域で投棄に関連した物質のフラックスの重要性につき適当な検討を行う必要がある。投棄によって自然の過程に関連したフラックスが実質的に増大することが予想される場合には、検討中の投棄場所への投棄は勧められないと考えるべきである。
6.11 合成物質の場合、投棄に関連したフラックスと投棄場所の近辺で前もって存在していたフラックスとの関係からは、適切な決定は行えない場合がある。
6.12 一年のうちで潜在的に投棄が行われるべきでない(例えば海洋生物にとって)危険な時期を特定するために、時期的特性が検討されるべきである。同検討の結果、投棄行為による影響が他の時期より少ないと思われる時期が選定されることになる。しかし、もしこの規制により負担や費用が非常に多くかかるのなら、妥協の余地はある。その場合、かき乱されるべきでない種に対し、優先順位を設定することを検討すべきである。時期に関する生物学的検討の例は以下の通りである。
.1 海洋生物が生態系のある場所から他の場所へ移っており(例えば河口から海へまたはその反対)、そこで成長しつある時期
.2 海洋生物が冬眠しているか、または堆積物の中に埋まっている時期
.3 特に過敏で多分に絶滅の危険にさらされている種が現れる時期
汚染物質の移動性
6.13 汚染物質の移動はいくつかの要素に基づいている。それらの中には以下がある。
.1 マトリックスの種類(汚染物質の構成要素の状態)
.2 汚染物質の形態
.3 汚染物質の吸着平衡
.4 気温、水流、懸濁物といった場の物理状態
.5 場の物理化学状態
.6 拡散の長さ、移流の経路
.7 生物学的活動、例えば生物撹乱
7.潜在的影響の検討
7.1 潜在的影響を検討することにより、海洋または陸上処分により予見される結果に関する簡潔な説明、すなわち「影響仮説」を立てるべきである。影響仮説は、提案された処分方法を承認するか、拒否するかを決定し、及び、環境を監視するための要件を決定するための基礎を提供する。出来る限り、環境に汚染物質の拡散と希薄を生じしめる廃棄物管理の選択肢は避けるべきであり、環境に対する汚染物質の投入を避ける技術が嗜好されるべきである。
7.2 かかる検討により、廃棄物の特性、提案された投棄場所の状況、海流、提案された処理技術に関する情報が統合され、また、人の健康、生物資源、快適性(アメニティ)及び海洋の他の適切な利用に対する潜在的な(起こり得る)影響が特定されるべきである。
7.3 かかる検討は可能な限り包括的であるべきである。初期的な潜在的影響は投棄場所の選定過程で明らかにされるべきである。これらは人の健康と環境への最も深刻な脅威を防ぐために検討されるべきである。この点に関し、主な懸念としては、物理的環境の変更、人の健康への危害、海洋資源への損害、海洋の他の適切な利用への干渉等が挙げられる。
7.4 影響仮説をたてるに当たっては、特に、快適性への潜在的影響(例えば浮遊物の存在)、過敏な地域(例えば産卵場、生育場、餌場)、生息地(例えば生物学的、化学的、物理的変更)、回遊パターン及び資源の市場性について注意が払われるべきであるが、これらに限られる必要はない。また、海洋の他の利用、例えば、漁業、航行、工学的利用、特別な関心や価値のある区域、及び海洋の伝統的使用に対する潜在的影響についても検討するべきである。
7.5 最小の構成要素からなり最も無害な廃棄物でさえ、種々の物理的、化学的及び生物学的影響がある。影響仮説はそれら全てを考慮することはできない。最も包括的な影響仮説でさえ、予期しない影響等のあらゆる可能なシナリオを考え出すことはできないということを認識すべきである。それ故、モニタリング計画が仮説と直接関連づけられること、及び、同計画が予測を実証し、かつ投棄行為及び投棄場所に適用される管理対策が適当かどうかを見直すためのフィードバック機能を果たすことが重要である。発生源及び不確実性が引き起こす結果を特定することは重要である。
7.6 投棄による予想される結果は、影響を受ける生息地、過程、種、共同体及び利用といった観点から示されるべきである。予想される影響の正確な性質(例えば変化、反応、阻害)が提示されるべきである。影響は十分に詳細に定量化されるべきであり、そうすれば現地でのモニタリングの際に測定されるべき変数が明確となるであろう。後者については、どこで、いつ影響が予想されうるかを決定することが重要である。
7.7 物理的及び化学的変化と同様に生物学的影響と生息地の変化についても重視されるべきである。しかしながら、潜在的影響が含有物質によるものならば、以下の要素が取り上げられるべきである。
.1 現在の状況とそれによる影響と比較して、海水、堆積物または生物相の中で、その含有物質が統計的に有意な増加をするかどうかの評価
.2 局所的もしくは地域的なフラックスへの投入含有物質の寄与評価、及び海洋環境または人の健康への脅威または悪影響を及ぼすようになる程度の評価
7.8 繰り返し行われる、または数回にわたる投棄行為の場合、影響仮説は投棄行為の累積的影響を考慮するべきである。既存または計画された場所での他の廃棄物投棄実績との相互作用の可能性を検討することも重要である。
7.9 各処分方法の分析は、人の健康に対する危険、環境に対する損害・事故等の危険要素、経済性及び将来的な利用の排除等を比較検討して検討されるべきである。かかる検討の結果、適切な情報が入手できないために、提案された処分方法による影響(潜在的な長期間にわたる有害な結果を含む)を把握することができない場合には、かかる処分方法については引き続き検討を行うべきではない。また、比較検討によって、投棄による処分は好ましくないことが判明する場合には、投棄の許可は与えられるべきではない。
7.10 それぞれの検討によって出される結論は、投棄を許可または拒否する決定を支持する記述であるべきである。
7.11 モニタリングが要求されているところでは、仮説で述べられた影響及びパラメーターがフィールドワーク及び分析作業を進めるのに役立てられ、関連情報が最も効率よく、かつ経済的に収集されるようにするべきである。
8.モニタリング
8.1 モニタリングは、許可条件が満たされていること(遵守に関するモニタリング)並びに許可の見直し及び投棄場所の選択過程の間になされた検討が環境及び人の健康を保護するために正確かつ十分であったこと(現場におけるモニタリング)を実証するために行われる。当該モニタリング計画は目的を明確に特定していることが大切である。
8.2 影響仮説は現場におけるモニタリングの基礎となる。測定プログラムの策定に当たっては、受け入れる環境の変化が予想の範囲内であることが確保されなければならない。以下の質問に答えるものでなければならない。
.1 どのような検証仮説が影響仮説から導き出され得るか。
.2 どのような測定(種類、場所、頻度、精度要求)がこの仮説を検証するために必要か。
.3 データはどのように管理及び解釈されるべきか。
8.3 投棄申請書には、受け入れ海域の既存(投棄前)の状態が明示されていると通常仮定されているかもしれない。係る状態の明示が、影響仮説を策定するために不十分ならば、許可申請に対する最終決定がなされる前に許可官庁により追加的情報が要求される。
8.4 許可官庁は、モニタリング計画の策定及び修正に当たり、関連の調査情報を考慮に入れることが望まれる。測定法は予想された影響地区内のもの及び地区外のものの2つに分けられる。
8.5 測定法は、影響地区及び影響地区外での変化の程度とが予想されたものと違うか否かを決定するために計画されるべきである。前者は、変化の空間的規模が予想を超えないことを確かめるための、空間及び時間における一連の測定を計画することによって対応可能である。後者は、投棄の結果として影響地区外で起こる変化の程度についての情報を提供する測定法によって対応できる。これらの測定法は、顕著な変化は見いだせないとする帰無仮説(null hypothesis)に基づくことが多いだろう。
8.6 モニタリングの結果(または他の関連調査)は、その目的に照らし、定期的に見直されるべきである。また、以下に係る基礎を提供しうる。
.1 現場でのモニタリング計画を修正、または終了させる。
.2 許可を修正、または取り消す。
.3 投棄場所を修正、または閉鎖する。
.4 廃棄物投棄の申請が評価される基礎を修正する。
9.許可及び許可条件
9.1 許可を発給する決定は、すべての影響評価が完了し及びモニタリング要件が決定される場合のみ、行われるべきである。許可規定は、実現可能な限り、環境への撹乱及び損害を最小化し、並びに環境に対する利益を最大化することを確保する。発給されたいずれの許可も次の事項に関するデータ及び情報を含むものとする。
.1 投棄される物質の形態及び発生源
.2 投棄場所の位置
.3 投棄方法
.4 モニタリング及び報告の要件
9.2 投棄が選択された場合、投棄許可は事前に発給されなければならない。許可過程への市民の閲覧や参加の機会が設けられることが望ましい。許可発給に際して、投棄場所内で起こる仮説影響(同地域の局所的な物理的、化学的及び生物学的環境要素の変化等)は、許可官庁により許容される。
9.3 規制者は、経済的、社会的、政治的事情及び技術力を考慮に入れて、環境変化が、現実的な範囲で許される環境変化の限界を下回る結果となるように、手続を執行すべく常に努力する。
9.4 許可は、モニタリング結果及びモニタリング計画の目的を考慮し、定期的に見直されるべきである。モニタリング結果の見直しは、現場での計画を継続すべきか、修正すべきか、または終結すべきかを指示し、また、許可の継続、変更または取り消しに関する決定に貢献する。これは、人の健康及び海洋環境を保護するための重要なフィードバック制度を提供する。