「しゅんせつ物の個別評価ガイドライン」(仮訳)
1.序
1.1 しゅんせつは、港湾、マリーナや内陸水路における船舶航行を維持し、港湾施設の整備、洪水の緩和、構造物、泊地及び取水口にたまった堆積物の除去のため、欠くことのできないものである。これらの必要な活動を通じて除去された物の多くは、海洋投入処分を必要とすることになる。世界中のしゅんせつ物の大半は、本質的に内陸や沿岸水域のかき乱されていない堆積物と同様なものである。しかしながら、しゅんせつ物の一部は、その処分あるいは利用を考える時、重大な環境上の制約が適用される必要のある程まで人間活動によって汚染されている。
1.2 環境影響は、しゅんせつ行為としゅんせつ物の処分の両者が原因となりうる。しかしながら、本ガイドラインは、1972年のロンドン条約及び1996年の議定書の範囲内の関連事項、すなわち、しゅんせつ物の処分のみについて言及することとする。
しゅんせつ及び処分の必要性の評価
1.3 堆積物を移動もしくは処分する必要を生じるしゅんせつ行為は、数多く存在するが、これらには以下が含まれる。
.1 初期(主要な)しゅんせつ−船舶航行のために、水路や港湾区域を広げたり深くしたり、または新規に造ること。また、土木工事の目的のために、例えばパイプ、ケーブル、沈埋トンネル敷設のための溝を掘ったり、基礎工事に不適な物を除去したり、骨材採取のために表土を除去したりすること。
.2 維持しゅんせつ−水路、泊地、または建造物(作業)等が設計寸法通り維持されるよう確保すること。
.3 浄化のためのしゅんせつ−人の健康や環境保護の目的のため、汚染された物質の意図的な除去を行うこと。
しゅんせつ物とその処分方法の全体評価を始める前に、「しゅんせつは必要か?」と問われるべきである。その後の一連の全体評価による結果、許容できる処分の選択肢がないということになった場合、より広い状況を考慮して、この問いを再び発する必要があろう。
1.4 「投棄を検討できる廃棄物その他の物の評価のためのガイドライン」(略称一般ガイドライン)(*1)及び「しゅんせつ物の個別評価ガイドライン」(本文書)は、廃棄物の投棄の規制に責任を有する国の機関が活用し得るものとして作成されており、国の機関が廃棄物投棄の申請書を評価するに当たり、ロンドン条約及びロンドン条約議定書の条項に適合する方法で行うよう指導するメカニズムを具体的に示したものである。議定書の附属書2は、廃棄物の投棄のために海洋を使用する必要性を徐々に減少させることを強調している。更に、附属書2は、汚染を避けるためには、汚染物質の放出及び拡散について厳格な管理を行い、かつ、科学的根拠に基づいた手続きを用いて廃棄物投棄の適切な方法を選択することが必要であるとの考えにたっている。本件ガイドラインの適用に当たっては、海洋環境への影響評価に係る不確実性を考慮する必要があり、こうした不確実性に対しては予防的アプローチを適用する必要がある。本件ガイドラインは、一定の状況下で投棄を認めたとしても、投棄の必要性を減少させるため更なる努力を行う義務を免れるものではないとの考えに基づいて、適用されるべきである。
(*1)1997年の第19回締約国協議会議において、これらのガイドラインが採択された。
1.5 ロンドン条約議定書は、その附属書1に特に列挙された物以外の廃棄物その他の物の投棄は禁止されているところ、同議定書との関係においては、本件ガイドラインは附属書1に記載されている物に適用される。ロンドン条約は特定の廃棄物その他の物の投棄を禁止しており、同条約に関していえば、本件ガイドラインはその附属書で投棄が禁止されていない物に適用される。ロンドン条約の下で本件ガイドラインを適用するに当たっては、その附属書1に反する廃棄物その他の物の投棄を検討するために本件ガイドラインを活用すべきではない。
1.6 図1に示すしゅんせつ物の評価枠組みの概念図には、本手引の適用にあたって重要な決定がなされる各段階が明示されている。原則として、国の機関は同概念図を繰り返し活用し、許可発給の決定を下すにあたり、全ての検討事項が考慮されることを確保するべきである。図1は議定書の附属書2の実施要素間の関係を示しているが、以下の要素が含まれている。
.1 しゅんせつ物の特性分析(4章) (物理的、化学的及び生物学的特性)
.2 廃棄物防止審査及び処分方法の評価 (2・3章)
.3 しゅんせつ物は受入可能か(5章) (行動基準)
.4 投棄場所の特定及び特性分析(6章) (投棄場所の選択)
.5 潜在的影響の決定及び影響仮説の準備(7章) (潜在的影響の評価)
.6 許可発給(9章) (許可及び許可条件)
.7 事業の実施及びモニタリングの遂行(8章) (モニタリング)
.8 現場におけるモニタリング及び検証(8章) (モニタリング)
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図1 しゅんせつ物の評価枠組み
1.7 本ガイドラインは、2000年の第22回協議会議で採択されたもので、しゅんせつ物に特定したものである。これは、1997年の一般ガイドラインに基づき、また1986年の第10回協議会議(決議LC.23(10))採択の「しゅんせつ物の処分に対する附属書の適用に関するガイドライン」に代わる1995年の第18回協議会議(決議LC.52(18))で採択された「しゅんせつ物の評価枠組み」に基づくと同時に置き換えるものである。本ガイドラインの、過去のガイドラインに対する支持は、1997年の一般ガイドラインに対してより厳しい、あるいはより緩い体制を示すものではない。
2.廃棄物防止審査
2.1 しゅんせつ物を対象とした廃棄物管理の目標は、汚染源の特定とコントロールにあるべきである。汚染源評価及びその規制については、以下に従うべきである。
.1 過去及び現在両方の汚染物質の流入の結果として生じている河口域及び沿岸海域の汚染は、しゅんせつ物の管理にあたり継続的な問題を提示している。発生源の特定やさらなる堆積物の汚染の低減及び防止は優先課題とされるべきであり、点発生源及び面発生源ともに対応すべきである。防止戦略を実施し成功させるには、汚染の点発生源及び面発生源の規制を担当する諸機関の協力を必要とする。
.2 発生源規制戦略の策定及び実施に際し、担当機関は次の事項を考慮すべきである。
.1 しゅんせつを継続する必要性
.2 汚染物質によって生じる危険、及びこれらの危険に対する個々の汚染源の寄与度
.3 現存する発生源の規制計画及びその他の法令あるいは法的要求事項
.4 技術的及び経済的な実現可能性
.5 選択された対策による効果の評価
.6 汚染削減対策を実施しない場合の結果
.3 歴史的に汚染が存在したり、規制策が汚染を許容水準まで低減するのに十分効果的でない場合、封じ込めや処理方法を含む処分管理技術が必要とされることがある。
3.処分方法の評価
3.1 物理的、化学的及び生物学的な特性分析の結果は、しゅんせつ物が原則的に海洋処分に適しているかどうかを示すことになる。海洋処分が許容可能な選択枝として確認される場合、それでもなお、資源としてのしゅんせつ物の潜在価値を認識し、有効利用の可能性を検討することは重要である。
有効利用
3.2 しゅんせつ物の物理的及び化学的特性によって、幅広い有効利用の方法がある。一般的に、本ガイドライン第4章に従って特性分析をしておけば、対象物を以下に示す可能な利用方法にあてることに十分である。
.1 工学的利用:土地造成及び改良、養浜、バームの造成、覆土及び埋立
.2 農業及び生産的利用:養殖、建設資材、ライナー材
.3 環境改善:湿地、陸上の生物生息地、鳥類の営巣場所、漁場の修復及び造成
有効利用の技術的側面については、十分に確立されており、既往文献に記されている。
処分方法の選択肢
3.3 しゅんせつ物の特性が処分にあたっての条約の要件に合わない場合、処理または他の管理の選択肢を検討するべきである。その選択肢は、影響をあるレベル、人の健康に受け入れがたい危険とならない、あるいは生物資源に害を及ぼさないレベル、海洋の快適性を損なわない、あるいは正当な海洋利用を妨げないレベル、などまで低減するか制御するために用いられることになる。
3.4 汚染された部分の分離といった処理技術は、しゅんせつ物を有効利用に適したものにすることができるので、海洋処分を選択する前に検討するべきである。処理・処分技術には、しゅんせつ物を海底に置くかあるいは埋めた後に清浄な堆積物により被覆する方法、海水や海底堆積物と混ざり合った場合のしゅんせつ物中の物質の地球化学的作用及び変質の利用、無生物帯のような特別な地点の選択、しゅんせつ物を安定に封じ込める方法などがある。
3.5 廃棄物その他の物を投棄するための許可は、許可発給当局が、人の健康若しくは環境に対する不当な危険または不均衡な費用を伴わずに廃棄物を再利用し、リサイクルしまたは処理するための適当な機会が存在すると判断する場合には、拒否されなければならない。他の処分方法が現実的に可能かどうかについては、投棄と投棄に代わる処分方法の双方のリスクを比較評価し、検討されるべきである。
4.しゅんせつ物の特性分析(*2)
物理的特性分析
4.1 処分する堆積物の物理的特性の評価は、潜在的環境影響や、化学的及び(または)生物学的試験の必要性を決定するために必要である。必要とされる基本的な物理的特性は、対象物の量、粒度分布及び比重である。
詳細な特性分析の免除
4.2 しゅんせつ物が以下に示す基準の一つを満たす場合、4.3項から4.9項で求められている全特性分析は免除されうる。
.1 しゅんせつ物が、現存あるいは過去の汚染発生源から離れた場所で掘削され、そのためしゅんせつ物が汚染されていないという合理的な保証が与えられている場合。または
.2 しゅんせつ物が、主に砂、礫及び(または)岩で構成されている場合。または
.3 しゅんせつ物が、それ以前にかき乱されたことのない地質学的物質で構成されている場合。
これらの基準のうちの一つも満足しないしゅんせつ物は、その潜在的影響を評価するために全ての特性分析が必要となる。
化学的特性分析
4.3 化学的特性分析のための十分な情報は、既存知見から得られる場合がある。そのような場合、類似地点における同様なしゅんせつ物の潜在的影響の新規測定は不要となる場合がある。
4.4 しゅんせつ物の化学的特性分析における追加検討事項は以下のとおりである。
.1 酸化還元状態を含む堆積物の主な地球化学的特性
.2 汚染物質が堆積物に混入する可能性のある経路
.3 過去の堆積物の化学的特性分析から得られたデータ及び同対象物のその他の試験結果から得られるデータ、または近辺の類似物から得られたデータ。ただし、このデータが現在でも信頼に値する場合に限る。
.4 農地や都市からの地表面流出による汚染の可能性
.5 しゅんせつ予定区域からの汚染物質の漏洩
.6 産業系及び都市系廃棄物の排出(過去及び現在)
.7 しゅんせつ物の発生源と従前の利用(例えば養浜)
.8 鉱物その他の天然物質の自然堆積
4.5 しゅんせつ予定地点における堆積物の試料採取は、しゅんせつされる物の性状の鉛直的・水平的な分布と変動を表わすようにするべきである。
4.6 粒度分布、全有機炭素(TOC)及びその他の標準化のための要素などのようなさらなる情報は、化学的試験の結果の解釈に役立つ場合がある。
生物学的特性分析
4.7 投棄されるしゅんせつ物の潜在的影響が化学的、物理的特性分析や入手可能な生物学的情報に基づいて評価できない場合、生物学的試験を実施するべきである。
4.8 投棄される物質の特性や構成について、また海洋生物や人の健康に対する潜在的影響について、十分な科学的根拠が存在するかどうかを確かめる事が重要である。このような意味から、処分する場所に出現することが知られている種に関する情報や、処分される物質とその構成成分の生物体への影響を考慮することが重要である。
4.9 生物学的試験は、適正な感度と代表性があるとみなされる種を組み入れるべきであり、以下の可能性を判定できるように、暴露試験は代表性のある検体に対しておこなわれるべきである。処分地内及びその周辺における、
.1 急性毒性
.2 全生活史にわたる、長期間の亜致死的影響のような慢性毒性
.3 生物蓄積の可能性
.4 着臭(生物汚染・感染)の可能性
4.10 しゅんせつ物が十分に特徴づけられておらず、人の健康及び環境に対する潜在的な影響について適切な検討を行うことができないような場合には、当該しゅんせつ物を投棄することはできない。
(*2) 底質管理に関する望ましい見解はGIPME報告書「底質の評価に関する手引き」に見ることができる。本報告書では、海洋堆積物への人為的影響、またそれに伴う海洋生物や人の健康へのリスクについて評価する各種手段を検討している。底質に係る数値的な基準は、広範囲での適用に向いていないという結論に達した。というのは、現時点では、底質の毒性を確実に予測できる化学的測定手法はないからである。本報告書は、底質の評価のために厳しい枠組みを提供するのではなく、自然状態の堆積物、人為的に撹乱された(例えば汚染された)堆積物及び海洋に悪影響を及ぼす(すなわち汚染源となる)堆積物などの区別に利用できる経験的手法を確認するものである。本報告書はIMOから無料で入手できる。