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1−4.調査研究結果の概要
 調査研究結果の詳細については、次章(2章)に記述するが、成果の主要な箇所をまとめると以下の通りである。
 
(1)底質の評価体系について
 96年議定書の関連文書である「しゅんせつ物の個別評価ガイドライン(しゅんせつ物WAG)」では、物理試験、化学試験、生物試験の順序で評価を実施すべきと述べられている。また、浚渫土砂が汚染されていないという合理的な保証がある場合、砂・礫及び岩で構成されている場合、過去にかき乱されたことのない地質学物質で構成されている場合については、化学的及び生物学的特性分析は免除されるとしている。
 我が国においては、物理試験及び化学試験が順序に関係なく義務付けされており、生物試験は実施されていない。また、いわゆる「スクリーニング」の意識は薄く、砂質土であっても化学試験まで実施している。
 今後、国際的なルール化の動向及び我が国の事業事例を分析し、評価方法、評価体系の検討が必要である。
 
(2)試験方法について
 化学試験において、欧米諸国をはじめとする諸外国では含有量試験を実施しているが、我が国では溶出試験によっている。
 今後、暴露経路を考慮し、各物質・状態に応じた試験方法の検討を行い、試験項目・基準値・試験方法の見直し、実用性・実効性を考慮した評価方法の検討が必要である。
 生物学的特性分析については、96年議定書において「廃棄物とその成分の特性把握で、生物学的特性、生物学的持続性を考慮する」ことを述べており、諸外国においては、バイオアッセイ(毒性試験、生物蓄積試験等)の実施を義務付けている国、試行的に実施し評価の一基準に適用を検討している国がある。これに対し、我が国では生物学的特性把握を実施していないのが一般的である。
 今後、諸外国で行われている生物試験の方法、供試生物、材料、評価方法、様々なレベルでの実施事例、我が国における実態等の情報収集・整理を引続き行うとともに、俊渫土砂を対象としたバイオアッセイの試験的実施を行い、試験方法、評価方法の検討を進める必要がある。
 
(3)基準値について
 諸外国においては、基準値について「上限値」「下限値」を設定する等、複数の基準値を設定し、きめ細かな運用・管理を行っている例が多くみられる。これに対し、我が国では基準値は1つ(その値を超えると「禁止」か「処理」を求められる上限値に近い管理値と解釈できる)である。
 今後、基準値がもつ意味付けを明確にするとともに、複数基準値とした場合のメリット、デメリット等を検討・整理し、全体の評価体系と関係付けて検討を進める必要がある。
 
(4)投棄場所について
 96年議定書の関連文書類において、投棄場所選定に必要な情報として、水質・底質の物理的・化学的・生物学的特性、投入地点の海洋利用等の有価値性、流れの特性、経済性及び作業場としての実現可能性を考慮することを求めている。また、米国においてはデータベースが整備されており、投入場所の状況や過去の投入実績等がインターネットで検索可能となっている。
 我が国においては、水底土砂の判定基準により排出場所が指定され、事業サイドが投棄場所に関する情報を調査するルールとなっていない。環境省、海上保安庁が定期モニタリングにより投棄場所周辺の現況を確認している。
 今後、投棄場所に関する情報の明確化に関し、国際的動向にも考慮して、必要な情報項目、事業者としての役割分担、データの一元管理や公開等について検討を行う必要がある。
 
(5)モニタリングについて
 96年議定書の関連文書類において、浚渫物の海洋投入処分の潜在的影響を検討するために、影響仮説を設定し処分選択肢の可否、モニタリング要件の決定を行うべきことを述べている。事前評価は、廃棄物の特性、処分地点の特性、処分技術を総合し、人の健康、生物資源、海洋の健全性、海洋利用への影響を明記し、影響の性質、時間的・空間的規模を明確にすることを要求している。また、モニタリングについては、許可を受ける際に約束した条件が実施において守られているかをチェックするための「適合モニタリング」及び投入地点選定過程の仮説が正しくかつ人の健康保護に十分であることを証明するための「現場モニタリング」の双方を実施すること、及び、モニタリング計画には明確な目標を設定し、測定結果を目的に照らし評価しフィードバックが働くようにすることが求められている。
 我が国においては、環境アセスメントを義務付けられたプロジェクトについては事前に環境影響を予測評価しているが、浚渫土砂の海洋投入処分の申請時に影響仮説を記載する義務は付されていない。また、モニタリングについては、浚渫土砂に関し「適合モニタリング」は実施されていない。「現場モニタリング」についても、基準に適合した土砂を許可された地点に投棄することとなっており、モニタリングの義務付けはない。ただし、環境省、海上保安庁が投棄場所全般の環境変化を調査しており、これが現場モニタリングと解釈できる。
 今後、浚渫土砂の海洋投入処分に関し全体の評価体系を考えていく中で、影響シナリオに基づく潜在的影響をどの程度まで求められるのか、影響シナリオを考慮した評価方法の仕組み、適合モニタリング及び現場モニタリングのあり方及び実施方法(実施主体、費用負担方法等を含む)等について検討を進める必要がある。
 








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