5.5 責任、権限及びコミュニケーション
5.5 責任、権限及びコミュニケーション
5.5.1 責任及び権限
トップマネジメントは、責任及び権限が定められ、組織全体に周知されていることを確実にすること。
5.5.2 管理責任者
トップマネジメントは、管理層の中から管理責任者を任命すること。管理責任者は与えられている他の責任とかかわりなく次に示す責任及び権限をもつこと。
a)品質マネジメントシステムに必要なプロセスの確立、実施及び維持を確実にする。
b)品質マネジメントシステムの実施状況及び改善の必要性の有無についてトップマネジメントに報告する。
c)組織全体にわたって、顧客要求事項に対する認識を高めることを確実にする。
参考1. |
管理責任者の責任には、品質マネジメントシステムに関する事項について外部と連絡をとることも含めることができる。 |
2. |
管理責任者は、上記の責任及び権限をもつ限り、一人である必要はない。 |
5.5.3 内部コミュニケーション
トップマネジメントは、組織内にコミュニケーションのための適切なプロセスが確立されることを確実にすること。また、品質マネジメントシステムの有効性に関しての情報交換が行われることを確実にすること。
アンケート結果
◇責任権限の規定とその遵守
運用している67.6% 制度が無い32.4% 回答数398事業所 (回答率77.7%)
今回のアンケートにおける具体的制度に関する設問の中で、一番制度があり運用されている内容である。企業内における役割分担の明確化は、硬直的な運用さえ避けているならば、かなり好ましい結果であると言える。
解説
5.5.1 責任及び権限
(1)「責任」と「権限」との関係においてまず、「権限」は「責任」の枠内にあり、従属関係にあると言える。
(2)「責任」は、責任者が与えた「権限」の“執行結果”に対する「結果責任」が主体であるといえる。また、その派型として「説明責任」が外部に対してあると考えられるだろう。また、「責任」を取る者において、後述する「権限」(実行/検証)を与える者に対する「人事」権限が存在しなければ、現実的ではないだろう。このことを捉えるならば、当該業務の実行者等に対する人事権を有する者が、その責任者であると認定できると言える。
(3)「責任」を取る者は、できる限り一人の人物に専任するのが好ましい。責任を分散させることの弊害は、社会心理学の実験結果や歴史的な史実から実証されているといっても過言ではなく、組織機能が円滑に効果的に運用されるには必要な行為ではないだろうか?
(4)「権限」に関しては、よく細目を規定してしまうことが多いが、細目を規定した場合、そのすべてを網羅し論理的矛盾も生じさせないような事例は皆無に等しいのではないか。その結果、権限行為において、漏れや抜けもしくは形態の差異を考慮しない規定が発生してしまう。これは認証では“不適合”事項として規格に適合していない内容と判断されてしまう。
(5)上記(4)への対処としては、例えば「見積り作成の権限・発注書のレビューの権限…」といったような、具体的かつ範囲が限定された規定ではなく、「契約作成及びレビューの権限」といったように“枠組み”を提示することで解消すると言える。但し、この際にも、権限内容の重複や論理的矛盾は発生する可能性はあるので注意する必要がある。
(6)「責任」と「権限」は、業務に関係して、以下体系にさらに区分され運用されるのが普通である。
(7)上記の図は、「責任」「権限」が、業務運用上の行為によって分散され、その行為者も異なることを示したものであるが、それをより体系化したものを、以下に記載する。尚、各業務に応分して確実に設定し文書化する。
  |
責任 |
権限 |
管理 |
[1](管理行為結果に対する)、「結果責任」 [2](実行者/検証者に対する)「管理監督責任」 |
[1](実行者/検証者に対する)「指揮・命令権」 ([2]実行/検証者に対する「人事権」) |
実行 |
[1](管理行為に対する)「執行責任」 |
[1](管理行為に対する)「執行権限」 |
検証 |
[1](管理行為結果に対する)「検証執行責任」 |
[1](管理行為結果に対する)「検証執行権限」 |
(8)経営者は、上記「責任」「権限」を設定し文書化することと、組織内の各要員にまで“周知”させることを確実に行うことが規格では要求されている。特に周知の確実化ということは、各要員個人個人が、自らの「責任」「権限」を理解認識し、もし認証に際して審査員から問われた場合には、説明ができなければならない。
5.5.2 管理責任者
(1)「管理責任者」は組織内の“管理層”の中から“任命”されることが想定されており、このことは選任された場合には、「任命書」を発行するなどの処置が必要となる。
(2)管理責任者の執行責任に関して、「与えられている他の責任とかかわりなく」という規定があるが、これは、例えば、あるメーカーで“製造部長”が製品の「品質責任」と「コスト責任」を同時に負わされていると仮定してみると認識しやすい。もし、発見される可能性は少ないが対策にかなりのコスト増が確実な「品質問題」が発生した場合には、この部長は、自らの人事評価も考えた上でどのような行動に出るだろうか?多くの場合、コスト責任を尊重させた解決を行うであろう。何よりも現場の人事評価制度の多くはコスト責任が重視されるのではないであろうか。制度が変更されない限り、現場の関係者に関して同一人物が評価の優先順位が低いことを行うことを強制しても、それ自体が無理なことはよく分かるであろう。
つまり、現場のこのような責任を負わされていない人物を、管理責任者として選任することが望ましいと言及しているのである。但し、人材面で兼務をせざるを得ない場合には、誓約書等しかるべき措置を講ずる必要がある。
(3)管理責任者の執行内容に関して、規格ではいくつか設定されているが、これは“QMS運用上の実質的な「執行責任者」”であるといえ、経営者との関係においては従属関係にあり、状況や結果に関する報告義務を負う。また対外的には“外部連絡の執行責任者”としての役目をもつ。
5.5.3 内部コミュニケーション
(1)組織及び個人間の情報伝達に関して要求しているが、品質マネジメントシステムの対外的な表明方法として、「文書」及び「記録」を介在させて、情報伝達を行うのが妥当であると想定できよう。
(2)これらの表明の仕方としては、異なる組織・個人との間において行われる「文書」「記録」のやり取りの枠組みを提示する形が好ましいのではないだろうか。