第8章 係留部の設計
8.1 係留外力
係留外力としては次のものを参考に、必要に応じて考慮する。
(1) 船舶の接岸力
(2) 波力
(3) 風荷重
(4) 潮流力
(5) その他
【解説】
係留外力は防舷材の配置、規模と関連する。
(1) 防舷材の配置は、利用用途に配慮して決定する
a) 船舶諸元
b) 防舷材の選定(1/4接岸の例)
接岸エネルギー(Ef)は「港湾の施設の技術上の基準・同解説」2.2.2p49に従い算出する。
Ef=(Ms・V2/2)Ce・Cm・Cs・Cc
Ms: |
船舶の質量Ms=Ws/9.8 |
V: |
接岸速度(m/s) |
Ce: |
偏心係数
Ce=1/(1+(1/r)^2) |
1: |
係船施設に平行に測った接触点から船舶重心までの距離
1/4接岸より1=L/4 |
r: |
水平面で船舶の重心を通る鉛直軸周りの回転半径
r=L/4 |
Cb: |
ブロック係数
Cb=Ws/(L・B・d・wd) |
Ws: |
満載排水トン数「港湾技研資料No.348」P−39より
D.T(Ws)=1.215G.T^0.992(旅客船) |
Cm: |
仮想質量係数
Cm=1+π/(2×Cb)×d/B |
Cs: |
柔軟性係数Cs=1.0 |
Cc: |
バースの形状係数Cc=1.0 |
接岸エネルギーに対して吸収エネルギーの性能公差を考慮して、10%の余裕を持つ防舷材を選定する。
c) 防舷材の取付方向、取付位置の検討
d) 接岸速度(V)
接岸状況等を考慮し、適切に検討する。
(2) 波力(参考)
波力の算定は一般的に下記の2つの方法がよく用いられる。ただし、場合によっては実験値や解析値を用いることができる。
〈合田波圧〉
揚圧力は、浮体前端でP3、後端でゼロとなる三角形分布とする。ただし、浮体幅BがL/4(Lは波長)よりも大きい場合には、幅L/4の三角形分布とする。
η*=0.75(1+cosβ)H |
P1=0.5(1+cosβ)α1ω0H |
P3α3P1 |
波の入射角βの取り方
ここに、
H: |
波高 |
h: |
水深 |
ω0: |
海水の単位体積重量 |
β: |
浮体法線の垂線と波の主方向から15°の範囲で最も危険な方向となす角度(上図参照) |
出典:浮体構造物技術マニュアル
〈入出波高差による波圧〉
波長が、波進行方向の浮体長の2倍の時、最大波力を与えることになり、下図の状態を考えると波力Pは次式により求められる。
P=1/2×ω0×B×((d+H/2)2−(d−H/2)2)=ω0×B×H×d
ここに、
ω0: |
海水の単位体積重量(=10.1kN/m3) |
B: |
波向きに直角な面の長さ(m) |
H: |
波高(m) |
d: |
浮体の吃水(m) |
ただし、係留船の影響を考慮する場合は、投影面積の増加分を付加する。
出典:港湾施設の技術上の基準・同解説
(3) 風荷重:Fa
ここに、
CD: |
浮体海面上部の抗力係数 |
A: |
浮体上部の風の方向への投影面積(m2) |
Wa: |
空気の単位体積重量(=10.8×10−3kN/m3) |
Va: |
設計風速(m/sec)(ガスト率1.3を考慮する) |
g: |
重力の加速度(=9.8m/sec2) |
ただし、係留船の影響を考慮する場合は、投影面積の増加分を原則として付加する。
出典:港湾施設の技術上の基準・同解説
(4) 流れによる潮流力:FD
潮流がある場合は次式が参考となる。
ここに、
CD: |
浮体海面下部の抗力係数 |
A: |
浮体下部潮流方向への投影面積(m2) |
w0: |
海水の単位体積重量(=10.1kN/m3) |
g: |
重力の加速度(=9.8m/sec2) |
VD: |
潮流 |
出典:港湾施設の技術上の基準・同解説
(5)その他
船舶のけん引力は、原則として考慮しなくてもよいものとする。
8.2 係留部の設計
(1) 係留の選定
2.5.1項により、浮体の立地に即した係留を選定する。
(2) 外力
8.1項の外力を考慮する。 但し、浮体設置場所における岸壁の反射波等で波力の増大を招く恐れのある時は、適宜検討の上これを考慮するものとする。
(3) 荷重の組合せ
a. 船舶の接岸力+潮流力
b. 暴風時風荷重+波力+潮流力 など
【解説】
(1)について
(a) 浮体の設計にあたっては、利用時の安全性及び円滑な利用に対する検討と異常時の浮体及び係留施設の安全性に対する検討として動揺計算を実施することが望ましい。
利用時の安全性に対する検討とは、浮体式係船岸の場合には荷役・旅客乗降時の浮体の動揺等に対する安全性の検討であり、常時の利用限界の検討を行うものである。
なお、レストランなどの施設の場合には、稼働率の指標として利用者の快適性からみた利用限界に対する検討も必要な場合がある。浮体及び係留施設の安全性に対する検討とは、暴風、地震、津波などの異常時の条件下での施設の安全限界の検討である。したがって、それぞれの検討における設計条件の設定が異なることに注意が必要である。
係留設計についての参考フローをチェーン係留を例にとり図解−8.1に示す。
(b) 水槽試験結果では、入射波45°で反射波が重畳し、壁影響による係留力は20%増大する結果が得られた。このため、浮体構造物の設置海域の特性から浮体への反射波影響が懸念される場合には、外力の割り増し等を含め適切に影響を考慮する必要がある。
出典:浮体構造物技術マニュアル
杭係留の場合には、チェーン張力特性のかわりに係留フェンダーの特性を考慮して計算を行う。但し、比較的静穏な海域で、浮体構造物等の実績が多い地域では、8.1項の解説に示す定常的な外力で設計を行ってもよいこととする。 |
図解−8.1
(c) チェーン係留
動揺計算により、チェーン張力、チェーン径を決定することが望ましいが、比較的静穏な海域では、下記による簡易式が参考にできる。(港湾施設の基準上の基準・同解説平成11年下巻pP778)
H.W.L
チェーンの単位長さ当りの水中重量をwとする
h : ポンツーン底面から海面までの距離
l : 係留チェーンの長さ(m)(5H程度)
p : 水平外力(kN)
w : チェーンの単位長さ当たりの水中重量(kN/m)
とおけば上式は以下のように表すことができる。この方程式を解けばθ1を求めることができ、θ2も求められる。
チェーン長さ: |
5×水深(H) |
水平最大外力: |
外力の最大値 |
チェーン呼び径: |
安全率3を見込みチェーン1本でもてる径とする。 |
8.3 連絡橋の設計
下記基準等が参照できる。
人道橋: |
立体横断施設技術基準・同解説 |
車道: |
道路橋示方書・同解説平成8年12月 |
8.4 支承部の設計
(1) 岸壁に設置される支承は、連絡橋から受ける荷重を確実に下部構造に伝達し、水平力などに対して所定の強度を有するように設計されなければならない。なお、設計に際しては、次の基準等技術資料が参照できる。
a. 道路橋示方書・同解説(日本道路協会) 平成8年12月
b. 道路橋支承便覧(日本道路協会) 平成3年7月
(2) 支承は、上揚力に対しても検討されなければならない。
【解説】
(1) 支承部の構造は、潮位差による連絡橋の回転と、浮体の横移動に伴う連絡橋の水平方向の回転に対して自由度をもち、かつ浮体の動揺に伴う橋体のねじれに対して十分な強度を有さなければならない。
(2) 地震時の部材強度の検討については、許容応力度を5割増しすることができる。
(3) 支承に作用する上揚力が明確でない場合は、連絡橋自重の10%を採用して良いものとする。
(4) 連絡橋の荷重を受ける岸壁の安定計算等は、必要に応じて別途検討する。