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5.交通日誌
5.1グループ別交通分担率変化
 カーシェアリング導入前からカーシェアリング終了後までの4回に渡る交通日誌の結果による各グループ別の交通分担率を図5.1に示す。また、Aグループに関しては、サンプル数が極端に少なく、全期間を通してカーシェアリングの利用がまったく見られなかったため、除いて検討することとした。
 導入前は、Bグループでは自動車の移動が多く、Cグループではバス・鉄道の公共交通が多い。Bグループの公共交通に対する意識の低さが覗える。
 Cグループでは、導入直後から積極的にカーシェアリングの利用が見られたが、自動車利用の割合は変わらず、自転車利用やその他の交通手段からの転換がやや多かった。Bグループではカーシェアリングの利用はまだ見られていない。
 導入してしばらくすると、Cグループでのカーシェアリング利用がやや落ち着いてきた。Bグループでは、この交通日誌実施期間では依然カーシェアリングが見られない結果となったが、実際には月に2回程度の利用が見られている。
 カーシェアリングが終了すると、Cグループでは公共交通に対する割合が、導入前に比べ増加したが、自動車の移動にはあまり変化は見られなかった。Bグループでは自動車の割合が増加する結果となった。
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図5.1グループ別交通分担率変化
 
5.2目的別交通分担率変化
 カーシェアリング導入前からカーシェアリング終了後までの4回に渡る交通日誌の結果による各グループ別の交通分担率を図5.2に示す。
 導入直後は、買い物や送迎といった、手軽な移動についてのカーシェアリング利用が多く見られたが、導入後しばらくすると、レジャー目的でのやや大きめの移動にもカーシェアリングの利用が見られ始めた。カーシェアリング終了後は、導入前とあまり変化は見られないが、自転車の割合が減り、自動車と公共交通が若干増加する結果となった。
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図5.2目的別交通分担率変化
6.考察
6.1移動回数と走行距離
 交通日誌による実験前後・実験中の1週間あたり自動車(カーシェアリング含む)移動回数と、推定走行距離の比較を表6.1に示す。
表6.1移動回数と推定距離
  Cグループ 全会員
CS実施前後 CS実施中 CS実施前後 CS実施中
移動回数
(移動回数/人・週)
自動車 1.64 0.96 2.58 1.87
CS 0.00 0.89 0.00 0.66
合計 1.64 1.86 2.58 2.53
走行距離
(km/人・週)
自動車 98 58 154 111
CS 0 19 1 14
合計 98 77 154 126
 
 全会員の自動車+CSの移動回数はあまり変化していないが、Cグループに限ってみると自動車移動回数は約4割減少したが、カーシェアリングによる自動車利用とあわせると、合計移動回数は若干の増加となっている。一方で、1週間あたりの推定走行距離は21km(22%)減少している。これはカーシェアリングの場合、料金を意識して利用するため、必要な場合にだけ(特に中距離10〜20km)利用し、無駄な自動車移動を控えていることによるものと思われる。
 三鷹地区の平均的な年間自動車走行距離は8000km(1ヵ月あたり670km)であるが、今回のCS社会実験ではカーシェアリング利用者の平均的利用距離は1ヵ月あたり71.2km、最も利用の多かった人で約200kmと、走行距離は自家用車の1〜3割と非常に少なくなっていた。また、「いずれ自動車を持ちたいと考えているが、カーシェアリングが実現すれば参加する」意志のある会員の場合は1ヵ月あたり102kmと、やや積極的に利用していた。
 いずれにせよ、多少の利用頻度などに相違はあるものの、カーシェアリング参加者の走行距離は、マイカー保有者に比べ、少ない傾向にあることが分かった。
 
6.2最終アンケートの結果
 実験終了後に行った、実験協力者に対するアンケート結果を整理する。
 カーシェアリングを利用した感想としては、ほぼ便利という結果であり、また、カーシェアリングの便利な点については理解が得られていた。
 今後のカーシェアリングヘの参加の意向を見ると、A、Bグループでは、料金を検討してから、参加しないという意見が多く、まだまだ、自動車の所有の意識の高さが伺える。しかし、セカンドカーとしての可能性は50%の方があると回答している。
 今後カーシェアリングが実施された場合、Cグループについては回答者(14人)全員が参加すると回答しており、このうち6名がいずれ自動車を購入したいという方であることから、今後の自動車抑制、また、カーシェアリングの普及の可能性を示す結果となった。
 カーシェアリングを事業化していくにあたっては、ICカード導入など管理体制の強化と目的地などに駐車場を確保するなど駐車場のネットワーク化を望んでいることが分かった。
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図6.2.1カーシェアリングを利用した感想
 
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図6.2.2カーシェアリングの便利な点
 
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図6.2.3車非保有者のマイカー保有意志
 
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図6.2.4カーシェアリングに求められる点
 
 アンケート結果より、カーシェアリングの料金を求めると以下のようになる。
  入会保証金:23000円 年会費:9500円
  時間料金:240円/時間 距離料金:21円/km
 
6.3車両1台あたりの会員数の検討
 今回の実験では、未利用の会員を除外して考えると、最終的に20名の会員で自動車2台を利用したという結果であった。この20名という会員で検討してみると、2台同時に稼動している時間が、平日0.1%、休日4.4%、全体で1.6%であったため、1台あたり20名の会員で運行が可能である。実際、事業化したことを考慮すると、稼動率の上昇が予想されるため、1台あたり20名が妥当な会員数であると判断できる。

  10/20〜11/19
会員数 10
時間(h)
11/20〜12/19
会員数 15
時間(h)
12/20〜1/19
会員数 11
時間(h)
全期間合計
会員数 20s
時間(h)
適正会員数
合計 1台稼働 42(5.6%) 98(13.6%) 90.5(12.2%) 230.5(10.4%)  
2台稼働(1台では不足) 7(0.9%) 2.5(0.3%) 25.5(3.4%) 35(1.6%) 20
平日 1台稼働 11.5(2.3%) 50(9.9%) 3.5(8.7%) 101(6.9%) 0
2台稼働(1台では不足) 2(0.4%) 0(0%) 0(0%) 2(0.1%) 20
休日 1台稼働 30.5(12.7%) 48(22.2%) 51(17.7%) 129.5(17.4%) 0
2台稼働(1台では不足) 5(2.1%) 2.5(1.2%) 25.5(8.9%) 33(4.4%) 20
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図6.3.1平日運行状況
 
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図6.3.2休日運行状況
 
6.4マンション運営型でのシミュレーション
 今回の社会実験と同様に、数台(ここでは1台)の車両によるカーシェアリングの事業化について検討する。マンションにカーシェアリングシステムを導入するという形態で、運営主体をマンション管理者ということで仮定した。そこで、人件費については、マンションの管理人が運営にあたるということで除いて考えた。
 実際の実験データから得られた結果により、会員数、会員一人あたりの利用時間、利用距離を以下ように仮定した。利用料金については、6.2の値を用いた。
会員数(人/台) 20
走行距離(km/人・月) 71.2
利用料金(時間/人・月) 5.7
 
 (会員一人あたりの一ヶ月利用料金) 71.2×21+5.7×240=2861(円/人・月)
表6.2.シミュレーション結果
    年間収入
月会費 1850 (円/月) 444000
年会費 9500 (円/年) 190000
利用料金 2861 (円/人・月) 686640
収入合計   1320640
    年間支出
駐車場料金 20000 (円/月) 240000
リース 34020 (円/年) 408240
維持費 20000 (円/月) 240000
保険料 75000 (円/年) 75000
燃料費 7.6 (円/km) 129869
雑費 10000 (円/月) 120000
支出合計   1213109
 
 以上より、マンションにカーシェアリングを1台導入する場合のシュミレーションを行ったが、結果的に、人件費を除いて考えると、年間約10万円の黒字が見込めることが分かった。この他、一人あたり、23000円の保証金による収入が46万円であることを考慮すると、マンションの管理者が運営主体となる小規模カーシェアリングの事業化の可能性はあるということがいえる。
7.まとめと今後の課題
 本調査では、賃貸マンションを対象に、敷地内に駐車場を確保し、カーシェアリングの稼動状況などについての調査を行った。その結果をまとめると以下のようになる。
・ 駐車場に空きのある集合住宅においても、自動車の維持費が高い、利用頻度が少ないなどの理由でマイカーを保有していない住民が存在し、ある程度カーシェアリングヘの需要は見込める。
・ カーシェアリングに参加した実験協力者の走行距離は、マイカー保有者に比べ少ない。また、これからマイカーの購入を考えている実験協力者もこのシステムがあるなら、購入を控えて参加するという意向を示しており、環境への配慮、都市空間の節約という効果を期待できる結果が得られた。
・ マンションの管理者を運営主体とするタイプの事業性を検討した結果、小規模でのマンション付帯サービスとしてのカーシェアリングの可能性を示すことができた。しかし、人件費について、さらなる考察が必要で、マンション管理費に組み込むなど、住民の公平性の観点からさらなる検討が必要である。
 今後は、平日と休日、また時間帯により利用状況の偏りがあるため、その是正のために、曜日、時間帯によりいくつかの料金プランの設定を検討する必要があるものと考えられる。また、さらなるカーシェアリングの利用促進のためには、駐車場のネットワーク化とICカードなどによる管理体制強化が望まれており、それらについても考察していくことが重要である。
 
(注)資料4は早稲田大学理工学部交通計画研究室作成の報告書(96ページ)の要約版である。








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