IV.カーシェアリングの効果等
一般にカーシェアリングの効果として、以下のことが期待されている。
個人として、 |
・経済的な車の利用とモビリティの増大 |
社会として、 |
・都市空間や建築空間の浪費を節減し、 |
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・社会全体で必要な車の台数も削減でき、 |
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・交通渋滞等の減少が期待される。 |
今回の2つの実験を通して得られた情報の中から、特に実験規模、利用データの安定性、データ量を考慮し、主に王子で得られた数値を用いて、社会的効果等について考察していきたい。
[1]カーシェアリングの需要
実験終了後のアンケートによれば、将来カーシェアリングが事業化された場合、王子、三鷹ともマイカー所有者で車を手放さないという人も若干名いるが、大多数がカーシェアリングヘの参加は条件次第としている。ただし、セカンドカーとしての利用の可能性も高い。一方、現在車を持っていない人々のカーシェアリングヘの期待は非常に高く、マイカー購入希望者のほとんどの人々を吸収することができる。実験に参加した人々にはカーシェアリングは十分受け入れられたと考えることができる。
実験では、必ずしも十分な利用があったとはいえないが、月10回以上利用している人も王子、三鷹双方にいる。こうした人々が主要な会員として参加してくれれば、今回の実験の利用実態の数倍の利用度になるものと考えられる。広いエリアの中で、そうした層の人々がどの程度存在し、参加するか予測できるようになるためには、さらなるデータ収集が必要である。
一方、王子の例では320世帯のうち実際に利用したのが29世帯であったことから、1割の世帯が会員になると想定した数字は、これまでの検討で用いてきた数字に相当し、さらに事業性を高める方策もあるため、需要の問題は少ないと考える。
カーシェアリングの需要(会員数の確保)への危惧は認められなかった。
[2]車の絶対量の削減と抑制効果…特に都市空間
実験では、43人の会員に対して4台の自動車を確保したが、実際には34人の利用があり、実験期間の総時間(4台分7968時間)に対して実際の利用時間(834時間46分)は10.5%に過ぎなかった。ピーク時には多少利用できないこともある条件での運営では3台で十分な利用であった。
カーシェアリングの普及効果を都市空間の有効利用面から考える。
本実験からカーシェアリングの車1台当たりの適正会員数は、実利用ベースで11.3人と推定された。カーシェアリングが普及する時、11台のマイカーが1台のカーシェアリングの車で代替されるとすると、概ね10台分の駐車場が節約される。これを平面駐車場の面積と仮定すると200〜300m2の面積が節約されることになり、この分を他の用途に転換できる計算になる。
さらにこの土地が、容積率400〜600%の地区であるとすれば、800〜1800m2の床面積の建物を建設することができる計算になる。これは、住宅で例えるとファミリー用マンション8〜18戸に相当する。
カーシェアリング加入者全員がマイカー所有者であるとは限らないが、カーシェアリングの車1台が住宅およそ10戸に相当するという言い方も根拠がないわけでもない。
従って、カーシェアリングの車を1台確保すると、住宅およそ10戸分の空間を創り出す可能性があるといえる。
[3]車走行量の抑制
交通日誌によれば、実験前と実験終了後の自動車利用の分担率(移動回数ベース)は15%であるのに対して、実験中は10%と顕著に減っている。
実験終了後のアンケートでは、車の利用を控えているという意識は少なかったにもかかわらず、現実には有料による利用抑制効果は十分あった。利用費用の顕在化による利用の抑制効果は相当大きいものと期待される。
・ Aグループ(車所有者)についての走行距離の減少
アンケートによると、Aグループの人々は、車の走行距離は年間平均5000km以上と回答している。また、新車購入しているAグループの人々の利用実績から自分の車の月当たりの走行距離を算出すると259.6kmとなる。一方、新車購入しているAグループの実験期間中のカーシェアリング利用は1ケ月34kmと、一人当たり月226kmも減少した。(三鷹では、1カ月当たりの平均走行距離は670kmであるが、カーシェアリング協力者の平均走行距離は71.2kmと同様に大幅に減少している。)これは極端な数字としても、交通日誌からAグループ(車所有者)の車による移動回数を見ると実験前の7.9回/週から実験中は2.6回/週へと約7割減少している。
(ちなみに、スイスにおけるカーシェアリングの調査では、従前に車を所有していた人が、車を処分しカーシェアリング参加によって、車の使用量が、年平均約9,300kmから2,600kmへと72%近く減少していると報告されている。)
(出所:太田勝敏“マイカーに代わる新しい交通手段―カーシェアリングの意義―”,交通工学2001年3月号,Vol.36,No.2)
Aグループの実験協力者はいずれも普段、通勤にマイカーを使用していない。また日々のマイカー利用については、一人が短距離の送迎に利用している以外は休日の買い物、レジャーが主のため、実験中は車の利用が極端に減少したものと判断される。
Aグループの平均走行距離、一人当たり月32kmという数字は、短期間の実験であったため、多少我慢して利用を抑えていたと考えても、またさらに、この期間は盆や正月等の長期の休暇がなく、帰省等長距離の旅行の機会はたまたま少ない期間であったとしても、カーシェアリングの普及により、マイカー所有者からの転換があると車の利用は減り、交通量は大幅に減ることが示されている。
■アンケートによるAグループの走行距離推定とカーシェアリング実利用走行距離比較
マイカーのこれまでの走行距離(km) |
実験期間中のカーシェアリング利用距離 |
通算走行距離 |
新車購入年月日 |
使用月数 |
月平均走行距離 |
9月期 |
10月期 |
11月期 |
3ヵ月計 |
1ヵ月平均 |
39,433 |
平成1年11月 |
142ヵ月 |
277.7 |
0.0 |
39.0 |
81.0 |
120.0 |
40.0 |
1,065 |
平成9年1月 |
56ヵ月 |
19.0 |
26.0 |
10.0 |
41.0 |
77.0 |
283 |
27,010 |
平成4年11月 |
106ヵ月 |
254.8 |
53.0 |
61.0 |
6.0 |
120.0 |
45.4 |
60,000 |
平成2年12月 |
128ヵ月 |
468.8 |
45.0 |
0.0 |
0.0 |
45.0 |
19.6 |
32,141 |
平成3年8月 |
120ヵ月 |
267.8 |
10.0 |
30.0 |
29.0 |
69.0 |
24.0 |
30,009 |
平成2年10月 |
130ヵ月 |
230.8 |
16.0 |
12.0 |
44.0 |
72.0 |
25.6 |
43,000 |
平成1年9月 |
144ヵ月 |
298.6 |
0.0 |
47.0 |
101.0 |
148.0 |
49.3 |
実験開始前平均 259.6km |
21.4 |
28.4 |
43.1 |
93.0 |
34.0km |
注)9月期利用距離実数は23日間の数字、平均値は30日換算した。
・ B、Cグループについて交通量の増大
一方、セカンドカー的に使うBグループ、現在車を所有していないCグループが、カーシェアリング普及による交通量の増大に関わる人々である。Bグループは月平均43km、Cグループは月平均98kmカーシェアリングを利用している。そのうち、極端に利用している2人を除く14人の実利用者の平均利用距離は、70kmほどになる。(三鷹ではいずれマイカーを持ちたいが、カーシェアリングがあれば参加する人々のカーシェアリング利用は月平均102kmであり、積極的に利用している。)この点からは、車を持っていない人がカーシェアリングに参加すると交通量が増大することは否めない。しかし、今回の実験の特殊条件として、これまで車を所有していなかった人たちが、カーシェアリングの導入の機会を利用して積極的な利用を集中して図ったと考えられること、比較的安価な利用料金であったため、本来の利用以上に距離を伸ばしていると考えられることなどがある。
逆に言えば、これまで車を使うことがなくても生活に支障をきたさなかった人々が、カーシェアリング実験に参加することで、多様に行動範囲を広げることができたことから、カーシェアリングでかなえることができたモビリティを提供するような都市交通手段が不足していることが示されているといえないだろうか。
○交通量の増減の推定について
これまで、スイスやオーストリアでの経験ではカーシェアリングの普及が総体としての交通量削減の効果をもたらすとの報告もあるようだが、これは、都市形態、公共交通サービスの環境、車の維持費用等様々な要素が複合的に影響し、マイカーの利用とカーシェアリングの利用のバランスの上での総体としての結果である。今回の実験データやアンケートの回答のみから、日本におけるカーシェアリング普及による交通量の増減効果を推測することは難しいが、ここでは今回の実験結果を基に考えてみる。
・ マイカーからの転換による交通量の減少効果
マイカー所有者がどの程度の割合でカーシェアリングに転換するかについては予測できないが、マイカーからカーシェアリングに転換すると一人当たり200km程度の自動車の走行量の減少あるいは、車での移動回数の7割減少という数字が実験から読みとれた。
アンケートでは、マイカーを手放さないと言う人は5%弱にすぎず、本当にカーシェアリングに移行するかどうかは条件次第と答えているので、どんな条件でカーシェアリングを運営できるかが重要になる。
・ カーシェアリングの普及(セカンドカー利用、新たに車を使う人々)による交通量の増大
実験によれば、Bグループのセカンドカー利用者の、月平均走行距離が43kmであり(ファーストカーの利用に変化がないとすれば)これがそのまま一人当たりの月間利用量の増大となる。また、新規の利用者は一人当たり月に98km利用が増大する。しかし、マイカー1台約260kmの走行はカーシェアリング利用者2.5〜6人分の走行距離に匹敵するので、マイカー所有者とマイカー購入予備軍がカーシェアリングに移行することの効果は非常に大きい。
一方、アンケートでは、現在マイカーを所有していないCグループの人々のうち、80%以上がカーシェアリングの具体的条件を示さずともマイカーを持たずにカーシェアリングを利用すると答えている。
〈参考〉実験実施前と、実施期間中の走行距離の比較
(拡大画面: 30 KB)
注)実験開始前の走行距離は、Aグループは新車購入した人のこれまでの走行距離の平均値。B,Cグループは、第1回アンケート時の回答の平均値。
実験期間中は、各グループのカーシェアリング実利用走行距離の平均値。
以上から、全体の走行距離の増減を具体的に計算することはできないが、本実験の結以上から、全体の走行距離の増減を具体的に計算することはできないが、本実験の結果から推測すると、カーシェアリングの普及により交通量減少の方が上まわりそうなのは明らかである。
[4]車利用のコストの抑制…新しい都市交通サービスの提供
マイカーを持たなければ交通手段として優れた車の利便性を享受できなかった人々も、カーシェアリングヘの参加により、必要なときに経済的に、しかも、環境や都市に対して大きな負荷をもたらすことなく、便利で他に代えがたい個人交通手段である車を使えるようになるメリットは大きい。
マイカーを持たなくても、マイカーよりも経済的で個人的移動の自由度の高い交通手段が増えることは、個人にとって豊かな都市生活を営む上で好ましいことである。マイカーを持っていないCグループのカーシェアリングの利用が大きいのは、車に代わる他の交通手段が提供されていなかったことが示された結果と考えることができ、また、カーシェアリングあるいは他の中間モードの交通手段への潜在的需要の存在と考えることもでき、重要な示唆と受け取りたい。
カーシェアリングやパブリックカー等の車の共同利用の普及促進、公共交通の利便性の向上、中間モードの交通手段を支援する施策、都市整備が必要と考えられる。