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III.事業採算性の検討
カーシェアリングが社会的に広く普及するには、事業としての採算性の確保が課題になる。ここでは、昨年度の検討を踏まえつつ、今回のモデル実験およびアンケートの結果を加味して新たに事業採算性のシミュレーションを行う。
1.シミュレーションに当たっての前提条件
[1]利用料金
利用者の意向を尊重すべく、アンケートによって適正料金と回答された水準を今回のシミュレーションの利用料金に設定した。
1) 入会保証金
会員の過失に起因する事業者のリスク回避のためのデポジットであり、退会時には返金するものである。25,000円。(アンケートによると27,000円)
2) 年会費
利用にかかわらない固定収入となることから、固定費に充当することが望ましいものであるが、幽霊会員を抑制する効果も期待される。15,000円/年。(アンケートによると17,000円/年)
3) 時間料金
車両の占有時間に対する料金で、不必要な利用を回避し、多くの利用を促進する効果が期待される。300円/時。
4) 距離料金
走行距離に対する料金で、車両の消耗、ガソリン代等に充てることが望ましいものである。無駄なトリップを抑制し、交通量の削減効果が期待される。35円/km。
[2]車両の使用状況
1) 使用時間・走行距離
啓蒙・普及活動を行い、利用促進、効率化を図ることによって、平日、土日祝日とも、実験において最も稼働率の高かった1号車の土日祝日の実績である7時間/日、60km/日と想定する。これは、日中の時間帯だけで考えた場合には、平日もほぼフル稼働しないと達成できない水準である。
2) 使用車両及び台数
使用車両については、コストを低く抑えるために小型車を想定。台数については、上記の車両稼働状況を実現するために実験より少なくし、会員50人に対して3台、会員100人以上は規模拡大に伴う効率性の向上を考慮して会員25人に1台と想定する。土日祝日のオーバーブッキングが発生し、調整が必要となることが予想される水準である。
3) 想定地区
以上の料金水準、車両の使用状況を満たす地区としては、都心および都心周辺が想定される。
[3]ケース区分
以下の3ケースに分け、それぞれについて事業採算性を確保できる規模をシミュレーションした。
1) 小規模独立経営タイプ
NPO団体等による極力経費を抑えた小規模な経営を想定している。管理センターへの集中管理委託、同システムによる車両管理設備(鍵授受等設備)は導入せず、専ら人手によって運営するものである。
2) 関連他業種運営タイプ
事業化モデルであるが、単独事業者というより関連他業種からの参入が想定される。管理センターへの集中管理委託、同システムによる車両管理設備(鍵授受等設備)を導入することによって事業の効率化を図る一方、営業等規模の拡大等を狙い有人で運営するものである。
3) 住宅関連付帯サービス
マンション等の付帯サービスとしてのカーシェアリングを想定している。管理センターへの集中管理委託、同システムによる車両管理設備(鍵授受等設備)を導入し、原則無人で運営するものである。
[4]諸費用の考え方
1) 各ケース原則共通
・ 車両維持費:車両点検等のメンテナンス費用、修繕費用を想定。20,000円/月台。
・ 車両リース料:昨年度の検討数値を踏襲。34,020円/月台。
・ 保険料:昨年度の検討数値を踏襲。75,000円/年台。
・ 租税公課:車両にかかる租税公課はリース料に含まれているため見込まず。その他は些少につき0円/年。
・ 燃料費:昨年度の検討数値を踏襲。7.6円/km。
・ その他費用:駐車場代40,000円/月台、その他経費(光熱水費等)10,000円/月台を想定。計50,000円/月台。
・ オペレーション代:管理センターへの集中管理システム委託。システム普及後の金額を想定し、100,000円/月。
・ 管理設備リース代:上記システムによる車両の鍵授受等設備(実験より簡易)のリース代。システム普及後の金額を想定し、10,000円/月台。
・ 支払利息:資金不足が生じた場合には運転資金借入を想定(利率3%/年)。
    (なお、余剰資金に対しては受取利息(利率0.1%/年)を想定。)
 
2) 各ケース個別
 □小規模独立経営タイプ
・ 人件費:1名常駐想定(1日8時間、1,000円/時程度)。250,000円/月。
・ 地代・家賃:机・電話等最低限の事務所スペースを想定。50,000円/月。
 □関連他業種運営タイプ
・ 人件費:規模が小さいうちでも、経営、営業等を担う人材として従業員を確保(従業員1名(40万円/月人)、アルバイト1名(24万円/月人))。なお、規模が拡大したら、従業員2名、アルバイト2名に増員。
・ 地代・家賃:相応の事務所を想定。200,000円/月。
(注)ただし、以上には、事故等(代車等)のリスク対応は想定していないので、実際の事業化に当たっては、それらの費用を追加的に見込む必要がある。
 □集合住宅管理タイプ
・ 人件費:計数管理等想定(外注等)。100,000円/月。
・ 地代・家賃:マンション共用スペース利用(無償)。
・ その也費用:駐車場代を10,000円/月台に軽減。計20,000円/月台。
2.シミュレーションの結果(初年度のみ)
会員数
車両台数
小規模独立運営タイプ 関連他業種運営タイプ 住宅関連付帯サービス
50
3
250
10
100
4
1,600
64
50
3
100
4
〈〈損益予想〉〉
収入計
5,349 19,083 7,632 122,132 5,349 7,633
営業収入
余裕金運用益
5,349
0
19,080
3
7,632
0
122,112
20
5,349
0
7,632
1
支出計 8,091 18,497 17,834 121,980 6,149 7,399
人件費
地代・家賃
車両維持費
車両リース料
保険料
租税公課
燃料費
オペレーション代
管理設備リース料
その他費用
支払利息
減価償却費

税引前損益
法人税
税引後損益
3,000
600
720
1,225
225
0
499
0
0
1,800
22
-

-2,742
0
-2,742
3,000
600
2,400
4,082
750
0
1,664
0
0
6,000
0
-

586
264
323
7,680
2,400
960
1,633
300
0
666
1,200
480
2,400
116
-

-10,202
0
-10,202
15,360
2,400
15,360
26,127
4,800
0
10,652
1,200
7,680
38,400
0
-

153
69
84
1,200
0
720
1,225
225
0
499
1,200
360
720
0
-

-800
0
-800
1,200
0
960
1,633
300
0
666
1,200
480
960
0
-

235
106
129
受入保証金 1,250 6,250 2,500 40,000 1,250 2,500
(注)車両、設備等ともリースを想定したため、減価償却費は発生しない。
3.評価
□車両の使用は平日、土日祝日とも実質的にほぼフル稼働という極めて理想的な水準、料金についてはアンケートによる平均値(上下カット)を適正料金水準としてシミュレーションを行った。ただし、年会費、時間料金はアンケートの最頻値を上回る水準となっている。
  想定した車両の使用状況は、利用者層の拡大、法人需要の取り込み等による平日の利用促進、料金水準の柔軟化による夜間・早朝の利用促進等工夫次第では決して達成不可能ではなかろう。また、料金にしても、マイカーを所有するのに比べればかなり低く、想定地区における駐車場確保の困難性も勘案すれば、必ずしも利用を阻害する水準とは言えない。
 
□以上を踏まえ、ケース区分別に結果をみると、以下のとおりである。
・ 小規模独立経営タイプ、住宅関連付帯サービスについては、採算規模は十分に可能な水準であると考えられるが、軌道に乗るまでに相応の時間を要することが予想されるため、後述の初期段階での財政等の支援策が普及・促進の一つの鍵となろう。
・ 関連他業種運営タイプ(事業化モデル)については、採算規模は大きく、現状では単独での事業展開は相当難しいと言わざるを得ないが、その事業特性を踏まえた他業種からの参入、多角化的展開は十分に期待できよう。しかしそれには、財政的支援に加え、各種の規制を緩和するとともに、併せて後述のように制度整備を図ることによって事業参入の容易性を確保することが喫緊の課題となろう。
 
 なお、本シミュレーションはあくまでも都心および都心周辺を想定したものであり、他の地域に置き換えて考える場合には、料金水準、想定する使用状況、諸費用とも、新たに設定することが必要となる。








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