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V.カーシェアリングの普及に向けて…課題等
有償のカーシェアリング利用という今回の実験で、利用者、運営側双方にとってさしたる不都合が生じることもなく、利用面、運営面での問題はないとの結果を得た。
しかしながら、採算面では、実験規模での収入、料金では、相当条件を整えないと成立しがたい事業であることは事業採算性の検討の章でも示してきたとおりである。普及するために必要な方策や諸課題について改めて整理する。
[1]社会的認知…社会実験等さらなる経験の蓄積と社会啓蒙・情報提供の重要性
・ 社会啓蒙
まず第一に必要なことは、カーシェアリングの存在を一般に認知してもらうことである。その際、個人には経済的な車の利用方法であること、社会としては地球環境、都市環境面での効果が期待できることをアピールする必要がある。
一般にカーシェアリングが受け入れられるよう、社会としてサポートする環境づくり、世論づくりが重要と考えられる。
 
・ 様々な実験の展開の必要性
半世紀以上に亘り、日常生活に深く組み込まれているマイカーからカーシェアリングに転換させるためには、今後も社会実験や試行的な運営等の経験を積み重ねていくとともに、実験自体にアピール性を持たせ、新しい車の使い方を社会に定着させていく努力を継続することが欠かせない。
ただ数多く実験を行なえばいいというものではなく、条件や環境を変え、戦略的に狙いを定めて展開することが重要である。
次のステップとして検証が期待される懸案事項には以下がある。
1) 休日と平日の利用を調整する料金体系
2) 利用度の異なる会員それぞれに対応する料金体系(月会費と利用ごとの料金)
3) 居住者を対象とするとともに業務利用も考慮した地区設定
4) 各種ビジネスモデルに対応した試行
[2]制度整備…規制緩和あるいはカーシェアリング通達等の制度整備の必要性
現行制度では、マイカー以外の車を有償で共同利用するという方法は、事実上レンタカーしか想定されておらず、カーシェアリングの存在以前の状況にあるといってよい。本実験でも、制度的にはレンタカーの通達等の範囲内で、多少の拡大解釈をして進めざるを得なかった。これまで想定していなかったシステムを旧来の制度の枠組み内で対応させることには無理がある。マイカーに準じた枠組みで扱い、共同で利用するという観点から安全性の確保等に配慮するという考え方が望まれる。
カーシェアリングの通達が出るとすると、カーシェアリングが社会に認知されて社会的支援の環境が生じるといえ、効果は大きい。
 
■レンタカーと車の共同利用の違い
  レンタカー 車の共同利用
利用者 不特定の顧客 会員等限定
利用車種 多様 限定されている
利用時間 半日か1日単位以上 短時間が中心
利用頻度 繰り返しは少ない
(しかし、業務利用が増えている。)
週に何度も利用する
事業者 レンタカー専門会社
(必要時の一時的な関係)
組合・NPO・団体・企業/公的団体
(会員という形で常時関係)
営業(貸し渡し) 有人、営業時間 無人が原則、24時間
貸し渡し場所 営業所 近隣駐車場
貸し渡し契約 毎回契約 会員加入時契約
その他 企業活動
レンタルというイメージ
互助会的あるいは公共サービス
自分の車の延長感覚/公共交通的利用
 
レンタカーと定義をはっきり区分した上で、レンタカーの通達をはじめとする諸制度の内容と対比して車の共同利用の課題点を詳細にチェックし、制約項目を洗い出すことも無駄ではない。しかし、車の共同利用は現行制度では想定していないシステムであり、むしろ個人所有の制度から出発し、複数で利用するとどのような問題があるのかという視点で考える方が実際的と思われる。本実験は、現行法の範囲内で行わざるを得なかったが、その過程で障害要因となりうる項目として以下のものがあった。
 
・ 貸し渡し時の本人確認 (24時間無人貸し渡しのため)
・ 車両整備 (10両以上保有時の整備管理責任者の選任義務はコスト面の問題)
・ 保管場所2km以内 (相当台数保有時に複数の事務所設置はコスト面の問題)
・ 車検期間 (マイカーに準じることはできないか)
 
なお、レンタカーの枠内でも、免許証の確認、約款の取り交わし、貸し渡し証の携行、日常点検は柔軟に運用できそうなので、大きな障害にはならないと考えられる。
 
車の共同利用に関する法制度の整備にあたっては、ハイテク指向で大規模技術開発型のパブリックカーを前提とした整備に留まることなく、組合形式等を含め、ローテクで草の根的な小規模運営が主となると想定されるカーシェアリングに配慮した整備がすすめられることを期待する。
[3]財政等支援・・・初期段階の支援の重要性
・ 補助金、減免措置等
 カーシェアリングの普及を目指すとき、最も重要なものは財政面の支援である。これは、事業採算性の検討でも確認した。
カーシェアリングの社会的効果として、
・ 交通量の減少、エネルギーや資源の有効利用、廃棄物の削減等による環境負荷の軽減
・ モビリティー機会の増大による都市交通環境の改善と経済活動の活性化
・ 都市空間の有効利用と関連施設整備費等の削減
などがあげられる。
環境改善効果から見れば、通常のガソリン車でも低公害車や低燃費車であれば、車両の導入に対して補助を積極的に行うことが期待される。
補助金の支給、事業税や自動車関連諸税の減免措置などの直接的な財政支援策の他に、制度面では、車両の整備費、保険料、諸手続費の軽減に結びつくような環境整備、有利な融資条件、利子補給なども、運営に関わる諸費用の軽減をもたらすものとして、大いに期待される。
 
・ 初期段階の支援の重要性
初期段階が厳しい共同保有に根ざした小規模事業では、軌道に乗るまでは様々な支援が重要で、ここがカーシェアリングが社会に浸透するためのポイントとなる。事業採算性の検討でも、会員数の少ないときは赤字であったように、事業を立ち上げたばかりで、会員数が少ない初期段階の支援が普及の要である。
参考となるのが、パリ最初のカーシェアリング事業、ケース・コミューン(CaisseCommune)である。フランスでは、車はステータスシンボルであるといわれる。また、公共セクターの役割が重要で、カーシェアリングよりもPRAXITELやLISELECに示されるように、電気自動車を使ったパブリックカーに関心が先行しているなど、我が国と似通った点がある。このケース・コミューンは、組合的な組織からスタートしたが、自動車メーカー(車両提供、24時間の予約対応等)とパリ市(駐車場の提供、コントローラ設置場所の提供等)の共同事業者的な関わりでの支援と、交通と環境問題への戦略的な国庫補助制度PREDIT(フランス公共交通研究・革新ナショナルプログラム)が支えとなり、近隣諸国に比べ遅ればせながら、規模を拡大し成功しつつある。
その他、アメリカのポートランドでもカーシェアリングのスタート時の研究調査費に加え、少なくとも初年度は公的な資金支援等があった。ボストンで2000年に誕生したZipcarは、純粋な民間事業あるが、最近、自治体から無償、または格安料金で駐車場の提供を受けている。さらにワシントンD.C.圏の複数の自治体は、カーシェアリングヘの入会を促進するための補助金を支給しており、スイスのエネルギー2000やEUにも補助金支給の実績がある。
このように、カーシェアリングの初期段階に公的部門や民間部門(自動車メーカー他)が支援する例は少なくない。我が国においても、社会的効果の期待できるカーシェアリング普及のために、各方面からの支援が望まれる。
 
<参考>
Caisse Commune(ケース・コミューン)……フランスのカーシェアリング
沿革: 1998年組合組織として設立。1999年、交通省、ADEM(環境事業団及びエネルギー省)とルノー社のサポートで会社化。1999年7月〜2001年3月、PREDITという交通の先進的プロジェクトを支援する国の補助とパリ市の支援を受け、社会実験を実施。その後事業化。
規模等: 2001年9月時点 車50台、会員600人と飛躍的に増加している。
  近々全体で13個所のデポを提供することが予定されている。(シングルポート)
  車両はルノーの小型車(天然ガス車、ガソリン車)
  ドイツ語圏のカーシェアリングの普及と同じ考え方で普及することは難しいと考えており、むしろ、公共交通の一環と強調している。
  鍵の授受と利用時間の記録はICカードにより、走行距離は自動の記録装置によりすべてデジタル化されている。
  予約は電話のみで、24時間対応している
料金: 2種類の料金体系がある。標準的な車を利用した場合、1時間220円、1km30円
  ただし、深夜12時から朝7時までは無料。
[4]その他
・ 保険
現在、カーシェアリングの保険はレンタカーと同等に扱われているため、高い料率となっている。レンタカーとの違いを明確にし、費用軽減をはかりたい項目である。事故率などの実績がないため(ちなみに、王子の実験では約300件の貸し渡し回数に対し、1.5件の事故が発生。すなわち0.5%の事故率)、当面は合理的な保険料率の判断が難しいと思われるが、保険会社間の競争により、マイカーとレンタカーの間で料率が設定されていくと考えられる。
利用者がある程度限られているので事故率が少ないと想定できても、普及初期の段階では安全性を見てレンタカー並みの保険料率が適用される恐れもある。あるいは、利用者層が特定できるので、事故歴や年齢による入会制限等の方法で保険料負担を軽減する余地もある。いずれにせよ、特に初期段階での費用削減が重要なだけに、保険についても社会としての支援が期待される。
制度面では、(ア)ドライバー個人個人が保険に加入する方法、(イ)会員全員を基本保険契約でカバーし、更に保障を希望する会員にはオプションの負荷保険等を選択させる方法など、これからの新しい取り組みを期待する。
カーシェアリングの環境への効果を勘案して、企業イメージの向上をはかるために割安の保険料を設定する保険会社が出てくる可能性もある。こうした動きを促進するためにも、カーシェアリングの制度的な認知が期待される。








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