4.考察
今回の実験は、期間や規模では十分とは言い難いが、最初の本格的実験として期待していた様々なデータが得られ、一定の成果をあげることができた。
[1]利用料金について
昨年度の検討に従い、利用料金は距離料金25円/km、時間料金200円/時間と設定した。これは、日本では利用料金として非常に安く感じられるものの、将来カーシェアリングの運営が全く不可能というほど非現実的な料金ではない。カーシェアリングが一般に普及した時には実現可能な水準であると考えている。この料金は昨年度の調査で示したように、ドイツのブレーメンのカーシェアリングとほぼ同料金である。多少の社会的支援がある場合、あるいは、多少の有利な条件を備えた事業者の場合には実現可能な価格であると考え、実験時の料金とした。
○利用者が適当と考える料金
実験後のアンケートからは、以下が適正料金という回答があった。
入会金:27,000円 年会費:17,000円(すなわち月会費1,420円)
距離料金:35円/km 時間料金:300円/時間
■料金設定比較
場所 |
時間料金(円/時) |
距離料金(円/km) |
月会費(円/月) |
王子(当初実験料金) |
200 |
25 |
0 |
王子アンケート |
300 |
35 |
1420 |
ブレーメン |
196 |
22 |
850 |
ミュンヘン |
225 |
17 |
850 |
スイス |
185 |
37 |
920 |
シアトル |
242 |
38 |
2420 |
ボストン |
700 |
30 |
756 |
○価格変更による影響
価格差による利用の変化を観察するため、11月17日より1300cc車の料金を引き下げた。(時間料金25%、距離料金20%の引き下げ)。
・ 引下げ前後のそれぞれ1か月間を比べる(10月期と11月期を比較)と、1回当たりの走行距離に変化はないが、1300cc車の利用回数が31回から52回に増加し、1800cc車は76回から64回に減少している。走行距離では、1300cc車が634kmから805kmへと27%増加し、1800cc車は1448kmから1278kmへと12%減少した。
・ 引き下げ幅と利用増の相関関係はわからないが、価格が利用に及ぼす効果は顕著であることが認められた。
■10月期と11月期の利用の比較
10月期車種別利用 |
  |
総利用回数 |
平日 |
土日祝 |
総利用時間 |
平日 |
土日祝 |
総走行距離 |
平日 |
土日祝 |
1800cc車 |
76 |
43 |
33 |
175時間55分 |
91時間35分 |
84時間20分 |
1448 |
650 |
798 |
1300cc車 |
31 |
9 |
22 |
93時間00分 |
16時間58分 |
76時間02分 |
634 |
133 |
501 |
計 |
107回 |
52回 |
55回 |
268時間55分 |
108時間33分 |
160時間22分 |
2082km |
783km |
1299km |
11月期車種別利用 |
  |
総利用回数 |
平日 |
土日祝 |
総利用時間 |
平日 |
土日祝 |
総走行距離 |
平日 |
土日祝 |
1800cc車 |
64 |
29 |
35 |
210時間58分 |
100時間37分 |
110時間21分 |
1278 |
579 |
699 |
1300cc車 |
52 |
16 |
36 |
120時間43分 |
27時間20分 |
93時間23分 |
805 |
205 |
600 |
計 |
116回 |
45回 |
71回 |
331時間41分 |
127時間57分 |
203時間44分 |
2083km |
784km |
1299km |
■利用回数の変化
■利用時間の変化
■利用距離の変化 (10,11月期)
[2]1台当たり会員数の推定
カーシェアリングの車1台当たりの会員数の適切なレベルはどこにあるのか、評価基準についての決め手はない。また、本来の需要に対してどの程度の充足度であれば、利用者が受け入れ、かつ事業を継続できるかなど、社会として相当の経験をしていかなければ現実的な数字は見い出せないだろう。しかし、今後の参考のために、利用実態から適正と思われる1台当たり会員数について、実験の結果から検討する。
今回は余裕のある台数で実験を行った。あまり台数が少ないと予約が重なってしまい、その結果利用が控えられ、潜在的な需要実態がつかめなくなる。そのような危険性を回避するためにも、実験目的にかなった台数だったということができる。実験結果から43人の会員に対してどの程度の台数を用意することが適当かを考察する。(同家族内で2人会員となった世帯が12世帯もあったことなどの諸事情もあり、実際に利用した人数は34人であった。)
利用の諸データから、同時に2台、3台、4台使われていた時間の分布をみて推測を行う。
まず、4台同時に出払っていた時間は3台では不足していた時間帯と考え、3台あるいは4台同時に使われていた時間の合計が、2台では不足していた時間というふうに考えた。
・ 4台合計の総延べ利用時間は834時間46分で、実験期間の総時間(4台分7968時間)の10.5%にすぎない。
・ まず、2台で不足した(すなわち3台、または4台の同時利用)のは土日休日で33日、延べ64回、合計70時間30分であり、2台で運営していたら多少不満があったかもしれない。しかし、平日だけで見るとわずか3日、3回、3時間で、事業的に問題が生じない程度と考えられる。さらに、3台で不足した(すなわち4台とも出払った)のは、土日休日だけの12日、15回、13時間30分であった。
以上から、今回の実験では1台当たりの適切会員数は、平日の利用を主に考えると2台、休日の利用を主に考えると3台で十分であったということができる。
3台だった場合、今回の実験では休日利用のうち、11.3%(70.5時間/626時間)は使えないことになるが、この程度の不便さであれば3台で十分であると考えられる。
一台当たり会員数は、平日重視で週末に利用の制約があってもよいとする場合、実利用ベースで17人/台、多少週末に制約がある程度の場合で11人/台が適正と推定される。
■車両台数と同時貸し渡しの関係
  |
2台以上の利用
(1台で不足した)
日数、回、延時間 |
3台以上の利用
(2台で不足した)
日数、回、延時間 |
4台同時利用
(3台で不足した)
日数、回、延時間 |
1台当たり会員数 |
43.0人/台 |
21.5人/台 |
14.3人/台 |
(実利用者数当たり) |
(34.0人/台) |
(17人/台) |
(11.3人/台) |
計 |
79日 |
168回 |
181:00 |
36日 |
67回 |
73:30 |
12日 |
15回 |
13:30 |
  |
95% |
日に2.0回 |
9.1% |
43% |
日に0.8回 |
3.7% |
14% |
日に0.2回 |
0.7% |
土休日 |
59日 |
144回 |
150:00 |
33日 |
64回 |
70:30 |
12日 |
15回 |
13:30 |
  |
227% |
日に5.5回 |
24.0% |
127% |
日に2.5回 |
11.3% |
46% |
日に0.6回 |
2.2% |
平日 |
20日 |
24回 |
31:00 |
3日 |
3回 |
3:00 |
0日 |
0回 |
0:00 |
  |
35% |
日に0.4回 |
2.3% |
5% |
日に0.05回 |
0.2% |
0% |
日に0回 |
0.0% |
注) 合計83日(平日57日、土日休日26日)、1992時間(平日1368時間、土日休日626時間)
(拡大画面: 69 KB)
[3]得られた基本情報
今回の実験では、以下に示すいくつかのデータを得ることができた。
利用 |
1日当たりの平均利用回数を比較すると、休日は平日の3.2倍の利用がある。(平日2.2回/日、休日7.1回/日) |
|
1回当たりの利用の平均は、2時間39分、19.2kmである。 |
|
最も利用された車の1台当たりの利用の平均は、休日では1日1.8回転、7時間01分、62.4kmであった。 |
|
カーシェアリングにより、マイカー所有者の車利用は大幅に減少する。 |
|
利用料金の設定にもよるが、1台当たりの会員数は10〜20人程度が目安である。 |
料金 |
利用者から見た適正料金は時間料金300円/時、距離料金35円/km程度と考えられている。 |
|
保証金27,000円、年会費17,000円程度が妥当と考えられている。 |
|
料金水準は利用者行動に大きな影響を及ぼす重要な要素である。 |
運営 |
コミュニティーがある程度明確であれば、共同利用に伴うモラル上の問題、懸念は少ない。 |
|
特殊な事業なので、利用者の運営方法等への理解度は高いと考えられる。 |
将来性 |
共同利用に対する抵抗感は少ないが、参加するかどうかは利用料金等の条件次第である。 |
|
利用頻度の高い人が確実に存在する。 |
|
カーシェアリングの条件次第でマイカーをもつ必要がないと考えている人が多い。 |