報告書の要約
○エコ交通からカーシェアリングへ
当財団は平成11年度からエコ交通の研究を始め、環境面の問題が大きいこれまでの自動車利用を見直し、「新しい車の使い方」を推進することが重要であると考えてきた。中でも自動車の共同利用(カーシェアリング)は、比較的普及が容易で大いに効果が期待できると考え、平成13年度は、カーシェアリング普及のために必要な情報の収集と事業性の検証を目指し、本社会実験を行った。
これまで我が国では、電気自動車を使ったハイテクのパブリックカー等の運用実験は行われているが、今回行ったのは、普通の車の共同保有に根ざした草の根的なカーシェアリングの実験である。
○本社会実験の目的・特徴等
本社会実験は、日本におけるカーシェアリングの第一歩である。車を共同で利用するという形態が受け入れられるかどうか、つまり、我が国におけるカーシェアリングの市場性、需要レベルを探ることを主たる目的とした。需要の有無、利用の傾向などの把握を中心課題とし、社会への効果、運営の現実性なども検証した。
そのため、低公害のガソリン車(低燃費かつ低排出ガス認定車)を使用し、また、利用者から料金を徴収するなど、実際の運営に近い形で実験を行ったことに特徴がある。
実験は、昨年度来準備を進めてきた東京都北区のコスモ王子ガーデンズを主に、公募で採用した東京都三鷹市のシティーコート下連雀団地でも、規模は小さいが類似の方法で行った。
■王子、三鷹両実験の比較
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コスモ王子ガーデンズ・カーシェアリング社会実験 |
三鷹/シティーコート下連雀カーシェアリング社会実験 |
備考 |
実行組織 |
エコモ財団(実施主体)+実験実施グループ |
エコモ財団(実施主体)+早稲田大学交通計画研究室 |
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実施期間 |
2001/9/24〜2001/12/15 |
2001/10/20〜2002/1/19 |
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実施場所 |
東京都北区
・民間分譲マンション(320戸)
・近隣時間貸し駐車場4台分 |
東京都三鷹市
・公団賃貸団地(3棟)
・敷地内駐車場2台分 |
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協力者数 |
43名
Aグループ:16
Bグループ:5
Cグループ:22 |
28名(19)
Aグループ:3(1)
Bグループ:6(4)
Cグループ:19(14) |
()内はスタート時 |
車両 |
4台(1800cc車2台、1300cc車2台) |
2台(1300cc車) |
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料金 |
時間(h) |
200円/h(150円/h) |
200円/h |
()内は11/17以降の1300cc車の料金 |
距離(km) |
25円/km(20円/km) |
25円/km |
予約 |
電話9〜18時
インターネット24時間 |
電話9〜17時
インターネット24時間(iモード対応) |
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貸し渡し |
ICカード対応の駐車場コントローラ内に鍵を配備(24時間無人貸し渡し) |
事前に会員に合鍵を配布(24時間無人貸し渡し) |
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データ収集方法 |
ICカード(利用時間)
手記入(走行距離、目的) |
手記入(利用時間、走行距離、目的等) |
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その他 |
アンケート:3回、交通日誌:4回、ニューズレター:7回 |
アンケート:2回、交通日誌:4回、ニューズレター:4回 |
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■実験からの主要データ等
1日当たり平均 |
回数 |
3.8回/日 |
1.3回/日 |
時間 |
10時間03分/日 |
3時間17分/日 |
距離 |
72.3km/日 |
28.9km/日 |
1台当たり平均 |
回数 |
78回/台 |
61回/台 |
時間 |
208時間41分/台 |
150時間51分/台 |
距離. |
1500km/台 |
1328.9km/台 |
1人当たり平均 |
回数 |
9.2回/人 |
4.4回/人 |
時間 |
24時間30分/人 |
10時間47分/人 |
距離 |
176.4km/人 |
94.9km/人 |
1回当たり平均 |
利用時間 |
平日2.5時間、
休日3時間 |
平日2時間、
休日3時間 |
利用距離 |
平日16.3km、
休日21.3km |
平日17.2km、
休日25.5km |
グループ別 |
距離 |
A:32B:43C:98km/人・月 |
A:0B:54.4C:73.6km/人・月 |
利用ピーク |
曜日 |
土日に集中 |
日曜に集中 |
時間 |
平日15時、21時
休日13時 |
平日17時
休日15時 |
利用者が適当と思う料金 |
保証金 |
27,000円 |
23,000円 |
年会費 |
17,000円 |
9,500円 |
時間料金 |
300円 |
240円 |
距離料金 |
35円 |
21円 |
(注)Aグループ:カーシェアリングに乗り換えることを想定するグループ(実験中はやむを得ない時以外マイカーを使わないよう要請)Bグループ:カーシェアリングをセカンドカーとして利用するグループ(実験中もマイカーの利用可能)Cグループ:マイカーを所有していないカーシェアリングの利用者グループ
○実験データから得られた基本情報…王子の結果を主に(カッコ内は三鷹)
・ 王子、三鷹ともに、対象世帯の約1割が実験協力者となった。また、実験後のアンケートでは、ほとんどの人がカーシェアリングは便利であると評価し、条件次第で参加すると回答した。車所有者も96%が条件次第で車を手放すと回答した。さらに、回答者が適当と思う利用料金も、実験時の水準を上回るものであった。本実験で見る限り、カーシェアリングは人々に受け入れられると判断できる。
・ カーシェアリング導入により車所有者の車利用が減少し、その結果、他の交通手段もあわせた移動回数の合計が14%減少した。車非所有者の移動回数の合計は変化がなかった。全体で車利用が減少し、代わって徒歩と自転車利用が多少増加したが、公共交通への影響は認められなかった。
・ 実験期間83日間(92日間)を通して、4台(2台)の総利用回数は312回(122回)、総利用時間834時間46分(301時間42分)、総走行距離5997km(2657km)であった。
・ 一日当たりの利用でみると、平日は2.2(0.89)回/日、休日は7.1(2.19)回/日、平均して3.8(1.33)回/日であった。
・ 1回当たりの利用でみると、平日2時間24分(約2時間半)、16.3(17.2)km、休日2時間51分(約3時間)、21.3(25.5)kmで、多少休日のほうが多かったとはいえ、概ね2時間半、20kmの利用ということができる。
・ 1回当たりの利用で最も集中していたのは、距離では10〜15km、時間では30分から1時間である。
・ 一日で最も利用されたのは1号車(1800cc車)の休日で、平均1.81回7時間01分であった。将来のカーシェアリングを考えるとき、現実的に最も使われる数字の目安になると考えられる。
・ 途中で利用料金を下げたら、利用の顕著な増加が認められた。
・ 1台当たりの適正会員数は、平日利用重視で週末利用に制約があっても良いとする場合、実利用ベースで17人/台、週末利用に多少の制約がある程度の場合、11人/台であると推計される。
○事業採算性
アンケートから得られた適当と思われる料金を勘案して料金設定をし、利用率は1号車(1800cc車)で達成した休日の実績を採用した。この理想的な設定において、初年度に事業採算性を確保できる規模は以下のとおりである。
・ 小規模独立経営タイプ:会員250人、車両10台
・ 関連他業種運営タイプ:会員1600人、車両64台
・ 住宅関連付帯サービス:会員100人、車両4台
小規模独立経営タイプ、住宅関連付帯サービスは、規模的に成立の可能性は十分あるが、初期段階の支援が重要である。関連他業種運営タイプは、規模を大きくしないと単独の事業展開は難しく、財政的支援や制度整備等が望まれる。
○カーシェアリングの効果
カーシェアリングが普及すると、1台の車を10〜20人程度で利用するので、車の絶対数が減少する。生産資源、エネルギー、ゴミの削減とともに、都市空間における車のための膨大な面積の縮小が期待できる。
実験では、マイカーからカーシェアリングに“転換”したグループ(Aグループ)の車での移動回数が、約7割減少している。カーシェアリングヘの転換は、車の使用についてのコスト意識を高めることから、カーシェアリングの普及により車の使用量の減少が期待できる。
(ちなみに、スイスにおけるカーシェアリングの調査では、従前に車を所有していた人が、カーシェアリングヘの転換によって、車の使用量が、年平均約9,300kmから2,600kmへと72%近く減少していると報告されている。)
(出所:太田勝敏“マイカーに代わる新しい交通手段―カーシェアリングの意義―”,交通工学2001年3月号,Vol.36,No.2)
○普及に向けて
実験から、カーシェアリングは普及の初期段階での採算性は厳しいが、大きな社会的効果が期待できる事業であると言えるだろう。カーシェアリング普及のためには、社会的認知(社会啓蒙への努力と様々な実験の展開)、制度整備(レンタカー、パブリックカーとは異なった特徴を持つカーシェアリングに配慮した法制度の整備)、財政等支援(公的補助や企業の援助等)が必要である。