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3 通航の安全を確保する沿岸国の義務
 領海における通航権を保障するという観点にたって、沿岸国のこれを確保する責任が論じられた国際的な事例は多くないが、コルフ海峡事件(本案)判決と、領海・接続水域条約の草案を作成した国際法委員会の場において、この点が論じられている。
(1)コルフ海峡事件判決 The Corfu Channel case(Merits), Judgement of April 9th, 1948:
1949年の国際司法裁判所の「コルフ海峡事件判決(本案)」は、領海通航中の英国軍艦が、コルフ海峡に敷設された機雷に触れて被った損害について、沿岸国の領域使用の管理責任を認めたものである(3)
 
(ア) まず、判決は、アルバニア領海内における機雷の敷設を沿岸国であるアルバニアが了知していたこととその責任について、次のように論じている(4)
 アルバニア領海内で発見された機雷原が英国軍艦に犠牲となる爆発を引き起こしたという事実だけを根拠として、アルバニア政府がその機雷の敷設を知っていたはずだといえないことは明らかである。国際慣行が示すように、一国が自国の領土または領海内で国際法に抵触する行為が起こった国は、説明が求められる。その国は、その行為の状況及び原因者を了知しないと答えることで自己の責任を免れることはできない。他方、一国がその領土と領水に対し支配を行使しているという事実だけから、その国がそこで行われたいずれかの国際違反行為を当然に知っていたし、また知っていたはずだとか結論することはできない。この事実は、それだけで当然にかつ他の事情とは無関係に「一応の」(prima facie)責任を引き起こすものではないし、挙証責任を転換させるものでもない。
 このように、判決は、領域内で国際違法行為が発生したからといって、領域国が当然にそれを了知していたとすることはできないとした。これは、爆発行為そのものからただちに領域国の過失を推定し、領域国の責任を問うことができないことを意味している。
 
(イ) しかし、判決は、諸事実から見て1946年10月22日の爆発の原因となった機雷の敷設は、アルバニア政府の了知なしには成し遂げられなかったとの結論を導いている。そのうえで、次のとおりの判断を下した。すなわち、このような了知に基づくアルバニアの義務としては、一般の航行の利益のために領海内での機雷の存在を通報すること、とくに接近中の英国軍艦に対し急迫した危険を警告することである。これらの義務は、戦時に適用される1907年ハーグ条約に基づくものではなく、一般的かつ充分に承認された諸原則、すなわち平時における人道の基本的考慮(elementary considerations of humanity)、海上交通自由の原則(the principle of the freedom of maritime communication)のほか、「他国の権利(無害通航権)に反する行為のために自国の領域が使用されないようにする義務(obligation not to allow knowingly its territory to be used for acts contrary to the rights of other States)」に基づくものである、という(5)
 このことは、沿岸国が負う義務は、領海内の通航に対する危険を了知するかぎり、他国の権利(無害通航権)を侵害する行為のために自国領域たる領海が使用されることのないようにする義務を負うものであるが、同時に危険の存在について通報し警告するという「実施・方法の義務」を負うにとどまるのであって、それ以上に侵害行為の結果発生について「結果の義務」を負うものではないことを示している。この当時において、領海内の外国船舶の通航の安全を確保するという沿岸国の責任(領域使用の管理責任)について、そのレベルと内容を明らかに示したものと見なければならない(6)








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